余所事の話 魔王城 新魔王の誕生
玉座に座りながらにして人狼の一人を退けた火鬼は、魔界内で最近頭角を現してきた者だった。
名はゼノン・バルボア。
オーガ族の中でも火鬼種は、他のオーガ族と比べ線が細い。髪を除けばが体格のよい人間に見える。
ただその分体内の魔力は他のオーガ族より高い。
ゼノンはその中でも飛び抜けて魔力保有量が大きく、里の四人の長を力で屈服させ、ただ一人の長となった。
そして大魔王となるべくして生まれてきたと周囲に喧伝しながら、魔王城への登城を邪魔する秘者を排除しながらやってきた。
魔王城に暮らす者達からみれば新参者であったゼノンは、場内に入ってから、玉座へと至るまでに10名の秘者をその手にかけた。
そして玉座まで来たゼノンは、玉座の間を掃除していた二人の魔人であり、魔王の側近でもあるセラとゼラにも戦いを挑もうとするが、掃除するだけの二人に戦意がまったくないのを見取ると二人をに向かって、腰巾着の掃除人が。とあざ笑いながら、玉座についた。
そのままの姿勢で五日ほど経ち、その間に、玉座の間には秘者達が続々と集まってきた。
「そろそろ、城内に住む弱者どもがこれだけ集まってきたのであれば、そろそろだな」
「そうであろうな、ゼノン。いよいよお主が魔界の王となる時がやってきた」
「犬っころめは扉の前……我が参加している事に恐れをなして震えておるわい。いよいよ去勢でもされたのだろう」
ゼノンは頬杖をついたまま、ギ・ダをつまらなそうに見ながら、口の端を歪める。
玉座の間に集まる秘者たちの狙いは皆一つ。魔王の帰還を待っていた。
「見よ! どうやら他の秘者は現魔王におべっかを使うため、そして我は魔王を殺すためにここに座る!」
ゼノンは魔王城すべてに聞かせるような声を張り上げる。
「フハハハ! 見よ、ゼノン! ギ・ダや戦鬼はもちろん、多少覇気があった、ゴブリン王とスライムマンも先ほどのゼノンの戦い方を見て恐れをなしておるわい! 誇りを守るために、聞えんふりまでしてのう!」
側近の笑い声を聞きながら、玉座の間にありながら、こうも目的が違うのかとゼノンは呆れかえった。
「おい、そこな魔人よ。お前らの主人はまだ戻らぬのか? それとも我の噂を聞き逃げ去ったのではあるまいな?」
ゼノンは問いかけた。その声は脇に立つ者に話しかけるような声量であった。
玉座からもっとも遠い扉に立つ二人は聞こえたのかそれとも聞こえなかったのか、セラとゼラの二人は押し黙ったままだった。
「腰抜けめ、口もきけぬとは、いよいよ情けない」
「ゼノン。サラがこれまで玉座の間をこれほどの期間空けていたという話は聞かない。戦闘狂いの秘者の中でも特に争いを好むサラがいないとなるといよいよ――」
――側近の興奮した言葉にゼノンは気分良く鼻を鳴らして返事をする。
「玉座の間に居座る、かくも勇気のない者どもよ!!!」
ゼノンが遠くの山々まで聞こえそうなほどの大声量を発した。
「新魔王である我に、挑戦するものはおらぬのか? 同じ種族の恥さらし、そこの黒い二人おのれらはどうだ? 我らと違い城勤めが長いおのれらでは、我らと戦う勇気すらもないのか?」
「玉座に座る者が王! お前達は、それさえも分からぬのか!!」
二人の戦鬼の内、一人が閉じていた目を開け、憎悪のこもった爛々と光る瞳でゼノンを睨み、牙を剥いている。……だが両腕は組まれたままで、動く様子はない。
「毛無しの敗残者どもめ」
ゼノンは蔑みの呟きを漏らす。
「言うな、ゼノン。反応しただけでも、隣のギ・ダの一味よりはましであろう」
「貴様らは魔界において、何のために魔力を蓄える!? 戦うためではないのか!? この度し難い腰抜けどもめ!!!!!」
人狼族のは誰一人として玉座の方向を見ようともしない。そしてギ・ダやその側近は、ずっと何かを話し込んでいる。
ゼノンはギ・ダの様子に自分への恐れを感じ取った。
「もうよいわ!! 我はここに宣言する!! これから未来永劫魔界を統べる王、大魔王ゼノン・バルボアである!!! 勇なき者共、その場にひれ伏せ!!!!」
その宣言で、火鬼の二人が片膝をついて礼を尽くし――
――他種族はそのままだった。
呆れていると、ゴブリン王が腰にあった魔石ででき、七色に光る刀を抜き、近衛もバラバラと、ゴブリン王に倣い、武器を抜いていく。
玉座の間で、唯一秘者ではない近衛達の戦意のなさは明らかで、武器を持つ手はどれも怯えで震えている。
その隣でスライムマンも、その体の色を戦闘色である真紅に染め、魔力を解放し始めた。
ゼノンはそれを見て顔に歓喜の色を浮かべた。秘者はやはりこうでなくては。と。
「玉座近くのお前らは見所がまだある」
ゼノンはゴブリンとスライムマンだけは生かして帰し再度我に挑ませようと決め、残りの腰抜けは玉座の間にいる限り、皆殺しにしようと決めた。
逃げ出せば追わないでいてやろう。そう思いながらゼノンは立ち上がり、
「下衆ども!!!!!我は大魔王ゼノン・バルボアである!!!!!!!」
天まで届けとばかりに、蛮声を張り上げた。
「お~~~~~~~、留守の内に、お前が新魔王になったのか。よし、アタシと勝負しよう」
陽気な声の返事が予想もしていなかった方向から聞えてきた。
いつの間にかに、柱の間に小さな少女が立っていた。
金髪碧眼で人間にしては珍しく、透き通るような白い肌をした少女だった。
金髪は日の光りを受け、金糸のようにキラキラと輝いている。
その身は玉座の間にいる誰よりも細く、頼りなげだった。
「貴様は何者だ」
あまりに、玉座の間に場違いに見えたため、ゼノンは少女に、そう質問をした。
「ガハハハハハハハハ!!! 大魔王ゼノン、これは大器である!!!」
っといつの間にか、世間話をやめたギ・ダが――――戦闘態勢に入ったように両手のツメをのばした姿で笑っている。
見れば人狼の全てがジリジリト玉座の方向に向かって戦闘態勢を取っている。
魔人のメイド二人も、一人は人狼、一人は戦鬼を警戒するかのようにそれぞれが身構えている。




