臨時収入
集め終わった武器を包んだローブをすっかり定位置となった大岩の上に広げ、あらためてジロは奪った武器を見て、ニンマリと笑みが浮かんできた。
「よし! 魔石付与の武器がこれだけ手に入った。問題は…どこに売るかだな………。王都や王国内で買い手を見つけてしまえば、もしかするとその客にこの集団が奪いに行くかも知れない」
ジロはもはや金貨の山に見えてきた暗殺者の持っていた九つの武器を見ながら考える。
「となると……魔法帝国で売りさばけばいいんじゃないか? そうだ! この集団の本拠を突き止めて、帝都内で買い取らせれば、被害が出るのは帝都の店だから、ペール王家に対しても貢献してるといえるな……。しかもガルニエ商会は大金を稼げる! あとは、あの四人が組織の下っ端でないのなら……サラの奴から習った精神に影響を与えるって言う魔法も試せるな」
ジロは一人、にやりと笑った。
ジロが、他の、近いうちに自分の商品になる武器達はと、四人に意識を向けると……。
先程までは各自が自分の力でそれぞれに魔法壁の破壊を試みていたが、無駄骨だと解ったらしい。
さっさと他の方策を試し尽くして、その無駄を悟り、ここに姿を現して欲しいものだ。とジロは思った。
「しかし……しばらくは各個撃破を試してたって事は、こいつらにも派閥のようなものがあるのかもしれないな。それだけ各自が、自分の実力を誇っているのだろうから……上手くいけば四人は結構な幹部かな?」
実行部隊がエリカとリーブの名を出した以上は、誰もこのまま逃すつもりも、精神に影響を与える魔法の行使に対するわずかな躊躇もない。
その時、四人のいる方向がで真昼のような光りが炸裂し、爆発音と共に空気の振動をジロは感じた。
「オ~ッ! あの閃光の規模……なかなかの威力だろうな」
威力の大きさから、今のは火の精霊の加護をうけた《火球》を複数人による『多重詠唱』で、効力を劇的に高めた上での破壊を試みたとジロは判断した。
火の精霊の扱いは魔法の使い手としては基本中の基本であるし、火種さえあればどこでも力を発揮させやすく、しかも息もあわせやすい。
今のこの邪による《空間遮断》せいで流入する気配の消えた、風の精霊以外での破壊を試そうとしているのだろうと判断した。
術者が張りっぱなし、一度張って魔力供給などの面倒を見ていない結界の破壊は、その結界の属性に見当がつけば破壊はいとも容易いが、ジロが練った魔法は表の五大精霊ではないし、込めた魔力も並みの人間にどうこうできるレベルの魔力ではなかった。
例えジロが《火球》の《多重詠唱》と同じ属性の、火の精霊を用いた《空間遮断》だったとしても、結果は同じであったであろう。
それほどにジロと四人の実力差は離れていた。
だが、ジロは火ではなく、わざわざ邪の精霊を用いての《空間遮断》を敷いた。
暗殺者が幼なじみの名前を出しただけで、考え無しに破壊不可能の選択肢を選ぶほどの怒りがまだ、自分の中にあった事に対し、ジロは安堵の気持ちを抱いた。
サラに人間から半歩外れた存在にされてから、自分の心も秘者のように、人間に対して鈍磨してしまったのではと思う事が多々あった為に、救われたような心地がした。
再度、ジロの元へと重低音が響いてきた。
結果内の風に乗り、土の香りが色濃く窪地に届いた。
土の精霊を用いた《圧搾》のようだ。
ジロは邪の精霊を用いて《魔力感知》を使用した。
《魔力感知》は《空間遮断》の強い抵抗を受けながらも、最終的には抜けた。
抜けた途端に凄まじい勢いで広がり、まっとうな人間だった頃なら暴走とも思えるほどの《魔力感知》を慌てて押さえる。
「これなら本店からでも、王都内の魔力感知さえできそうだな……、知らなかった事ばっかりだ」
ジロはため息をつきつつ、この体に慣れるためにも人界での魔法行使を積極的に練習しようと決意した。
自身の張った結界《空間遮断》と同属性の邪を使い、自分の魔石を知覚できる秘者特有の感覚だよりではなく、あえて《魔法感知》を使ったのには理由があった。
一つは裏の五大精霊が希薄な人界でも魔界のように、裏の五大精霊の観測しやすさを試す事。
もう一つは、より念を入れて結界内の暗殺者達を確実に追い込む為であった。
力を絞りに絞って苦労して範囲狭くする事に成功し、森だけを範囲にした。
森に魔法的反応は全くない。
ジロは次に《体温感知》《精霊感知》といった人間・亜人の伏兵発見には有益とされている魔法を次々行使した。
いずれの反応も皆無であった。
炸裂音というか、バキバキと木が破壊される暴音が響く。
「木の精霊の『多重詠唱』か……この結界の中じゃ最も威力を期待できるだろうし、これが連中にとっての最後の切り札かな?」
ジロは準備を万全のものとして、ひとまず四人の事を考える事を止めた。
そして奪った戦利品の、リスクのもっとも少ない売り先の皮算用を始めた。




