天才にはいくら努力をしてもかなわない
メガネの男は自分のことを清水 吉城と名乗った。
「お前、僕の探し物を見つけるのを手伝ってくれるよな?」 怖えなこいつ…
「なあ… まず、そのお前っていうのやめようぜ。俺の名前は赤崎 蓮輝だ。」
「じゃあ、蓮輝。一緒について来てくれ!」 いきなり呼び捨てかよ… まあ別に気にしてないけど しかも俺まだ手伝うって言ってないからな。 だがこの状況は使える。
「手伝ってもいいが一つ条件がある。」
「条件?なんだ言ってみろ。」
「生活向上部に入ってくれ!」 頼む! いいよと言ってくれ!
「なんだその変な名前の部活は?聞いたことないな。」 やっぱりその問題か…
「最近できたばかりの部活なんだ。活動内容は学校にいる生徒の生活をより良いものにするみたいな?」
やばい俺、説明が下手すぎる… 思わず苦笑いを浮かべながら清水の顔をじっと見つめた。
「結構面白そうだな。いいぞ。入ってやる。俺の探し物がちゃんと見つかったらな。」
よかった。そっと胸をなでおろす。断られたらショックで死んでたぞ俺。
「ありがとう。清水が探してるものって何なんだ?」
「そういえばまだ言ってなかったな。これぐらいの本なんだ。」 清水は両手で大きさを表す。 見た感じふつうの文庫本より少し大きいぐらいの大きさだった。
「こんな感じの大きさで、表紙には大きな木と懐中時計が描かれている。」
「おーけー。よくわかった。なんで探しているんだ?失くしたとか?」
「最近、友達に貸したら返ってこなくなった。」 ああ、察した。
「ならその貸した友達のところへ行こうぜ。」 昼休みは30分。その間に見つけなければこの男を部活に入れることができない。これはチャンスだ。何としてもこのチャンスをつかまなければ。
「あ、本? 結構前に借りたやつか、あれなら俺の友達にまわしたぞ。」 マジかよ… 貸したという友達を訪ねたら、まさかの他のやつにまわしたとか言われてしまった。
「どうする?蓮輝」
「どうするって探してまわるしかないだろ。」 嫌な予感がした。 当たらなければいいがな…
それから15分間、俺たちが聞いた全員が、だれだれにまわしたよと言ってきた。 結局今は誰がもっているかわからない状態になってしまった。 嫌な予感が的中したな。 だが俺のもう一つの予感も当たりそうだ。
「蓮輝。見つからないな。」
「教室に戻ろう。」
「諦めるのか?」
「いや、ある場所がわかったんだよ。」
俺たちは教室に戻った。
「ある場所ってどこだよ?」 俺はまっすぐ教室の後ろにあるロッカーに向かっていく。
「なあ、清水。お前のロッカーってどこだ?」 清水は右から二番目のロッカーを指さした。
俺は清水のロッカーから本を取り出した。 ふつうの文庫本より少し大きく、表紙には大きな木と懐中時計が描かれている。
「清水。なんでこんなことをしたんだ?」 彼の表情のわずかな変化も見逃さないように彼の顔をまっすぐに見ながら言う。
清水は、にやけながら「さあ、何のことかな?」 と言った。
「とぼけても無駄だ。この本がここにあることを、お前は最初から知っていた。そうだろう?」
「お前はやめようぜ。」 俺は無視してつづける。
「最初にお前の友達を訪ねた時に引っかかったんだ。あいつは最初、俺たちが何のことを言っているのかわからないようだった。わざと、とぼけているのかと思ったがそうではなかった。しかもあいつは借りたのは結構前と言った。他のやつらに聞いた時もそうだ。みんな最初は何のことを聞かれているのかわからなそうだった。みんな忘れていたのだ。つまりお前が貸したのは最近なんかじゃない。その時点でお前が嘘をついているのはわかる。 あとはお前の本の隠し場所だ。お前は俺に本があって見つかったと言うつもりだっただろう。 その場合、絶対見つからないような場所に隠していると俺が、誰かに隠されたんだ。お前はいじめられているんだとでも勘違いし先生に報告する可能性がある。そうなるとただの冗談じゃ済まなくなる。だからその可能性はない。 次に誰か協力者がいた場合だ。誰かに本当に本を持っててもらい、その人が本を持ってました~、と後で言えばいい。しかしそれもないだろう。俺が、もしその人に本を持ってますか?と聞いてしまった場合おかしなことになる。つまりお前は自分の近くで自然に、ここにあったと言える場所でなければならない。すると一つしかないんだよ。」
俺が話している間、清水は表情一つ変えずにじっと聞いていた。
「なぜ僕がそんなことをすると思った?」
「お前は楽しんでいた。俺が必死になってお前のことを手伝っている状況を。俺の表情の変化をじっと見ていた。最大の目的は、俺にさんざん手伝しておいて、最後にはやっぱりロッカーにありましたー。とでも言い、俺の失望した顔が見たかったんだろ?まあ、なぜ、そこまでしてみたいのかまでは知らんけどな。」
「すごいな… 蓮輝。僕はね、知りたいんだよ。テストでは、ずっと学年トップだったをとってきた。僕に勉強でかなうやつはいない。一位でいることにも、もう飽きたんだ。勉強なんてしなくてもこの世の大体のことは理解できる。でもね、人の心だけはわからない。理解不能だよ。だからいろいろな表情を見ることで人の感情を理解できるようにしようと思ったんだ。 いままでいろんなことをやり、いろんな表情を見てきた。今回は失望の表情だったって、わけさ。」
「別に… どうでもいいよ… それより、本は見つけたんだ。もちろん部活入ってくれるよな?」
「そんなめんどくさいこと、たしかに約束したな… まあいいさ。僕は今、君という人間について知りたくなった… しばらく表情観察はやめにするよ。よし、僕も入ろう。」
はぁー、疲れた。 なんてめんどくさいやつだったんだ。 無駄にエネルギーを使ってしまったではないか。でもこれで今日の目標は何とか達成できたな。滝沢達も、ちゃんとやっているだろうか?
俺はボーっと窓の外を眺めた。