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魔界内での出会い


「魔族と話をしたですって! 待ってください、話をしたって事は秘者とですか!? 先輩、あなたって人は!!」


 リーベルトが大声を上げるが、周囲には伝わらない。


「マニー爺さまの話だって、友人とは言えないが、話の通じる秘者はいた。俺もそういう友好的な、秘者に出会ったんだ」


「お爺さまの場合とは違うわ! お爺さまは通りすがりの秘者と会話にもならない会話を交わしただけっておっしゃってたわ、ジロの住み着いてた所に、秘者が……」

 エリカは身震いをした。

 そして、二人とも目の色を変えて身を乗り出して怒っている。


「前線基地からのの話じゃ、最近は大人しかった秘者たちの争いが今は激化してるみたいじゃないの!」

「僕もその報告書に目を通した記憶があります」

「そんな時に好き好んで魔界なんかに行ってたなんて! 信じられない!!」


 エリカもリーベルトも互いの騎士団の中枢の近い位置にいるためか、普通は伝わりづらい魔界の最新情報をよく知っていた。


 一介の一世騎士(いっせいきし)であるジロにはそんな極秘情報は伝わってこなかったが、エリカが言った王国が情勢悪化と判断した魔界の秘者たちの争いとやらにジロは心当たりがあった。


 というよりも、その中心にいたのが、ジロとサラだった。


 ジロは舌打ちをしたかった。確かに二号店と前線基地とは深く危険な森が互いを隔てているだけで、直線距離は近い。近いからこそ、そこに店を構えたと言っていい。


 ()()()()()()()()()()()目覚めの時の秘者同士が出していたあの戦闘の轟音はジロにも聞こえていた。あれが前線基地まで届いていただろうとジロは考えた。


(………無理だ。説明不可能。説明をしようとすれば、殺されかけたどころか、多分だが、殺された事もはなさないといけなくなる。そうなったらエリカとリーベルトの手で俺が監禁されかねない。その場合は、今度は座敷牢じゃなく、地下の牢屋だろうな。……いや、いっそ逃亡の手伝いをしてくれるかもしれない)


「もうジロを旅になんか行かせないんだから!! 私が理事になったって言うんなら、二号店なんか、そのまま放っておいて、潰しちゃえば、いいんだもん!!」

 ジョッキを乱暴に机に置いて立ち上がり、衝撃で大きな音が鳴る。


 音は大丈夫だが、姿はもちろん周りからも見える。

 幸い店内の喧噪は、酔いも回りきり、誰もがボディランゲージの大きい時間帯に入っていたため、気付いた者はいない。


「副理事も同意見だ。正気の沙汰じゃないですよ」

 リーブが皿にに残ったベーコンの欠片をヒョイヒョイとフォークに突き刺していきながら、冷ややかに同意する。


「お前は専属護衛兼会計士だろうが、勝手に役職付け足すな。出資は受けていないし、副理事なんかはいない。そしてガルニエ商会の決定権は俺にのみが握るから、その提案は却下だ」

「じゃぁ! 今なるもん!! いくら!?」

 そういうと懐から財布を取り出して手と共に勢いよく机に置いた。


 その行動をたまたま目撃した老店主が、エリカの様子に気付いて怪訝(けげん)な表情を浮かべて三人の方を見た。


 ジロは身振りで大丈夫だと老店主に伝えると、老店主は明日の料理の仕込みなのか、大量のジャガイモ剥きの作業へと戻った。


 ジロが机に指を走らせて、即席だからがゆえの効果の薄い、人払いの陣を張る。


 戦闘用には使えないが、斥候(せっこう)時などには多少の効果を発揮する。

 魔法抵抗力のない一般人にはよく効く魔法だった。

 これで多少ならば、突飛な行動をしても、奇異な目で見られる事はない。

 その様子を二人は黙って見守っている。

 二人にしても、邪魔が入り、お開きにするのは望んでいないはずだ。とジロは開き直った。


「……それ()ですよ、先輩。旅行前、先輩の魔法はそんなに洗練されてはいなかった。どこで覚えたんですか?」

「――ジロ、まさか!!」


「聞け、この事はお前らだから話す。他には例え拷問を受けようとも、誰にも口を割るつもりはない。聞くか?」

 (だが、それも一部だけだ。本当に起こった事は話さない。それでも聞こうとするのなら、俺は舌を噛んで死んでやる)

 この言葉はジロは飲み込んだ。絆の固い三人の仲であるとはいえ、その冗談みたいな言葉は、この場においては切実過ぎた。


 それでもエリカは口を開きかけたが、リーベルトがエリカを制した。



「聞きます。……でも、エリカは帰らせ――」

「――私も聞く! 私だってあの頃のままの私じゃない! 三人はあの時から、いつでも一緒だもん!!」


 ジロは静かに息を飲んだ。


 視線が交錯する。

 店内は相変わらず騒々しい。


「二号店は潰さない。なぜなら、雇い入れた店員がいるからだ」

 そしてジロは周囲には聞こえないと分かっていても声をギリギリまで落とす。



「そいつは、秘者だ。そいつはなぜか俺の店に興味をもった。おれが上達した魔法の使い方はそいつから教わった」


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