監視者四人
「半分人間じゃなくなってから数週間だってのに、もう剣筋が雑になってるな。剣を折られるわけだ」
斬り合いを挑んできた実行役の最後の一人の胴を斬り飛ばした後、ジロは我が事ながら首をひねった。
頭上から降ってきた暗殺者をまず殺し、その黒剣を奪ってからの7アクションで七人を殺した。
ジロの行使する魔法は自己の予想よりも強力に、そして剣の腕は予想よりも弱体化していた。
(剣を折られた時もそうだ。向こうの黒剣ごと打ち落とすつもりが、逆に剣を斬られた。剣そのものを斬られるなんて、身を斬られるよりも恥ずべき事だし、暗殺者が凄腕であった事を差し引いても自分の剣の腕が大幅に落ちている)
二号店を開く前ならば、相手が剣を斬ろうとしていたとしても、隙を作り出す事が目的の、あれくらい雑な攻撃であれば、受け流す事が容易くできたはずだ。
(黒剣を奪った後もだ。この黒剣が妙な柄である事を差し引いても、一斬一殺であったとはいえ、一度も思い描いていた剣筋で剣を振るえなかった)
ふと思って、黒剣の持ち主の手を調べる。
黒剣を奪うために、魔法で瞬時に頭は吹き飛ばしたが体は無傷だった。
剣を首なし死体の手に持たせると、この黒剣が妙な柄である理由が解った。
死体の手は歪な剣ダコができていた。その手と柄の突起がピタリと合った。
「なるほどなぁ……。これなら剣を奪われたとしても相手は、この魔石付与のこの素晴らしい黒剣を使いこなせないってわけか……」
ジロは他の武器も調べるため、形が残った死体と武器を一箇所に集める。
死体や武器が残らなかったものもあったが、合うものはそれぞれの手のタコと武器の柄の突起が一致した。
ジロがこうして、独り言全開で暢気にしているのには理由がある。
暗殺者の実行部隊はやはり殺した八人であったようで、実行部隊が全滅したのを見届けたタイミングでさらに後方にいた事後処理係は一斉に離脱をはかろうとし、ようやく自分達の後方に張られた《空間遮断》の存在に気づいた。
存在と言っても、魔法の存在ではなく、自分達がぶつかった不可視の壁の存在の事だった。魔法であるとは検討がついているだろうが、《空間遮断》がまったく未知の魔法であるので、
「さぞや、恐怖に身をすくめているんだろうなぁ」
十分ほど経つが、異常事態に気づき集合したその四人が、魔法壁付近であわてふためいているからだった。
四人は先ほどまでは穴を掘っていた。だが、ジロの結界は球状体なので意味はないと知ったのかも知れず、今は別の事をやっているようだった。
「注目も外れているし、今は外の奴をどうにかするか」
魔界行き前には人生をかけても習得不可と思っていた《飛行》を唱え、ジロは結界をすり抜け、森の上空で目標を探す。目標は前と変わらぬ位置にいた。音も立てずにその真上まで移動し、急降下して街道を見張っていた下っ端の後ろに立ち、驚く下っ端の口を押さえ、暴れる見張りを力ずくで街道から引きずりながら森へ連れ込み、喉を黒剣で切り裂いた。
何が起き、どうして死ぬのかもわからず、下っ端の見張りは息絶えた。
血が流れ終えた所で、ジロは血に汚れないように《耐水》をかけて血痕がジロの服や体につかないようにして肩に担ぎ上げ、もとのくぼ地へと戻ってきた。
監視の四人は、一仕事終えたジロと違い、まだ結界の破壊、もしくは回避にやっきになっていた。
後顧の憂いもなくなり、見張りの死体も他のものと同じく並べ終わり、ジロは野次馬気分で四人に注目した。
その四人の魔石の反応はここに転がっている九人の武器よりもさらに大きい。
そんな武器を所有しているだけでも実力が知れるが、ジロの興味はそこになかった。
ジロは自分の持つ黒剣の他、無事に残っていた五つの武器を集める。
どの剣にもヌラっとした粘液が塗られている。
血に汚れていない死体から剥いだローブに武器や鞘を集めていく。
暗殺者は皆、ジロの予想通り、余計な物を一切身につけていなかった。
この暗殺集団が信奉する神を称えた入れ墨があったが、世界中の暗殺者の常識として聞いた話の通り、ありとあらゆる神がその身に刻まれていたため、死体からは手がかりは得られそうになかった。
暇であったし、ジロが死体を九つも作り上げたので、周囲には邪の精霊に充ち満ちているため、有効に使えそうな《死体転生》なんかを使ってみようかと思い立った。
「ダメだな。今の状況を考えれば、ゾンビを作り出してた後に、あの四人と戦闘になったら、大丈夫だとは思うが、ゾンビのコントロールに不安が残るな……。生き残りの四人を殺し尽くしちまいそうだ」
ジロは試した事のない魔法の行使を、事が済むまでは棚上げする事にした。




