第90話 『 〝むかで〟VS〝氷水呼〟(後編) 』
――計十五の〝氷龍天華〟が〝むかで〟に炸裂した。
「……勝った?」
……見間違える筈がなかった。
迫り来る〝むかで〟に〝氷龍天華〟が直撃した瞬間をわたしは確かに見たのだ。
如何に〝むかで〟といえど、あの数の〝氷龍天華〟が直撃して無傷な筈が無いだろう。
「……所詮は盗賊。〝白絵〟様に力を与えられたわたしの敵ではなかったようですね」
勝利を確信したわたしは、咲き誇る巨大な氷の華に背を向ける。
――ピシッ……。
有 り 得 な い 筈 だ っ た 。
――氷の華に亀裂が走った。
「……っ!」
――わたしは振り向く。
――パリイイィィィィィンッッッ……!!! 氷の華が粉々に砕け散り、中から一本の腕が伸びた。
(――逃げられない!)
わたしは身を退くも、腕が迫る方が速かった。
――ガシッッッ……! その右手がわたしの喉元を鷲掴みした。
「 掴 え
ま た 」
「……ぐっ!」
……〝むかで〟は生きていた。傷一つ無かった。
「……どう……し……てっ」
……生きているの!
計十五体の〝氷龍天華〟を直撃し、一切の防御手段を取らなかった――それなのに、彼は無傷であった。
「……愚問だな」
〝むかで〟は淡々と呟いた。
「俺の素の防御力がお前の〝氷龍天華〟を上回っていた――ただそれだけの話だ」
「……ならっ!」
「どうして一撃目の〝氷龍天華〟をかわした……か?」
そうだ! 効かないのならばかわす必要は無い筈だ!
「ただの罠だよ」
「……」
「獲物を仕留めたと勘違いした憐れな獲物を捕らえる為のね」
「……」
……ふざけるな。
わたしが怖じ気づいて逃げない為の罠だったのだ。
なら、わたしはただ〝むかで〟の手のひらの上で転がされていただけだったとでも言うのか?
――この〝氷水呼〟が?
稀代の天才水魔導師。
氷の花園の支配者。
……そんな〝氷水呼〟が見下され、弄ばれたのだ。
「……………………ふっ」
氷 龍 召 喚
「 ふざけるなァァァァァァァァァァァァァァァッッッ……!!! 」
氷 龍 天 華
「 氷の華、か 」
――バキッッッッッッッッッ……!
……誰かの骨が折れる音が聴こえた。
「 貴様を弔うには相応しいな 」
……わたしの首の骨だった。