余所事の話 小さな恋の鼓動
マールとスミシー、ゴドウは馬を潰し、魔力を全力で使いながらリビンスキーのいるルイネへと駆けつけた。
滅多に無いことであったが、合流した夜、四人は同じ卓を囲み、自らの幸運に祝杯を掲げた。
四人の頭の中にあることは、強奪を今回成功させればいい。それだけだった。
スミシーとゴドウはそれに乗じてマールに言い寄ってきたが、常日頃の通りマールは、やんわりと含みをもたせるようにして、相手にしなかった。
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次の日マールは初めてジロ・ガルニエを視認し、少し驚いた。
顔立ちがマールの好みにピッタリと当てはまった。
決して美男子ではなかったが、マールはいい顔をしてると冷静に思った。
自分の人生で初めて異性に興味が湧いた。こんな出会いでなければ、とさえ思った。
ただ、人類救済の英雄の一人として噂に聞いたガルニエは単なる普通の騎士のように見えた。
監視を続ける中、弱兵揃いの王国騎士としても、ジロ・ガルニエはやや軽薄に見え、そして国家騎士としての重々しさが足りないとマールは思った。そして段々とジロ・ガルニエへの興味を失っていった。
もっともジロ・ガルニエに人気があったのは聖女エリカの護衛として『暮れの国への道行き』から史上初めて生きて帰還してからの半年ほどでしかなかった。
帰国後は素行不良や王国騎士との度重なる私的な闘争により、時には不自然な近衛騎士団の死などが度重なり、名声は地に堕ちた。
その名声に最後に止めを刺したのは、ガルニエ家当主のサイラス・ガルニエがジロ以外の一族を連れてカプールに亡命した大事件が発生した時だった。
魔界から帰国してきたジロ・ガルニエは、日の大半を大工仕事に費やし、王都に行っても、大工道具の仕入れ以外の行動を起こさず、ガルニエの唯一の固定資産である丸太小屋の修理すること中心の生活だった。
生まれながらに貴族として育った人間らしく、ガルニエは不器用に木を切っては、失敗をくり返すといった様子を、マールは監視の任務が与えられた日には終日、見させられた。
ガルニエの今の生活は一世騎士としても、底がないほど落ちぶれており『力の信奉者』たるマールの目には、とことん惨めに映った。
騎士、軍人としてあるまじき事に、二週間ほどの間、ジロは一度も剣の手入れはおろか、素振りすらもせずにただただ、下人のように日々の生活に追われていた。
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そんなある日、王都にいたマールの元に、聖女エリカ・エピデムと、秘密結社内でもペール王国で、今後の最重要人物と目されている親衛隊員のリーベルト・リスマーがターゲットを訪れたという報告を聞いた。
そしてターゲットは再び王都に向かった。小屋の買出しはその数日前に済ませており、身支度も買出しのソレではなく、明らかに正装をしている様子だったという。
その時監視に当たっていたスミシーが、ジロに幾度かの強力な魔力反応があったと興奮した様子を隠そうともせずに、ルイネ王都ないの秘密結社のペール支店の店舗に報告を上げてきた。
その報告を元に、リビンスキー・マール・ゴドウ、そしてペール駐在員リーダーの四人は、ターゲットが『魔法剣』の反応を隠せる道具を所持していると結論付けた。
監視していたスミシーからの報告によれば、道中、人気が無くなると、強力な魔法反応を何度か示したという。
「人気がなくなってからという所から、隠し持っているのはほぼ間違いない。封印紙のようなもので、巻きつけてあるから、反応が出ないのだろうな」
「私もそう思う。物が物だけに、何度も確認しているのかしらね? 反応がばれれば、王国に咎められるかもしれないし」
「そうかもな、あるいは……王に献上しようとしているのか?」
四人はその可能性を考え、沈黙した。それは現状では最悪のシナリオだった。




