天才にはいくら努力をしてもかなわない
あれから2日後の月曜日。
「おはよー 」 と言いながら部室のドアを開ける。
この前の長机に滝沢と三ケ嶋先輩が座っている。
「おはようございます!赤崎くん。」
「よっ!赤崎。 おはよ。」
「二人とも何やってるんですか?」
「知らないの?トランプだよ。」
それはわかるわ! なぜ困った人を助けるための活動の場でトランプやってんだって聞いてんだよ!
「赤崎もやる~?」
「やりませんよ。 先輩、トランプやってんなら俺、帰ってもいいですかね?」
「冗談だよ、冗談。」
「三ケ嶋先輩と一緒に赤崎くんが来るのを待ってたんですよ?」 滝沢が言ってくる。
そうなのか? 待たせたのは、悪かったな。 でもな、月曜日の朝6時に起きて学校に行くという行為は2日前の朝まで引きこもりの俺には難しいことなんだよ! 気持ちの面とかいろいろ…
「では、みんな揃ったので探しに行きますか! 一緒に活動してくれる部員を!」
「はい、部長」 滝沢が声を高々に言ったのに続いて三ケ嶋先輩も返事をする。
「はいはい。何でもいいけどやるなら効率的にさっさと済ませようぜ。」
それから10分後。 俺たちは部室に戻ってきて
「どうしましょう?全く人が集まりません!」
「赤崎くん~なんかいい案ないの?」
「俺に聞かないでください。先輩。」
てか、みんなそんな簡単に人が集まると思っていたのか? こうなるのは目に見えていた気がするが…
「しょうがないです。 もうすぐ部活終了のチャイムが鳴ってしまうのでこうしましょう!」滝沢が言う。
「なになに~?」
「自分たちのクラスで、みなさん最低一人はこの生活向上部に誘ってきてください!」
いやいや無理でしょ! 俺、クラスの人とまだ一回も話したことないんだよ! それなのに、変な名前の怪しい部活に人を勧誘するとか不可能に近いから! いや、不可能だから!
「滝沢、ちょっとそれはきついのだが…」
「大丈夫だよ!赤崎くん。 きっと君ならやれるはず!」
きっと君ならやれるはずって、俺に何を期待してんですか? 三ケ嶋先輩。
「それはさあ、野球部とかサッカー部とかだったらまだ入ってくれるかもしれないよ? でもさ生活向上部ってさ無理でしょ。」
「安心してください!この学校は一人、二つまで部活に入れるんです。だから、きっと入ってくれる人もいるはずです!」
そういうことを言っているんじゃない。それに、その自信は一体どこから湧いてくるんだ… 滝沢よ…
「僕も頑張るからさ、赤崎くんも頑張ろうよ!」
「赤崎くんお願いします!」
三ケ嶋先輩の半分恐喝の励ましと、滝沢の下からの強烈な視線でじっと見つめられると、俺は断ることなどできないわけで。
「わかったよ。やってみるよ。 あんまり期待するなよ。」
「ありがとうございます!では、今日の放課後、この部室にみなさん、最低一人は連れてくるということで!」
「うん!みんな頑張ろう!」
「ああ、わかった。」
今日の目標が決まったところで、ちょうどチャイムが鳴った。
昼休み、教室で… やばい! 部活に誘うどころか、誰にも全く話しかけることができなかった。
話しかけようと努力はしたのだ。 したのだけど勇気が足りなかった。 人に自分から話しかけるのは、普通の人ならば何でもないようなことだと思うが、入学式からずっと引きこもってきた俺にとってはとても怖いことなのだ。
てか、人を避けるために引きこもってたのに、自分から話しかけに行くことになるとか…
恨むぞ、滝沢!
そんなことを考えていると「おい、お前。暇ならちょっと手伝ってくれないか?」 と後ろから声が聞こえた。 俺に言っているのか? いや、きっとこれは俺に言っているんではないだろう。 そう思い、無視をする。
「おい、聞いているのか?」
「おい!」 そう言って俺の肩をつかんだ。
「えっと、俺ですか?」
「お前以外に誰がいるんだよ。お前、今、暇だろ。」
「暇と言ったら暇だけど…」
「なら手伝ってくれ!」 眼鏡をかけていて、いっけん真面目そうな彼は、俺に無償で仕事をさせようと言ってきたのであった。