表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
95/462

  第86話 『 ドロシーVS〝氷熊〟~怪物に育てられた少女~ 』



 ……わたしは赤い竜の背に乗り、空を駆ける。


 「わあ、気持ちいい風」


 空を飛ぶという初めての体験に、わたしは胸を躍らせた。


 『空を飛ぶのは初めてか?』

 「ええ、そうよ」


 赤い竜の質問にわたしは笑顔で答えた。


 「……ところであなたは何て名前なの?」


 わたしは赤い竜に質問を返した。喋る魔物は珍しいので興味があったからだ。


 『 フェンリル、だ 』


 「……ふーん、変わった名前」


 そんな風に話していると、村から少し離れた茂みにフェンリルが着地した。


 「もう、終わりなの?」

 『ここからは歩きだ』


 そう言うとフェンリルは狼の姿に形を変えたのだ。


 「……驚いたわ。あなた、竜じゃなくて狼だったの」

 『ああ、これが俺の力だ。お父様譲りで俺は何にでも姿を変えられるんだ』

 「……お父さんもいるのね」

 『さあ、無駄話は後にしよう。とにかく、俺の背中に乗りな』


 わたしはフェンリルに催促され、彼の背中に乗っ

た。彼の背中はふさふさふわふわで、乗り心地はよかった。


 「どこへ行くの?」

 『お父様のところさ』

 「お父様ってどんな人なの?」

 『お父様は強くて怖い人さ』

 「ねえ、わたしはどうなってしまうの?」

 『……お嬢ちゃんは質問好きだな』


 わたしは気になって仕方がなかった。彼が何者なのか、何の目的でわたしを助けてくれたのか。気になって仕方がなかった。


 『説明は後でする。さあ、そろそろお父様がお見えになられるぞ』

 「……」


 迫り来る威圧感にわたしは思わず閉口した。

 そして、茂みを突き進むこと数分。人影が一つ、わたし達を迎えてくれた。


 『やあ、初めまして――ドロシー=ローレンス』


 ……意外だった。


 『おや? わたしの顔に何か付いているのかな?』


 なんと、お父様は人間の姿をしていた。しかも、かなりの優男だった。


 「……いえ、何でもありません」


 わたしは思わず表情が強張ってしまう。


 『じゃあ、単刀直入に言うけどドロシー、わたしは君を心配しているんだ』

 「……心配?」


 わたしは思わずおうむ返ししてしまった。


 『君は確かに人間だよ。でも、君はこちら側で生きるべきなんだよ』

 「……」

 『君もこの前のことでわかったんじゃないかな――君は向こうの世界では生きられない』

 「……」


 突飛な話にわたしは返す言葉も思いつかなかった。


 『君は魔物を引き寄せる――そんな体質の持ち主なんだよ』

 「……」


 ……図星だった。それは以前から薄々勘づいていたことだった。

 その疑惑は今、〝お父様〟によって抉じ開けられてしまったのだ。

 そう、わたしは知っていた。


 「――……いの」



 ……わたしは普通じゃない。



 「……じゃあ」


 ……わたしは他の人とは違う。


 「……どうすれば……いいの?」



 わ た し は 何 者 ?



 「……家に帰りたいよ」

 『……』

 「……家族に会いたいよ」

 『……』

 「……普通の生活に戻りたいよ」

 『……』


 俯いて涙を流すわたしを、〝お父様〟は静かに見下ろした。


 『だから、家族になろう』


 「……っ!」


 その結論にわたしは度肝を抜かれた。


 『わたしはフェンリルの父――〝LOKIロキ〟だ』


 〝お父様〟がわたしの頭に手を乗せた。


 『そして、フェンリル。彼は君の新しい――父親だよ』


 わたしはフェンリルの方を見た。


 『 えっ? 』


 ……フェンリルがえっ、何それ初耳と言わんばかりの反応をした。


 『……あれ、言ってなかったっけ?』

 『言ってないよ!』


 首を傾げる〝お父様〟とそれに突っ込むフェンリル。わたしは益々困惑した。


 『じゃあ、任せたよ』

 『ちょっ、待ってくださいよっ、お父様!』


 〝お父様〟はフェンリルの制止の声を無視して姿を消した……何ていい加減な魔物なのだろう。


 『……』

 「……」


 取り残されたわたしとフェンリルはただただ沈黙した。


 「『 あっ 』」


 ――同時に口を開いた。


 「えーと、お先にどうぞ」

 『いや、俺はいい。そっちこそ何だよ』

 「えっ、わたしからですか」

 『わかった。俺から言おう』

 「あっ、やっぱりわたしから言います」

 『……どっちだ』


 テンパるわたしをフェンリルは静かに突っ込んだ。


 「……」

 『……』


 ……また沈黙してしまった。何だか、上手くいかなかった。


 『 宜しくな、ドロシー 』


 ……それはフェンリルの声だった。


 『……俺もいきなり父親になれなんて言われて戸惑ってはいるが、お前を守りたい気持ちは〝お父様〟と一緒だよ』


 フェンリルの声はやけに優しかった。


 『……まあ、何だ。お前が嫌じゃなかったらだけど、俺の娘になってくれないかな』

 「……」

 『……』


 ……フェンリルの声はただただ優しかった。

 ……それはまるで本当のお父さんのような優しい微笑みであった。


 「……また、背中に乗せて空を飛んでくれる?」

 『ああ』

 「……わたし、親には結構我が儘だけど?」

 『子供はそのぐらいが丁度いい』

 「じゃあ、あの」


 ……わたしはフェンリルのふさふさの毛に触れる。体毛越し伝わる彼の体温はとても温かかった。


 「……お父さん、て呼んでもいい?」






 『……………………〝父ちゃん〟と呼んでくれ、〝お父さん〟は少し照れ臭いから』


 フェンリルはそれだけ言ってそっぽを向いた。


 「……」


 わたしは少し考えた。


 「うん! よろしくね、父ちゃん!」

 『……ああ、宜しくな』



 ……こうして、わたし達は家族になったのであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ