第82話 『 ギルドVS〝葵〟~風、覚醒!~ 』
「……どんな手品を使ったのかな?」
……僕は目の前に悠然に立つギルドに問うた。
僕の目がおかしくなければ、彼女は〝暴風結界〟で防いだり、僕のように分身を使った様子は見えなかった。
しかし、彼女は確かに僕の前に立っていたのだ。
「教えてほしいな」
「……」
――霧が掛かる。
これでギルドの視覚は封じた……〝蒸鬼〟のように〝霧の眼〟が無い僕も彼女の姿は見えないけど。
「 & 」
――ギルドの周りに〝千年水槍〟を召喚した。
「これはかわせるかな?」
「……」
――千を超える水の槍が一挙に撃ち出された。
「……」
「……」
……訪れる沈黙。
「……」
「……」
……霧が晴れる。
……そして、開けた視界。
「 わお 」
……ギルドはただ悠然と立っていた。
「なるほどね」
僕は彼女のからくりがわかった。
ギルドは防いだ訳でも、弾き落とした訳でも無い。
彼女はただ槍の軌道を読んで、槍の当たらない場所に移動したのだ。
――どうやって?
「……風を読んだんだね」
「……」
彼女は無言で肯定した。
――〝風読み〟。
……それは大気の風の流れを読み、空間内の情報を掌握する、風魔導師でも上位の技だ。
しかし、そうなると疑問も生まれる。
〝風読み〟は風魔導師でも上位の技だ。それにも拘わらず彼女は〝風読み〟を成し得た……滅多に使うことの無い不得手な風魔法でだ。
同じ魔導師だからこそ言えるけど、一つの属性の魔術だけでも相当の鍛練が無ければ一流の域には達しない。
だから、二つの属性を操る魔術師はそれだけで十分凄いことなのだ。
しかし、彼女は火と光の二つの属性に加え、第三の属性――風をも一流の域に達していた。
――天才。
……つまりそういうことなのだろう。
だとするならば、これは少しまずいことになった。
僕の〝水月〟は絶対防御――ではない。最強クラスの魔術を受ければ跳ね返せず、崩壊してしまうのだ。
相性の良い火炎魔法や光魔法ならともかく、相性の悪い風魔法で上位魔法を撃たれてはこちらが打ち負けてしまう。
もし、彼女が上位の風魔法を扱えるとするならばもう油断はできない。
「……」
とはいえ、僕も〝四泉〟の一人、簡単には負けてやるつもりはなかった。
僕は再び構えて、ギルドの挙動を窺った。
「 恐いの? 」
――ギルドの声だった。
「……僕が?」
僕は反射的に問い返した。
「うん、そんな顔してるよ」
「……」
……落ち着け。
僕は咄嗟に自制心を働かせた。
これはただの挑発だ! 乗せられる必要はない!
「面白いことを言うね」
「……」
「今、この戦いの主導権は僕が握っているんだよ」
「……」
「僕の〝水月〟は完全無敵、君の風でも破れな――……」
「 よく喋るね 」
……ギルドが笑った。
「……………………そうだね」
――発動!
「言葉は要らないね」
水 龍 召 喚
――巨大な水の龍を召喚する。
「 そして、もう終わりにしようか 」
「 同感 」
――超真空抜刀術……。
絶 風
……風が吹く。
……何かが通り抜けた。
……そして、一瞬の静寂。
――斬ッッッッッッッッッッッッッ……!
……斬撃が走り抜けた。
……理解が追い付かなかった。
……気づけば〝水龍召喚〟も〝水月〟――そして、僕の身体も切り裂かれていた。
……飛び散る血飛沫・水飛沫がやけにスローモーションに感じられた。
「……くっ……がっ」
……あっ、意識が飛ぶ。
……身体が地面に落ちる。
(……僕が……負ける?)
……僕は最後の力を振り絞って、彼女の方を見た。
「 言ったよね――あなたを殺してでも先へ進むって 」
……彼女はそう言って、冷たく微笑んだ。
「……」
……僕の意識はそこで完全に途絶えた。