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生産中止の本当の理由


「お前にも話はあるが、ちょっと待て。これから大事な交渉をしないといけない。アホな灼熱の騎士リーブ。こんな所で油売ってないでさっさと城へ帰れ。

「店の見回りの件は本当にありがとうよ、お陰様で、店はこうして煙を吹き出す事に忙しい。巡回ご苦労様、もう一度言う、今は立て込んでるから、来た早々で悪いがとっとと帰れ」


 汗一つかいていない親衛隊の制式装備を身につけたリーベルトが困り顔で(ほほ)()いた。


「大丈夫です。リーブ。ジロったらせっかくのお客に対してあんまりではないですか? ジロとの当面の交渉事は終わりました、では、もう帰りますので、リーブ、後はごゆっくり」


 まぁ待てエリカ。っと、ジロは立ち去ろうとするエリカの手を引き、無理矢理椅子へと座らせた。


 そう思いながら、ジロは水瓶を足で押し出す。


 リーベルトはいただきます。と言ってからヒシャクに手を伸ばした。


 エリカの供回りの二人が直立不動でリーベルトの一挙手一投足に注目していた。リアナはともかく、リゼロッテさえもキラキラとした目でリーベルトを見ているのを発見して、ジロはますます不機嫌になった。


 (まぁいい、今はリーブの巡回業務の怠慢(たいまん)を責める事よりもエリカの事だ )


「まだ帰るな、訳がわからない。薬作りを断るって言っても、なんで急にそんな気になった?」

「……心当たりがあるはずです」

「……。……、……いや、ないだろう。怒らせるようなことはしていないと断言できる」


(エリカの薬作りは無給だけど、俺と同じか俺以上にガルニエ商会の事を考えてくれていたから、商売としてのポーション作りに協力してくれた。だからこそ、ただ単にタダ働きが嫌になったというはずはない)


 (ポーション関連で考えられるとすれば……水増ししてると思われてるのか?)


 利潤だけを追求したらこの十倍でも売れることには変わりないのに、この価格で売ってるのが気になった? ジロはそう考えた。


「わかった。ポーションを水増しして効能を薄めて、多く売ってるんじゃないかって思ってるんだろう?

「しているんですか?」

「してない」

「でしょうね」


 (なら、なんだろう?)


「隠すべき心当たりは……ない! 断言しよう」



「アデルとの事はどうなります?」



「アデル?」

 ジロにとっては、突拍子(とっぴょうし)もない名がエリカの口から告げられる。


「アデル? あの、俺の元カノのアデルか? 辺境伯のご令嬢の?」

「そうです。今は私の親友の一人です。しらばっくれないでください。聞きました。アデルに散々酷い事をして捨てたって、街でも噂になっています」


 (そもそもなぜエリカとアデルと知り合いなのだろう? いや……、言われてみれば昔一度会わせたな。それにアデルの気質から考えれば、一度顔見知りになれば、エリカとは独自に仲良くしそうではあるし)


「ひどい事ってのはあれか? 別荘での事か? アデルは騒動の時、寝ていたし、俺が連行された後も寝っぱなしだったな。連行中に地元の懇意(こんい)な騎士にアデルの扱いをくれぐれもと頼んでおいたから、その後のアデルにはなんの不便はなかったはずだが?」


(派手好きなアデルの事だ、人の話を鵜呑(うの)みにしがちなエリカにさぞや大げさに話したんだろうが、俺があいつを置き去りにしたのは事実。……多少の嘘は騎士として甘んじて受け入れよう)


 ジロはそう、決心した。


「ジロがみっともなくもあろう事か、近衛隊にブヒブヒと命乞いをして、代わりに、俺の恋人であるアデルの体を自由にしていいって言い捨ててみんなからレイプされて、それをあなたも笑いながら参加して、途中からは皆が見ている中、声を殺して泣くアデルにジロは嬉々として色々と……その、乱暴したとか。

「釈放後もジロと会う度にその事を脅しにレイプされたり、金を普請してきたり、仲間内でまわされたり、って。

「他にも、恥知らずな事に、今のジロは近衛隊からもらった汚れ仕事をゲヒゲヒ言いながら喜んでやっている。今回の旅行も近衛隊から命じられたんだって言ってたました。

「あとは、そうですね。……ジロは脱ぐと色々と臭いとか、そんなところですね」


 それを聞いてジロはエリカに向かってニッコリと微笑(ほほえ)み、


「ないわ!!!」


 怒声を放った。



 ◆


「ねぇよ!! アデルとは、湖畔の別荘以来一度も会ってねぇよ!

「いや、会ったな! そうだ! アデルと会ったよ!! 釈放後に往来の真ん中で石畳の上で正座させられて、あっちは仁王立ちで俺を見下ろしていたな。それから何度も猛烈な平手を往復で喰らって散々けなされた上、別荘からの帰りの旅費を請求された。

「国内で一年は豪遊できそうなほどの旅費を全額を払った!

「それにレイプ? 馬鹿言うな。ところで俺の仲間って誰だ? 自慢じゃないが、俺にはそんなにいないぞ? こいつか? リーブの事か? 品行方正で出世街道まっしぐらを目指しているリーベルト・リスマー様の事か? リーブと一緒にアデルを犯した? 

「もう一度言うが、路上で正座させられて以来、一度も会ってねぇのに犯せるか! 今、王都の方じゃ、そう言う事になってんのか? くそ! あいつめ! あーーーーっ! 最悪だ!」


 どこの出来の悪い歌劇だ!! とジロは憤慨した。無理だった。甘んじて受け入れられなかった。


(さすがは元カノだ。俺の怒り狂うポイントを的確に把握している。どおりで女の客足が絶えているわけだ! 店の再開を中央市場の掲示板に書き込ませてもらったのはもう一週間も前だ。旅行前にある程度は聖女の妙薬の噂が広まっていたのに、効果が出ないわけだ!

(くそ! 結構な金をはたいて、町中に広告を打ったのが無意味どころか、逆効果だったとは!! ずっと小屋周りの草刈りや、小屋の修復や、その他もろもろの大工仕事なんかで無為に過ごした、いきさつがわかった!)


 ハッとしてジロは新聞を見ると、情報提供の場所に『A嬢』とあった。


「おい、エリカ! お前は本当にアレだ、なんだ、ほとほとあきれた、お人好しだ! それを丸々信じたのに、俺への仕返しが魔法役作りの放棄だけ? いやはや、聖女様には、本当に呆れるな!!!」


 頭にきすぎたジロの怒りは少し変な方向へと向かっていた。


「な、なんですか? 丸々なんて信じてないもん! アデルが話をおもしろおかしく話す癖も知ってるし! 私も後半は明らかにおかしいと思ったけど、リーブもジロがアデルにひどい事をした事には違いないっていってたもん!」


 エリカの口調が完全に聖女としてのそれではなく、仮面を取り払った幼なじみのものへと変化した。


「あ~~~~っ!、何から言えばいいのか、まずはエリカ、口調が昔に戻ってる。もんはよせ。よそいき口調を忘れてるぞ」


「余計なお世話だもん!」


 と即時に返され、ジロは(にら)まれた。


「それに後半も何も、最初から最後まで全部嘘だ。前半に俺が俺を殺しかけた近衛隊の豚どもに、ブヒブヒっていう行動はお前の中の俺にとって、あり得ることなのか?」


「………でも、仮にも、アデルとは真剣に付き合っていたからには、やっぱり誠意は必要じゃないの?」


 (……そこか。確かにアデルに対して悪い事はしたが、思春期かぁ……)


 エリカにやっかいな時期が訪れた事をジロは自覚した。


「エリカにはわからないだろうが、アデルってやつは男の前では、天真爛漫(てんしんらんまん)というか、遊びは遊びと割り切るような、それはそれはイイ女なんだよ」


「でも私に嘘をつくぐらい、あなたに怒ってた。その、肉体関係だって本当の話だろうし……」


 ジロはエリカにこう言いたかった。

「それは好意的広義的に見れば、痴話(ちわ)喧嘩にも似た、単なるじゃれ合いなのだ」っと。


 だが、ジロは言わなかった。エリカに説明してもたぶん時間の無駄だろう、アデルとエリカは考え方が違いすぎる。と結論づけた。


「寝たさ。お前にいうのもなんだが、いい体してるし後腐れがない性格だったからな」


 ジロには爽やかな笑みが顔に浮かび、それを聞いたエリカは対照的に、赤らんだうろたえ顔だったが、視線と表情が見る見るうちに冷たくなった。


(やばいな……本当に俺には被虐心(ひぎゃくしん)が生まれてしまうかもしれん)


 ジロはエリカの視線にゾクゾクとしたもの感じながら、オホンと(せき)ばらいをして場の仕切り直しをはかる。


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