第83話 『 侵入者X 』
「 へえ、意外にやるようですね 」
……わたしは水晶玉を見つめ、呟いた。
わたしはこの〝氷の花園〟を統べる――〝氷水呼〟である。
〝氷水呼〟と名乗ってはいるがこれは〝白絵〟様が名付けた名前であり、本名ではない……〝白絵〟様は人のあだ名を考えることが好きなのだ。
「〝蒸鬼〟・〝葵〟は敗れ、〝氷熊〟は敵の一人と接触中……〝紫鶴〟は――迷子ですね」
現状、戦績は芳しくない。〝紫鶴〟に関しては論外であった。
「……あの子の方向音痴には困ったものです」
わたしは部下の至らなさに溜め息を溢した。
とはいえ、〝紫鶴〟が〝四泉〟最強なのも事実だ。彼が戦えば戦況は覆るであろう。
「まあ、何にしても」
――わたしが敗けることは有り得ないでしょうね。
……前の戦いを見るからにそう判断せざるを得なかった。
「……おや?」
幾つもある水晶の一つを見たわたしは首を傾げる。
「……今、一瞬だけ、人影が見えたような」
……しかし、水晶には侵入者一行と〝四泉〟を除いて誰一人として見当たらなかった。
(……勘違い、でしょうか?)
……わたしはそう判断して、再び侵入者と〝四泉〟との戦いを傍観した。