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六年前の回想5


ジロはマニー・ガルニエとようやく会う事ができた。

 同じ一族ながら、王城へと務めるガルニエ家当代のサイラスと違い、マニーは精力的に領地と王都を往復しているため、孫とはいえ、ジロとは中々時間が合わなかった。


 ジロは面会の場所を、昔話を聞く時のようにマニーの自室ではなく、王都にある屋敷の執務室に指定した。


 マニーは黒光りする鉄木製の机の向こうに座っている。

 マニー自身は老いて体は小さくなってしまったといつも語っていたが、ジロから見れば貴族服に身を包むその体には、まだまだ力がみなぎっているように見える。

 その体や皺深い顔に刻まれている数々の刃傷が、マニーの話す冒険譚の信憑性を裏付ける。


 部屋にはもう一人男がいた。ジロが初めて見る顔だった。

 壁際の本棚の前に椅子を置き、そこに座って膝に本を開いている。

 目線はジロが入室時に目礼をした後は、ずっと本に目を落としている。


 立会人がいるとは聞いていた。てっきり父か兄だと予想していた。

 ジロは今からする話の内容を他人に聞かれても大丈夫だろうかと思った。

 マニーならジロがこれからする話の内容はすでに察しがついているはずなので、立会人は、マニーの趣味であるガルニエ商会を知る人物だと見当をつけた。


 ジロの嘆願は二つあったが、一応の用心として、もう一つの願いは今は話すまいと思った。


「爺さま、死霊共に有効なアーティファクトを、何点か貸して欲しい」

ジロはそう切り出した。


父サイラス・兄ランスもマニーから戦闘術を学んでおり、ジロも一族の例外なく弓馬剣槍の全てをマニーから学んだ。

 厳しくもあり優しくもあったし、なによりジロには戦闘術が向いていたようで、マニーの教えを余すことなく血肉にたたき込んだ。


 マニーはジロの父であるサイラスや、聡明ではあるが剣の才能のないランスよりもジロの剣才を愛し、ゆくゆくは自分の趣味を継げるようにと期待をかけた。


 そう言った事情から、我が家であっても執務室で対面すればジロにとっては祖父というよりも師という感覚があった。


マニーは口を開かない。

 マニーは人好きし、喋り好きという性格とともに、物事を充分に吟味し、常に感情に流されず結論を出すという冷酷さ・慎重さを重ね持っていた。


 ジロはジッとマニーの返事を待つ。

 静寂の中、心臓はバクバクとうるさい程、音を立てる。


「一つ聞こう。ジロ。儂を爺さまと呼び、しかも貸して欲しい。と言うのはどういう訳だ。親衛隊の正装をして、しかも正規の面会手続きを踏んで、今ここにお前は立っているようだが……?」

「はい、孫として、その上、親衛隊員の暮れの国行き護衛隊長としても、マニー・ガルニエに頼んでいると、とらえてもらって結構です」


「アーティファクトをか? しかも対幽界の物。それは対魔族用よりも、王国にとって重要度が極めて高い事は解っているな?」

「はい」

「その未曾有の国難に備えているようなアーティファクトを何点か…と?」

「はい」

「儂が情に流されると……そう思っているのか?」

「いいえ」

「私室で話そうとは思わなかったのか?」

「いいえ」

「私室であり、あの可愛いエリカの為だと言えば、儂も折れる事は解っているな?」

「はい」

「ならば、なぜここでの面談を希望した? 『生け贄聖女』護衛隊隊長、ジロ・ガルニエよ」


 マニーは力のこもった目でジロを見据えている。


「それは、私人として私室に立っても意味がないと思ったからです」

「ほう?」

「爺さまは、すでにエピデム団長閣下からの懇願や、リーベルト・リスマーを通じて宰相閣下から要請を受けているのではないのでしょうか」

「うむ。受けておる」

「それをどうなさるおつもりでしょうか?」

「……お前には関係のない話だ」

「いえ、関係あります」

「………………考えは変わらんのか?」

 ジロは返答を躊躇し、本を読む男をチラッと見た後、

「はい」

 と返事をした。


「具体的には?」

「弱くてもいいので、死霊に効く武器を二点と防御用の物を貸与ください。俺が扱える武器と、エリカ用に、軽くて丈夫な武器と鎧・呪符の類の物を」

「重量が軽く、幽界用としては一番強力な物を四点と、エリカ用に防具を一点、それよりもやや劣るがお前が身につけられる鎧を一点、そして魔石付与ではないが、魔法処理した武器と防具を十三点手配しよう」


 それを聞き、本を読んでいた男が顔を上げて、息を飲んだ。


「……………………ありがとうございます」

 ジロは溢れだしそうな感情をグッと抑え込みながら、感謝を述べた。


「エリカの持つ物以外の、アーティファクトの回収には……例え希望してもリーベルト・リスマーは使わないでやってください」

「心配するな。リスマーの息子は聡明だ。そのような弔い合戦めいた感情論で行動は起こすまい。それよりももっと適任者に心当たりがある。だから心配するな」


「話はそれだけか?」

「はい、マニー爺さま。孫として、そして護衛隊隊長として、爺さまの支援に多大なる感謝の意を表明します」

ジロは淀みなくそう答え、片膝をつき、騎士として王族以外への使用をはばかられる最敬礼をする。


そうか、と言ってマニーは十数秒目を閉じ、

「もう一つの件に関しても心配するな。最高の物を一点用意しておく。期日までに準備を整えておく。儂はその頃には王都にはいないが、サイラスかランスに預けておく。早馬で知らせるので、すぐに取りに来い」

 と言った。


 ジロはマニーの洞察力に驚いた。

 自分の考えている事などすべてお見通しなのだと舌を巻きながら、さすがは俺達の憧れたガルニエ商会の会長だと、誇らしく思った。

 これで無駄にまた面会にくる必要がなくなった。


「立つが良い」

言葉を受けてジロは立ち上がる。

 用件の重大さに比べ、面会は早くも、終わろうとしていた。


「後悔はないのか?」

「あると思いますか?」

「ありそうだな」

「ないと言えば嘘になります」

「どうようなものだ?」

「自分の……今まで自分を磨いてこなかった事に対する不甲斐なさです」

「……そうか。では退室せよ。これが今生の別れだ。国のため、そして聖女の為、文字通り死ぬ気で務めよ」

「はっ! 行って参ります」



 ジロは執務室を後にした。



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