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秘者とAF


「嘘だよね? ジロはそんな事しないよね? そんな事になれば、私はどんな事をしてでも、ジロを止めるんだから……」


 酒場の時とは違い、周囲の喧噪(けんそう)がないためかエリカの口調も穏やかなものだった。


 月明かりと、揺らめく小さな灯のせいか、悲しむような、泣き出しそうな、怒っているような、神秘的な表情がエリカに浮かんだ。


「ちょっと違う。秘者が興味を持った呪物のアーティファクトをそいつに渡して、そいつに解呪させた後でそれをこっそりと奪い返すんだよ。それが二代目ガルニエ商会の本当の役割だ」


「そんな事は無理――」


「――無理じゃない。人間同士として考えているから無理に見えるんだ。力の離れた人間同士なら渡したものを取り返す人間がいたら、報復に出るだろう。でも相手は秘者だ。それにこの四ヶ月で秘者と接触して、いけるという確証も得た。

「あいつらは命でも狙わない限り、たとえ秘者同士でも、物質には執着しない。自分そのものが、絶大な力を持つアーティファクトのようなものなんだ。だから、どんな強力な呪物であろうが、それほどは執着しないと思う。さらに渡す秘者の性格を、こっちで見定められればさらに取り返す確率は上がるだろう」


「こっそり、取り返せなかった場合は?」


「それはそれで問題ないだろう。やつらは人界に興味がない。だからそれを人界に持ち込む事もない。解呪されたアーティファクトが性能を大いに発揮するのは、同じ秘者に対してだけだ」


「? 興味がないのに、その秘者は解呪されたアーティファクトを秘者に使うの?」


「ああ、使う。というか使わせてみせる」


「なんのために?」


「呪物の破壊のためさ。解呪されようと元々は呪物だったんだ、消え去っても困らないだろう?」


「そうだけど、なんか……もったいないね」


「そうだな」


(その性能をその身に受ける事が、戦闘狂いの二号店の販売員が俺に出した条件でもあるしなぁ)


 ジロはため息をもらした。


「じゃぁ、もし変な秘者がいて、ジロに盗まれたのが知られて、執念深く魔界にいないジロを追ってペールに現れた時はどうするの? それによって人界への被害は?」

 今のエリカは完全に神殿騎士団の聖女として喋っていた。


「それも問題ない。その場合は二号店の販売員が手助けしてくれる事になっている」


「……変な秘者。そんな人間くさい秘者の話、聞いたことない」


「まぁな、でも安心しろ、俺が解呪されたアーティファクト(AF)を人界に持ち込む事はない。取り返したら、とりあえずは二号店に戻すからだ。そこまでして、なおも秘者が取り返しにくるのであれば、返すか、もしくは二号店の販売員がその時は、戦ってやると言ってきている」


(そして、解呪した秘者が万に一つもAFに執着して取り返そうと、サラに戦いを挑んで、滅ぼされたら、その時こそ、なんの縛りもなく、アーティファクトは回収できるって……

(でもあいつは本当に自分で言っているほど強いんだろうか? あいつが他の秘者と戦ってるを見たのは一度きり。しかも、生き返った俺と五分五分……いや、四分六分くらいの戦いをしてた、雑魚とだ……、(サラ自身も名前を覚える価値もない雑魚って言ってた秘者と、俺がやられそうになった時に乱入してきたサラは、殴り殴られの応酬で、結局は追い払ったけど、師匠の戦闘みたく、敵を圧倒するって感じではなかったんだよなぁ……不安すぎる。……心配だ)


「……お前だって小鳥にお気に入りのイヤリングを取られたからって、巣まで特定して取り返しに動きはするだろうが、小鳥そのものに殺したり、その木を根こそぎ奪おうなんて思ったりするか? 巣があったのを知らずに木を切り倒す事があっても、小鳥を巣ごと殺そうとして、木を切り倒すやつなんていない」


 言い負かされそうになっていることに気付いたエリカは、まずい酒をなみなみと注いでそれを一息に飲み干した。


 ハァと盛大にため息をついて、上目遣いでこっちを見た後、またもやため息をついた。

 ジロは立ち上がって、エリカの隣へと座り、頭を抱く。

 エリカも抵抗もせず、身を預けてきた。

 フード越しに、頭を撫でる。

 昔からの仲直りの儀式だ。


 エリカはそのまま黙ってちびちびと不味い葡萄(ぶどう)酒を飲んでいる。


 エリカの髪の香りが、ジロには懐かしかった。


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