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六年前の回想 青年と少年の出会い


「魔法も武技も、まるでなっちゃいませんね。お噂の小ガルニエ殿」

 

 学院の応接室で、自己紹介が済み、その後の一言目に、リーベルト・リスマー従者がジロ・ガルニエ親衛隊見習いに対してそう言い放った。学院長や、『暮れの国への道行き(ペレグリヌス)』の関係者で人々がごった返す中での発言だった。


 ジロはそれにより生意気そうな奴だという第一印象をもった。


 小ガルニエというのは、マニー・ガルニエの息子のサイラス・ガルニエが当主の座を継いでから、人々がマニーの事を『大ガルニエ』と呼び出してから始まった呼称だった。


 小ガルニエ呼びは決して蔑称ではなかったが、サイラスが単なる『ガルニエ卿』と呼ばれるようになり、その息子二人のうち長男のサイラスに呼称が移った時から、蔑称の意味合いが含まれてきた。


 そして、サイラスが型破りながらも才気ほとばしらせると、小ガルニエはジロ・ガルニエに委譲され、『小ガルニエ』は完全な蔑称としての側面を持った。



 半年前にエリカ・エピデムが聖女(アテーナー)として選ばれた事で、リーベルト・リスマーと初対面したジロはいまだに気が立ち、荒れくれまくっていた。


 だが、リーベルトもエリカの幼なじみであったとジロも知っていたので、面と向かって非礼を責めずに、学院長室での緊張に包まれた初顔合わせは終わった。


 お互いに会うのは初めてだが、ジロはマニーとエリカからリーベルトの話を聞かされていたし、リーベルトも二人からジロの事を聞かされていた。


 ジロ、エリカは幼少からジロが学院寄宿舎に入るまでの間、そしてエリカ、リーベルトは、そのジロがガルニエ屋敷から学院に生活の場の中心を移してから現在に至るまで、マニー・ガルニエの冒険譚に目を輝かせて聞いていた、聞き手達だった。



       ◆


 二人の仲は最初からこじれていた。

 初対面から二週間が過ぎても、ジロはリーベルトには、良い感情が湧かなかった。


 ジロの自己紹介にもそんな態度が見えていたし、それを受けて立つように、ジロの従者となったリーベルトも最初から喧嘩腰であった。


「たかが訓練で毎日ヘトヘトとは、聞きしに勝るヘタレですね」


「……その『ヘタレ』を指名してまで、従者修行についたお前は何様なんだ?」

 ジロはつまらなそうに剣の手入れをしながら、自室の戸口に直立するリーベルトに問いかけた。


「別に……。エリカが話す小ガルニエ殿に会ってみるかと気まぐれで思ったから、従者修行もまだだったのでこれ幸いと従者として名乗り出ただけ。ですが会って分かった事ですが、あなたはあまりにも弱々しい」


 ジロは、半年前のエリカが聖女になってから、溜め続けてきた怒りが、リーベルトの毎日、毎夜続く挑発に対し、ついに我慢の限界が訪れた。


 剣をリーベルトの足元に向かって、放り投げる。


 派手な音を立てて、ジロの剣が床に転がる。

「この程度の挑発で、怒って、しかも騎士の誇りである剣まで放り出すとは……」

 リーベルトは座るジロを見下ろしながら、蔑んだ目でジロを見ている。


「さいわいそれは訓練用、しょせんはまがい物だ。誇りは別にある。従者リーベルト。明日、夕飯を食べる前に、訓練場に来い。数週間後には正式な卒業生になる後輩思いの俺が、直々に稽古をつけてやる」

 リーベルトは鼻を鳴らして、踵を返した。



       ◆


 あくる日の晩、食堂で夕食が振舞われる時間にもかかわらず訓練場は、年若い見物人で溢れかえった。


 名家であるガルニエ家で、学院最速で卒業しようとしている今話題の若手親衛隊員と、これまた名家のリスマー宰相家の長男で現学院生徒内で最強と言われるリーベルトとの実戦的訓練は、外出制限もある学院在校生の好奇心をいたく刺激した。


 それだけではなく、聖女(アテーナー)エリカの護衛として、死を恐れることなく、『暮れの国への道行き(ペリグリヌス)』の参加表明をはたし、外部の政治的圧力とその実力から学院初の十八での親衛隊正式加入を果たしたジロ・ガルニエの立ち合いを一目見ようと学院外部の者達までもが、その実践訓練をみようと大勢押し寄せていた。


 これだけ人が集まり、しかも大半が子供であるのにもかかわらず、訓練場には妙な緊張感が漂っていた。誰も必要以上に口を開かず、無駄口を叩かない。



 それは相対するジロとリーベルトの互いを睨む目に、明らかな殺意が宿っているためだった。


 温和なリーベルトの人となりを知る現学院生達にとって、リーベルトの感情をむき出しにして(にら)むそれは、学院生たちにとって、初めて見る鋭い眼光だった。


 学院生が噂に聞いているジロも、腕はたつものの、不真面目で人をからかい尽くす事はあっても、憎しみを込めた目で誰かを見るなどという人物像は聞いていなかった。


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