第89話 『 〝むかで〟VS〝氷水呼〟(中編) 』
「 この右手一本で片をつけてやる 」
……〝むかで〟はそう宣告した。
「……嘗められたものですね」
……わたしは魔力を練り込む。
「ならばその大口、後悔させてあげましょう……!」
氷 龍 天 華
「 ×20 」
――わたしは同時に20体もの〝氷龍天華〟を召喚した。
無論、わたしに一度に〝氷龍天華〟を20体も召喚する底力は無い。
しかし、わたしには魔導具――〝共鳴する指輪〟がある。
この〝共鳴する指輪〟は〝共鳴石〟を素材に使った指輪であり、身に付けた者は契約した精霊の魔力を借りることができるのだ。
そして、契約した精霊は〝八精霊〟の一人――〝クリスティア〟……弱い筈がなかった。
「……流石に壮観だな」
「行きなさい」
――〝氷龍天華〟の一体が飛び出した。
先程とは違う一体ずつの攻撃……カウンターを警戒した一手である。
「……だが、当たらなければどうということはない」
しかし、〝むかで〟は容易く回避した。
( かわした……! )
……それは暗に当たればただ事ではないことを示していた。
あの〝むかで〟でも〝氷龍天華〟を直撃すればただではいられない。
ならば攻めるしかない!
わたしは三体の〝氷龍天華〟をワンテンポずらしながら低空飛行で放つ。
しかし、〝むかで〟レベルの相手にその程度の攻めは通じない。〝むかで〟は最小限の動きで回避する。
――だが、これも布石に過ぎない。
「……上か」
……〝むかで〟の足下に影が差す。
――彼の頭上には――〝氷龍天華〟が牙を剥いていた。
三体の〝氷龍天華〟を低空飛行させていたのは、頭上の〝氷龍天華〟に気づかせない為だった。
「 気づいていたよ、その程度の浅知恵 」
――しかし、〝むかで〟はこれも紙一重で回避する。
「 ええ、わたしもわかっていました 」
――〝むかで〟の足下に青白い魔方陣が浮かび上がった。
「貴方がこの程度ではやられないということぐらい」
「……これは」
「何もさせません」
水 龍 陣 ・
魔 狂 水 衝
――ドッッッッッッッ……! 濁流が〝むかで〟を呑み込んだ。
「……」
――まだだ!
「……」
――必ず来る!
「……っ!」
――ドッッッ……! 〝むかで〟が〝水龍陣・魔狂水衝〟からもの凄い速さで飛び出した。
「……生きているって信じてましたよ」
「……」
――わたしは逃げも隠れもしない。
――〝むかで〟は真っ直ぐに飛び出す。
「 だから 」
わたしと〝むかで〟の距離――残り五メートル。
「 予め準備していたんですよ 」
――〝氷龍天華〟が〝むかで〟のすぐ上にいた。
「この刻、この場所に〝氷龍天華〟を放つように」
――計十五体〝氷龍天華〟が一挙に〝むかで〟に降り注いだ。
「 チェックメイト 」
――そして、
「 美しく散りなさい 」
――ドドドドドドドドドドドドドドドドドッッッッッ……!
……〝むかで〟が氷龍の顎に呑み込まれた。




