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六年前の回想 第二十三代目聖女


 幽界の侵攻。それは天災であったが、人界にはそれを止める手立てがあった。


 人間のマジックアイテム鑑定基準の最高位にアーティファクト(聖遺物)があり、その中で最上位に位置する『聖女の願い(メメント・モリ)』と名付けられた首飾りがある。


 これはAF(アーティファクト)自らが持ち主を選ぶという他に、幽界の何者かの所有物で、それを返しに届けると、幽界の侵攻が数十~百年単位で停止すると言われている。


 それは歴代の聖女(アテーナー)の手によって暮れの国へと運ばれ、誰も知らない祭壇に安置される。

 そして時期が来ると『聖女の願い(メメント・モリ)』は、経路不明で人界へと持ち込まれ、また新たな聖女を選別する。


 それが繰り返され、幽界の侵攻は人界滅亡に決定的なものとは、今だなってはいない。


 『聖女の願い』の聖女選別は女性である事以外に、その基準はない。


 人界の、それも人間種の所へしか現れず、歴代の人種もさまざまで、平民、貴族、魔法能力の有無など一切の関連性がみられない。


 命名の元となった初代聖女とはほど遠い、女郎屋の梅毒に冒された遊女が選ばれた事もある。


祭壇へとアーティファクトを運んだ後、聖女がどんな死を迎えるのかを知るものは、人類史上、一人としていない。

 誰も戻った者はいない。それだけはわかっている。

 


 そして今回、幽界の霧の侵攻が確認され、時を置かずして、『聖女の願い』がペール王国で発見されたという日から、わずか一ヶ月。

 

 選定の儀が執り行われ、エリカ・エピデムが聖女に選ばれた。


 世間は現神殿騎士団長の一人娘が選ばれた事に安堵を覚えた。


 毎回、聖女に選ばれた人物が幽界行きを拒むからであった。


 しかし、人々はこう思った。


 「救国の英雄であるならば、娘を喜んで送り出すだろう」と。


 大陸の連合国協定に加入していないキヌサン魔法帝国との戦争で、国の為に尽くしたエピデム団長ならばそのような事はあるまいと。



 そしてエピデム団長と娘のエリカは、見事、人々の期待に応えた。



 発表の日。


 ルイネ城のバルコニー、王族と警備兵以外は立ち入りが許されないその場所に幼いエリカは立ち、眼下のペール王国民の前で、エリカが笑いながら、堂々と役目を果たしてみせます!と、子供らしい元気さで、そう宣言した。



 その日からエリカ・エピデムという少女は、誰もが知る第二十三代聖女(アテーナー)エリカとなった。



暮れの国への道行き(ペレグリヌス)』ともてはやしたが、ジロやリーベルト、エピデム家全員が、それは幽界への生け贄以外の何者でもない事を知っていた。


 親衛隊見習いになったばかりのジロは神殿に侵入しエリカの父である神殿騎士団長へのエリカの助命嘆願に動いた。

 暴力に訴える事をジロ自身が恐れたため、非武装状態であり、そのためすぐに捕らえられ、騒ぎも外へは漏れなかった。

 その後、ガルニエ一族の名の下にジロは軟禁された。


 その後、聖女返上という子供じみた思いを諦めたジロは、マニー・ガルニエの政治力を利用し、エリカの護衛を務めると名乗りを上げ、自分を売り込み始めた。


 集団自殺行以外の何物でもない暮れの国への道行き(ペレグリヌス)聖女(アテーナー)の護衛は毎回志願者が集まらないため、その申請はあっさりと受理された。


 さらに国教である神殿組織はジロとエリカの幼なじみという関係に着目して、その話をペール王国神殿騎士団の聖女の美談として大陸中に広めるため、幼いエリカを異例中の異例として、神殿騎士団に入団させ、その護衛隊長であるジロには、親衛隊所属の肩書きを持たせるために、の学院卒業を急がせ、学院史上最速での卒業という計画を打ち出した。


 ジロはそれらの思惑すべてを黙って受け入れた。


 それから半年、エリカは帰還確率を高めるため、神殿や王宮のバックアップの元に、神聖魔法の修得や幽界知識の拡充に努め、ジロは死霊との戦闘に備え自らを鍛え始めた。

 そんな日々の中、リーベルトは従者としてジロの前にやってきた。


 ジロ・ガルニエ。    十八才。

 リーベルト・リスマー。 十二才。

 エリカ・エピデム。   七才。


 春先の出来事だった。


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