余所事の話 未知の魔法
慎重に調査し、魔法剣を持っていないと確信し、ターゲットを襲撃したが、一人や二人どころか、短時間で八人の部下が全員が骸と化し、准幹部の四人も、現場の隠蔽処理どころか逃亡すらできていない。
背後の結界に気づいてから、リビンスキーは最後の緊急用とされている《念話》を数度試みて、今作戦とは無関係で街道の見張りに配置したルイネ在住の情報局員に向けて、何度も救援を要請したが、情報局員からの反応はまだ返ってきていない。
この緊急時に何をサボってやがるのかと、リビンスキーは生還後に、この事を問題にして情報局員に死で責任を取らせようと決意した。
妨害魔法が働いている様子もないのだから《念話》は通じているはずなのだが、言いようのない恐怖混じりの不安がリビンスキーを襲っている。
そして情報局員が居眠りをしているだけである事を、無意識に祈っている自分に気づいた。
不可解な事に、あのジロ・ガルニエは魔法以外の何物でもない攻撃によって三人を葬り去ったのを、リビンスキーは視認したのにもかかわらず、リビンスキーが張り巡らせた《魔法感知》に一切の反応がなかった。
後方支援の三人を魔法で葬り去った後の、四人目の犠牲者は、ターゲットを警戒していたのにもかかわらず、小指の先ほどの極小の《火球》とおぼしき魔法で頭を吹き飛ばされ剣を奪われた。
それからはターゲットは一度も魔法を使っていない。
予想していたよりは上であった剣の腕で残りの四人を一撃のもとに、斬り殺した。
だが、あれは本当に《火球》だったのか? とアルフレッドは自問する。
火以外の精霊を用いての《火球》もあるが、どの精霊が働いたようにも見えなかった。
例えば自分は土の精霊を用いての《火球》を容易く作り出せる。だが、ターゲットは何をもちいた? 何の精霊の加護があれば、爪の先ほどの炎で、魔法耐性を強めた戦士の頭を跡形もなく吹き飛ばせる?
その答えをリビンスキーは持ち合わせてはいなかった。火部門の秘術である事をリビンスキーは心の底から願った。
《火球》は、ターゲットが指先に集めてた精霊を使ったのではなく、ジロ・ガルニエの指先、内部から《火球|》《・》が飛び出たかのように見えた。
魔力を少量しかもたない人間には不可能な魔法行使だったように見えた。
魔力の発動が見られなかったのにも関わらず、火球は指先から飛び出し、力を行使した。
何度考えてみても、その威力もおかしい。
指先ほどの火球で頭を消し炭にした事例など聞いたこともない。
火の精霊を信奉する火部門長が作り出した極小の火球でも、せいぜいが顔や頭を焼いたりする程度だろうとリビンスキーは推測する。
(誰であろうと、あの小さな火で、あんなに……今目の前に転がる首なし死体のように、頭の無くなった首からの出血が止まるほどの、焼け焦げた傷口など作り出せない)
考えをやめたくとも、リビンスキーの心の奥底から、どんどんと疑念が湧き出してくる。
リビンスキーは窪地中央から離れた、別の地面を見る。
背を向けて逃げ出した三人目がジロ・ガルニエの魔法によって、殺された現場だ。そしてリビンスキーが目を逸らし続けた現場でもあった。
その火部門の精鋭は、突如地面に飲み込まれたように見えた。
まるで土砂でできた土の中の巨人が巨大な手を伸ばして引きずり込んだようだった。
(俺は、土部門のNo.2だが、そんな魔法は知らない!! 上官の部門長ですら、知らないだろう!!)
その魔法が猛威をふるった地面は何事もなかったかのように、下生えの草が生えている。狭い範囲で人一人飲み込まれたというのに、地面は盛り上がりもしていない。
土の精霊を用いた魔法でそんな魔法はあっただろうか? いや、一体どんな魔法を使えば土や石がむき出しにならずに、下生えの草のまま、地面を荒らさずにいる事ができるのだろうか?
土を用いた精霊魔法はすべてはむき出しの土砂に埋もれる。
リビンスキーが知る、土の魔法は全てがそういったものだ。
一人目と二人目は……よくわからない。二人とも隠れていた巨木ごと、突如灰になったようにしか見えない。
その場所には今も黒い灰が握り拳ほどだけ残っている。
とても巨木の全てが焼き尽くされて消えた灰の量ではない。
(古代の伝説の魔法使いハーゼンが行使していたという、古代の魔法というやつだろうか?)
リビンスキーはここにきて、初めて自分が紛れもない大きな恐怖に捕らわれていると気づき、ゴクリとツバを飲み込んだ。
古代魔法を使えるのであれば、なぜこのジロ・ガルニエはペール騎士として……いや、今はさらに序列の低い一世騎士としての座に甘んじているのか?
こんな魔法の使い手であれば、人界の人間社会であろうが亜人社会であろうが、稀代の魔法使いとして引く手あまたとなるのに。
恐怖を感じようとする本能を、理性で否定し続けてきたが、ついに理性の上でもジロ・ガルニエを自分よりも圧倒的な強者と認めてしまい、ガチガチと歯がなる。
それがあまりに大きな音だったので周りを見渡すと、各部門の実力者の三人が白い顔をして歯を鳴らしていた。
俺と同じ結論に達したのだろう、リビンスキーはそう確信した。
その時、半刻前までは単なるターゲットであったり、今は四人全員の恐怖の対象となったジロ・ガルニエが目を開けた。




