第84話 『 ドロシーVS〝氷熊〟~嗚呼、お父様~ 』
「 あらあら♡ 」
……解説します♡
突然、地面から氷の壁が出てきてさあ大変! 私は皆様とはぐれてしまいました!
「困りましたねー」
更に、敵の一人と思われる人物に見つかってしまいました!
「とっても強そうですねー」
果たして! 私の運命は如何に……!
……………………。
…………。
……。
……解説終わります♡
「……余裕そうだな」
そう呟いたのは私の前に立ちはだかる巨体の戦士であった。
「そう見えますか?」
「……」
彼は無言で肯定する。
「警戒しているところ申し訳ありませんが、私、凄ーーーーーーーーく弱いのですよ」
「確かにそう見えるな」
「お分かりいただけましたか?」
「だが、見た目が全てではない。実際に戦ってみなければそいつの強さは分からないからな」
……うーん、話し合いで解決とはいかないようであった。
「……嘘は言っていないのですがー」
その言葉通り、私は嘘を吐いてはいない。
私の現在のレベルはLv.51であり、魔法は愚か体術も人並みである。加えて、〝特異能力〟も覚醒していないし、強力な魔道具の類いも所持していなかった。
……私は弱い。それは紛れもない事実であった。
そして、私の前に立ちはだかる〝氷熊〟――彼は強い。
レベルや技を見なくとも、立ち振舞いや威圧感でわかった。
弱者VS強者……勝敗は語らずともわかるであろう。
その他と〝白絵〟様が戦うようなものである。議論の余地も無かった。
「……お喋りも飽きたな」
〝氷熊〟がボソッと呟いた。
「 死ぬか 」
――突然、〝氷熊〟の腕に氷がまとわりついた。
「……これは」
……それは見たことのある光景であった。
氷は腕だけに留まらず全身を覆うように侵食する。
「……ニア様の奥の手」
……全身を覆う氷。
……その姿は異形の怪物。
……全身から冷気が吹き出していた。
氷 鬼
……氷の怪物が私の前にいた。
「あと、五人殺さないといけないんでな」
――〝氷熊〟が静かに構えた。
「悪いがお前一人に時間を掛ける訳にはいかない」
――一瞬の静寂。
「 今すぐに死ね 」
――〝氷熊〟が高密度水蒸気を足裏から噴出し、その反動で一挙に間合いを詰めた。
「 嫌です♡ 」
――〝氷熊〟が拳を振りかぶる。
――わたしはその場から一歩も動かない。
「 駄目ですよ――お父様 」
――〝氷熊〟が渾身の一撃を繰り出した。
「 あんまり乱暴にしては♡ 」
――腕一本、宙を飛ぶ。それは氷の右腕。
「 !? 」
……〝氷熊〟の右腕だった。
「……何が起こった?」
……〝氷熊〟が咄嗟に距離を取る。
「紹介します」
混乱する彼に私は答え合わせをする。
「彼は私の――……」
……それは巨大で、
……無表情で、
……全身が火炎の巨人。
「 〝お父様〟です 」
……それは、私の唯一のお父様だ。
「 以後お見知り置きを♡ 」
……私は〝お父様〟を背に、〝氷熊〟に浅く会釈をした。