六年前の回想 護衛隊の質
面談は神殿騎士団本部内の一室を借りて行われた。
ジロの面談の際に、リーベルトは、脅している事を隠しもせずに宰相の名まで出してまで同席を求めた。
ならば一言も喋るなと、事前にジロも脅迫まがいに釘をさし、渋々リーベルトの参加を認めた。
護衛のそのほとんどが、各地領主が端金で釣ったであろう騎士ですらない平民を送り込んでいた。
その中から、ジロは一人一人と面談し、隊員を選んでいった。
その平民も所作の数々を見れば、食いつめた浮浪者であったのを、短期間で、名目上の騎士にしたてあげたのだろうという推測が立った。
平民であると言う事は、騎士としての魔法教育を一切受けておらず、幽界の物質的肉体を持たない死霊や、死霊の鎧であると推測されるゾンビと呼ばれるアンデッド族に有効な攻撃の手段をまったく持たないという事だった。
中には死霊の存在さえも知らないと答える隊員も複数名いた。
幾度となくリーベルトが激昂しかけたので、その度にジロはリーベルトを脅さねばならなかった。
だが、ジロは内心、リーベルトの行動に感謝した。なぜなら、同じように抱えた怒りをリーベルトにぶつける事ができたので、部下である隊員達との面談では、「こいつらを今斬り殺して、代わりの人材を補充した方がましなのでは?」という誘惑を、完全に押さえきる事ができたからだった。
「どうするんですか? 僕の見たところ、通常ならば戦力にならない程魔力の弱い下級騎士が三人。あとの十人は、騎士ですらない、魔法も使えない単なる兵士、つまりは――死霊への餌だ」
リーベルトは、そう吐き捨てた。
「そうだ、餌でいい。エリカ………、と俺が生き残って帰還できればそれでいいんだ」
ジロは馬上で前を見据えたまま、そう言った。
「それにこれ以上人数を増やせば、無関係の死霊が寄りつきかねない。これが許容できる最大の人数だろう」
リーベルトは答えなかった。ジロの言った通りであったからだ。
幽界に一定以上の人数を送り込むと、必ず死霊が寄ってくる。
そのために、魔界とは違い、幽界には軍を送り込む事が事実上、不可能となっている。
「なぁ、小ガルニエ。あんたはどうしてエリカについていくんだ?」
「……」
「あんたは……僕はそうは思わないが、学院きっての期待の星だ。なのに命令されてすらいないあんたは、なんでついて行く?」
ジロはその問いに答えない。
「エリカの事が好きなのか? 結婚できる年になったら、嫁にもらうから?」
リーベルトの口調は、自分で今言った事は、ジロの答えではないと知っているようだった。
「……お前はどうなんだ? エリカの護衛にも行けないと、ギャンギャン泣いていたんだ、エリカに惚れているんだろう?」
「…………」
ジロの質問に今度はリーベルトが黙り込み、そしてジロの態度に腹を立てたのか、舌打ちをしてツバを地面に吐いた。
「それが、従者の態度か……」
ジロは、二心無く、素直に呆れた。
だが、なぜかジロはそんな態度に負の感情がわかなかった。
その為なのか、ジロは珍しく会話を続けた。
「好きなのかといえば、幼なじみだ。好きだな。だが、嫁とか恋人とかそういうのじゃない。お前も俺と同じくエリカの幼なじみなら、このモヤモヤした気持ちがわからないか?」
「……まぁ、わかるな。僕もこの気持ちはよくわからない」
「よくわからないのに、あんなに泣いたのか」
「あんたも、しつこい奴だな。この事に関して今後も言いつのるのであれば、あんたが俺に持たせているこの槍であんたを串刺しにしてやる」
「……口だけ達者なガキめ」
ジロは相変わらず馬上で、リーベルトを振り返りもせずに返事をした。
「小ガルニエ。僕は前からお前が大嫌いだ。従者になって、お前の事を知れば知るほど、ますます嫌いになっていく」
今さらなんの宣言をっとジロは鼻白んだ。
「……だが、エリカの為に死のうとするあんたの行為は……、まぁ……嫌いじゃない」
それを聞き、ジロは声を上げて笑った。
それはジロにとって久しぶりの感覚だった。聖女エリカが誕生したあの日以来初めて、自嘲ではなく、負の感情が全く籠もっていない笑いが次々とわいて出た。
「そうか、ならせいぜい、帰還したエリカに俺の武勇伝を語ってもらえるように、派手に死んでくるから――」
ジロは笑いを堪えながら、その続きを言うべきか迷った後――
――見たはずもない、エリカとリーベルトが、屋敷でマニーの話を聞きながら仲良く笑っている風景を幻視した。
「――死んで、死霊になってでも、絶対にエリカを生還させてみせるから――後の事は……頼んだ」
リーベルトの反応を窺う事もなく、ジロはそう言った。
それに対しての、普段はわずらわしい程お喋りなリーベルトからの返事はなかった。




