後始末
必要な情報を聞き出したジロはアルフレッドにも《精神拡散》を施し、よく考えた上で、普段は一切を忘れるが、ジロに会った時には《誘導》が発動する符牒を決め、さらに《誘導》によって様々なルールを作っていく。
その中で、ジロの連絡係には美人の方が嬉しいなとジロは暢気に思い、水部門で副部門長の一つ下の役職である『門番』、副部門以下の人材をまとめる立場にある黒髪が綺麗なマール・ノルズという黒髪の美人にルイネでの、ジロ監視の駐在員にさせるため、動くようにアルフレッドと他の二人にも暗示をかけた。
シカリイクッターという組織は横の繋がりが薄いという事なので、他部門からの働きかけであれば、この希望も通りやすいだろうとの考えによるものだった。
マール・ノルズにはペール王国内で重要な情報やアイテムを与え、他の三人にはそれぞれの『門』とやらでこれから様々な手柄をあげて出世してもらい、ジロに有利な情報を色々と収集させる事にした。
場合によってはジロがこの四人の出世に邪魔な政敵を排除する事もありえるだろうとジロは嘆息した。
「たんなる人間から今の身になってから、どんどんと成さねばならぬ事が雪だるま式に増えていく気がする……」
物言わぬ《精神拡散》を施された四人と六体の死体を前に、ジロは愚痴を吐く。
情報を奪い終えたら四人には各門の部門長とやらに収まってもらうのが一番だと判断した。
ただ、今回の参加者の中に、もっとも力のある組織のトップ、シカリークッターという組織名そのものの役職につくという風部門の人材が襲撃部隊の中にいなかった事にわずかな失望を覚えた。
◆
様々なルールを暗示としてかけ終えたジロは、記憶の改竄をはかった。
「お前達は、この森での戦闘は一進一退の攻防で、お前達が追っていた『魔法剣』をジロが見事に使い、辛くもお前らの襲撃を退けた。
「その後ジロは実行部隊八人の内六人の武器を奪い、離れて監視する幹部四人の存在には気づかず、森を離れ街道警備隊に報告し、戻った時には幹部四人が後始末を終え、森にはなんの異常もなかった。
「いや、街道にいた見張りはどうするか……。おい、マールあいつの役割はなんだ?」
「それは……、街道の見張りだけで、通常時においては、いかなる作戦であろうと、常に現場には関わらせません。そして勝敗がどうなろうと、現地駐在員は、一定時間後には各アジトへと引き上げます」
《精神拡散》が効いているマール・ノルズは抑揚のない声でジロの質問に答えた。
「ペールのアジトはどこだ?」
「「「「ルイネ王都の魚屋」」」」
「聞きづらい。マール以外は俺が喋れというまで黙ってろ。ペールのアジトは?」
「ルイネ王都の魚屋が……秘密結社のペール支店です」
「現地駐在員とやらは、アルフレッドの指揮下にはないんだな?」
「はい。ペール駐在員の中のトップの人間の指示でしか動きません」
「どうするかな……殺したのは早計すぎたか……。じゃ、駐在員全員も道連れに洗脳だな。何人だ?」
「私が把握しているのは二人です」
「アルフレッドは?」
「四人知っています」
「その中に、トップはいるのか?」
「四人の内の一人です」
「なら問題ないな。そいつを洗脳して、芋づる式に全員、掌握だ」
「見張りは本来単独で帰る予定だったのか?」
「知りません」
「マールじゃ、ダメか。アルフレッド! 答えろ」
「いえ、われわれ四人と現場の隠蔽を一緒に手伝い、一緒に帰社する予定でした」
「はぁ……なら、また王都へ戻らねえとな。まずはここでの戦った痕跡の隠蔽だな」
四人が驚いたという、二人と二本の巨木を消し炭にした邪の精霊を用いたジロの《火球》の痕跡の後始末から始めた。
木部門の幹部が覚えていた魔法《樹木壁》と呼ばれる一種の土の精霊を用いた行動阻害魔法魔法を見終え、精霊の動きを観察したジロが、死体や恐怖によって色濃く漂うようになった邪の精霊を使い、見よう見まねで《樹木壁》を行使すると焼け跡の上に、一瞬にしてねじ曲がった木が生え、焼土の痕跡を覆い隠した。
実演させた《樹木壁》は一瞬にして藪ができたが持続力はなく、ものの十分もすると枯れ果てた。
ジロが生み出した木は、見た限りではそう簡単には枯れそうになかった。
◆
現場の工作が終わり四人全員を監視位置へと戻らせ、《空間遮断》を破壊する。
死体はゾンビを作り出して森のそばにある沼へと行かせ、沼底で朽ちるまで潜み続けろと命令を与え、ゾンビは沼の方向へと歩き去った。
ジロは初のゾンビ作成によって一種の感動を覚えた。
邪法といわれるこの《死体転生》などは裏の五大精霊を通してみればれっきとした精霊魔法であった。
邪の精霊が抵抗力のなくなった死体に入りこんで擬似的に筋肉を動かしているだけで、幽界での死霊が動かすゾンビとの違いは入ったのが死霊か精霊かの違いだけだった。
(どおりで魔法作成のゾンビは、幽界のゾンビと違って、指示がない限り動かないとされてるはずだ)
また一つ魔法の深淵を覗いたジロは魔法という神秘の術が、どんどんと自分の中で、単なる技術に落ちていく感覚を味わった。
これは剣術や体術というように、魔法も技能であるとわかったので、これからは魔術と呼べるのではないかと思った。
《精神拡散》を解除する。
途端に、ジロは洗脳済みの四人からの敵意のこもった視線を感じた気がしたが、あえて無視していったん戻した死体漁りをして、売却予定の武器五点を集めてる。
そして窪地を後にし、街道へと戻る。
街道警備隊の詰め所がある方向とはまるっきり違う方向に売却予定の魔石武器を隠すために藪に投げ入れた。
面倒であったので、ただ投げ入れただけだった。
洗脳済みの四人はこの行為や、すでにゾンビ化させ歩き去った死体を目撃しているのにも係わらず、気にも留めないよう暗示をかけてある。
それを終え、来た道を戻り、近場の街道警備隊の詰め所へと向かう。
そのままシカリイクッター製の魔石武器持っていけば十中八九取り上げられるであろうし、秘密結社にとっても王国に取られるよりも、ジロが個人的に持っていった方が多少の安堵感があるであろうとの判断からであった。
ジロは街道の詰め所まで戻ると、何者かに襲われ、森でやった戦闘行為を報告し、騎士一人と兵士五人を連れて窪地まで戻った。
予定通り偽りの記憶をもつ四人は後始末をした気になって、立ち去っていた。
見張りは不足の事態になったために、ジロの尾行を頼んであると、駐在員のトップに伝えるよう、アルフレッドに言い含めてあった。
これで多少の時間が稼げ、その隙にシカリイクッターのペール駐在員全員を掌握する事とした。
四人のしたことはと言えば、ゾンビの足跡を消すことと、見張りの喉を切った時の血を隠す程度の作業だった。
窪地の血痕はそのままにしておいたのでジロの報告が狂言ではないという多少の裏付けになった。




