六年前の回想 基幹街道EL 4
「リーブ……この死霊達、本当になんなんだろう? こわいよう」
ジロと別れてから二週間が経ち、リーベルトの治療が終わった後での一言だった。
二人は絶望していた。
――特に、正真正銘、死にかけていたリーベルトを見事、魔法によって生の側に引き寄せたエリカは絶望を味わっていた。
その場所は人界と幽界の丁度真ん中。今現在のの疾風光であればあと二週間ほど、悪路だった道の状態は段々と良くなっている事も考えるともしかすると、一週間もあればも国境へと確実にたどり着く場所であった。
歴代の聖女行でここまで人界に近づけた例はないが、ようやく動けるようになったリーベルト起き上がりながら、今の状況をどうしても楽観視する事ができなかった。
リーベルトが完全に格上であるファントム二体同時の襲撃を撃退したものの、その身に、無数の魔法、そして《ドレインタッチ》による生命力を根こそぎ奪っていくようなエナジードレインによる傷を受け、呼吸することすら億劫な状態で『僕を置いて先に行くんだと』言う言葉を口にしたくとも、できない状態だった。
だが、エリカの必死の《治癒》がリーベルトの命をなんとか繋ぎ止めた。
その後、長い間、実に半日にも渡り、リーベルトはまったく動けずにエリカの《治癒》を受け続けた。
その間前方からやってくる死霊をエリカがすべて滅ぼし、危険がなくなるとまたリーベルトの元へと戻ってきた。
ようやくリーベルトの失われかけている生命力の水かさが、暖かさに下から押しされるようにぐんぐんと増すような感じを受け、自分の体が動けることに気づいた。
それからさらに十分もすると、リーベルトは戦闘や、疾走に支障なく回復したと判断できた。
そしてリーベルトが止める前に、エリカは自分から魔法をかけるのを止める。
「……私、もう一人前かも。……だって、リーブの状態がわかるんだもん」
自分の両手の平を見ながら、エリカはリーベルトに話しかけるわけでもなく、そう言った。
リーベルトには、今エリカが話しかけている相手の、ジロが見える気がした。
「一週間前にはできなかったのに……」
エリカは下唇を噛みしめる。
「これが……もっと早くにできてたら……あんな状態のジロを……」
「それは先輩だったら、肩をすくめて、こう言うだろうね「治癒の上達はよくやった。でも、お前が考えないといけないのは逃げ続ける事だけだ」ってさ」
エリカがリーベルトを見つめる。
どこか気が抜けたような顔つきをしていた。
「うん。だろうね……。…………。ジロ大丈夫かなぁ……」
リーベルトはすでに、この二週間、単独のジロがどうやって生き延びているのかすらも理解の範疇を越えている為、いかなる慰めの言葉も口にする事ができなくなっていた。
そしてリーベルトは生き残る事に必死で、今の今まで、ジロの安否を考える余裕がなかった。
治療中、リーベルトには考える時間はたっぷりとあった。
エリカは弱々しい笑みを浮かべながら、ジロの事を想っているのか、後方の霧を見つめている。
それを見て、リーベルトは悩む。
そして、言うつもりがなかったオルゴールの事をエリカに語り始める。
その話の途中、オルゴールによる死霊の強化の話を神妙な顔で聞いていたエリカは、静かに涙を流した。
リーベルトはエリカの泣き顔に耐えきれずに、立ち上がり、エリカとの距離を開けて、旅装の点検を始めた。
(先輩……僕にはあなたのように、泣いてしまったエリカと面と向かって毅然と対峙する……なんてできません)
リーベルトは自分の心の弱さに歯噛みしながら、エリカがジロがどんな状況なのかが分かった事に対する涙を止め手立てなど最初から持ち合わせていないと自嘲する。
「――エリカ。いいかい? 先輩が、どうやっているのかは分からないが、死に物狂いで今、この瞬間も頑張ってくれている。あの怖気を振るうような死の使者、強化されたゴーストやファントムが少数でやって来るたびに、僕らは先輩が生きている事を知れるんだ」
旅装の点検を十度見直した後、リーベルトはエリカが落ち着いたタイミングを見計らい、語り終えた。
エリカは口を一直線に結びながら、うつむきながら何事かを考えている。
そして顔を上げると、その目には涙が溜まっている。
エリカは手の甲ででグイッと涙を拭う。
次々とあふれ出るが構わず手で拭い続け、
「なら、安心だね」
っと、拭う作業を止めることなく、涙声のまま、エリカは言い切った。
「あぁ、僕らは一刻も早く国境について、先輩救出部隊の派遣を要請するんだ」
「うん! こんな所で、強いって文句いっててもしかたないもんね!――ジロはもっと、もっと頑張ってるんだもん!!」
ハーネスでリーベルトと繋がれたエリカが泣き顔のまま見上げ、最後は笑った。
そしてリーベルトは、疾風光中にもかかわらず、筋肉の疲労を強く感じながらも、再び走り出した。
そして、今、この段階で伝える事ができて良かったと、心の底からそう思った。




