六年前の回想 面会
ジロが幾度も申請をくり返していたエリカ・エピデムとの面会が通った。
ジロとリーベルトの繋がりを知ったエリカの希望もあり、リーベルトも同席が許された。
神殿騎士団の精鋭が見守る中、面会が行われる。
半年前のジロが暮れの国への道行きへの同行嘆願を、父系色の強い神殿騎士団員たちの大半は快く思っていたので、教団に対して面子を立てるような名ばかりの警備だった。
それを証明するかのように、
「我々はドアの外に待機しているので、エリカ嬢と幼馴染の二人だけ入室してください」
と騎士達は宣言して、そんな話は聞いていない! と色めき立って困り顔の高僧達を、まぁまぁと宥めていた。
ジロは神殿騎士達が『聖女』と呼ばずに『エリカ嬢』と言った事がことさらに嬉しかった。
神殿騎士と高僧も仲が悪いはずもなく、最終的には渋い顔をしながらも、騎士団員の顔を立てるという形で三人だけの面会を許した。
ジロとリーベルトは神殿騎士と高僧に、その気遣いを感謝した。
「ジロ!!! リーブ!!!!」
扉を開けた途端、神殿騎士の装いに身を包んだエリカがトテトテと駆け寄ってくる。
「ふたりとも、私がいない時に、かってに仲良くなっちゃって!」
言いながら、二人に思う様、抱きついた後、エリカはブカブカに見える神殿騎士の制式装備をこれ見よがしにジロとリーベルトに見せつけ、二人に意見を求めた。
「ちょっとでっかく見えるけど、似合ってはなくないな」
「エリカ、よく似合ってるよ。馬子にも衣装っていうからね」
「え~~~~~、みんな凄く似合ってるって言ってるのに、まったく二人は!」
と怒るフリをする。
「帯剣もしているのか、公式の場での帯剣の最年少記録を更新するんじゃないのか?」
ジロがニヤニヤと笑いながらエリカに尋ねる。
へへ~ん。そうだも~~ん私が一番なんだも~~~ん! とエリカが笑う。
「エリカが、タルトを食べ過ぎちゃっても、お父様は、怒られないの。聖女になったからなんだもんね~~」
「あ~~そうだな、聖女様々だなぁ。……聖女エリカ、語呂いいな」
「ゴロ? ジロ?」
「エリカ、小ガルニエが言ってるのは、言いやすいって事だよ」
リーベルトがジロには見せた事もない優しげな笑顔でそう言い添えた。
「そうね~~~ゴロはいいね~~ジロなのにね~~ゴロいいでしょ?」
エリカがジロに意味がよくわからないこと問いかけた。
「ああ、いいな。従者の言うとおりだな」
付き合いの長いジロはそんな事には動じず、そう言った。
「ジュウシャ? リーブの事? リーブはリーベルトって言うんだよ。ジロ。エリカはそう呼んでるもん。それにリーブ? ショーガルニエってジロの事? ジロはジロって呼んでいいんだよ?」
ジロは黙ってエリカの頭をくしゃくしゃと撫で、リーベルトは曖昧にう~~~んと考えるふりをしながら、エリカに微笑んでいる。
みんな笑っている。
ジロは自分が笑うべきなのか嘆くべきなのか、それとも怒るべきなのかのどれが正解なのかは解らなかった。
面会申請をくり返していた時は、確実にその内どれかを望んでいたのだが、今こうして笑いながら会話する事が正解だとは思えなかった。
ただ、訓練の疲労と護衛隊の旅程や各隊員の能力把握の為の実技指導、隊列・陣形の訓練などで、ジロの体は疲れ切ってはいたが、それでも演技ではなく、リラックスして笑い合う事ができた。
そんなジロだからこそ、にはエリカがこの半年間、どんな生活を送っていたかは想像がつく。
団長以下、神殿魔法の使い手がつきっきりになってエリカの生存確率を上げるために厳しくエリカを教育しているのだろう。
エリカのすべての指はまっさらな包帯でぐるぐる巻きの状態だった。
ちょっと突き指したり、バラの棘が刺さっただけでワンワン泣いていたエリカの事をジロは思い出した。
だが今、リーベルトとニコニコと話しているエリカの表情からは、その訓練の苛烈さの影は、察する事ができない。
エリカはジロとリーベルトの手を取って、大きなテーブルの前へと連れていく。
テーブルの上には茶の用意がされてあり、わざわざ花まで花瓶に生けてある。
その生け方がいかにも稚拙で、とりあえず花がゴチャゴチャと入れてある。
(俺の好きな花が多いな。……なら、残り半分はきっと従者の奴が好きな花なんだな)
テーブルの側まで来ると、エリカはジロの手をペイッ捨てるように離し、リーベルトを席へと導いていく。
リーベルトを座らせた後、エリカが戻ってきてジロの手を取って二カッと晴れやかな笑みを浮かべた。
「……エリカ、また乳歯が抜けたのか。下の歯が抜けたら、マニー爺様の異国の教え通りに、ちゃんと床下に投げてるか?」
「もう! ジロはレディに向かって失礼ね!」
と、腰に手を当てて怒ったふりをして、さっき以上に、すきっ歯を見せつけるように再び二カッと笑った。
エリカは急いで自分の席へと駆け戻り、急いで座る。間をおかずにエリカがホステスとして二人に茶菓子を配膳していく。
テーブルの上に上半身どころか、全身を投げ出し、腹ばいになりながらクッキーをジロとリーベルトの皿に置いていく。
リーベルトはその際にエリカが机から転げ落ちないように支えていたし、ジロは倒れかけた花瓶を素早く押さえた。
リーベルトが「お茶を入れるのは僕の方が上手だから」とエリカから湯のポットをさりげなく奪い取って、紅茶を入れ、お茶会が始まった。




