第81話 『 ギルドVS〝葵〟~霊王VS水月~ 』
「 これは驚いた 」
……〝葵〟は愉しげに笑う。
「生まれて初めての体験だ」
……風が吹く。
……細かい水の滴が降り注ぐ。
「 三つの属性を操る人間と出会ったのは、ね 」
――わたしを中心に〝風〟が渦巻いていた。
「それが君の〝特異能力〟なのかな」
「ええ、そうよ」
……そう、これがわたしの〝特異能力〟――〝霊王〟。
「いいね♪」
――〝葵〟が真っ正面から飛び出した。
「なら僕も全力で行かせてもらうよ……!」
〝特異能力〟――解放!
「その目に刻め」
水 月
――〝葵〟の目の前に巨大な水の楯が召喚された。
「これが僕の本気だよ」
「……?」
これが〝葵〟の〝特異能力〟のようだ。見た目からはその能力はわからない。
ただ、あの形状からして恐らく受け身の技であろう。
「試してみようか」
何にしてもやって見なければ能力を暴くことはできない。
「 疾風一刀 」
――ブンッッッ、わたしは右腕を薙いだ。
風 刃
――疾ッッッッッ……!。風の斬撃が〝葵〟を襲った。
「 無駄だよ 」
……〝葵〟が笑う。
――〝風刃〟と〝水月〟が衝突した。
「……っ!」
「 跳ね返すから♪ 」
――同時。〝風刃〟は軌道を180°曲げ、わたしに襲い掛かった。
「……なるほど」
これが〝水月〟の力――〝反射〟だ。
わたしは咄嗟に脇へ跳んで、〝風刃〟を回避した。
「 隙あり♪ 」
「 !? 」
――〝葵〟はわたしの真横にいて、既に右腕を振りかぶっていた。
……まずい! 油断し――……。
「 〝爆水〟 」
――直撃! 超密度の水の固まりがわたしに炸裂した。
「……くっ!」
わたしは吹っ飛ばされるも、爆発の反動を活かして、壁との衝突を避けた。
「……っ!」
――激痛が全身に走り抜ける。
(……油断した。これ結構キツいね)
わたしは更なる追撃に備えて構え、視線を〝葵〟に走らせた。
……〝葵〟はただ微笑み立っていた。
――同時。
「……?」
――〝葵〟はわたしの背後にいた。
「……あっ」
わたしは一瞬で目の前に立っていた〝葵〟が水分身であったことを悟った。
「 さっきと同じパターンだ 」
……それは一瞬のこと。
「……えっ?」
わたしは右手を後ろに回していた。
勿論、わたしは後ろを振り向いたりはしていない。
その手のひらは恐らく〝葵〟を捉えていた。
そして――……。
炸 裂 す る 右 手
――大爆発が〝葵〟に炸裂した。
「……やった?」
……そのとき、わたしは一瞬だけ油断した。
「 よくやった――〝水月〟 」
――大爆発がわたしを吹っ飛ばした。
「……ぐっ!」
吹っ飛ばされたわたしは地面を転がる。
……やられた! 〝葵〟はわたしの〝炸裂する右手〟をあの一瞬で〝水月〟を割り込ませて反射したんだ!
「……反射神経、よし」
〝葵〟が満身創痍なわたしを見下ろす。
「火炎魔法、光魔法もよし」
〝葵〟の周りに水が集まる。
「でも、僕には勝てない」
水が無数の槍へと形を変える。
「水は火を打ち消し、光もねじ曲げる」
水の槍がわたしに狙いを定める。
「第三の属性――〝風〟はまだまだ未熟だ」
――ドッッッ……! 水の槍が襲い掛かる。
「……っ!」
わたしは身を捩って、水の槍を辛うじて回避する。
「君に勝ち目は無い、諦めなよ」
「……」
水 刃 走 刃
――水の斬撃が撃ち出される。
暴 風 結 界
――わたしは周囲に竜巻の結界を展開して、〝水刃走刃〟を弾いた。
「わたしは諦めない……!」
「強情だね」
――ゾクッッッ……! 〝葵〟のプレッシャーが跳ね上がった。
「でも、捩じ伏せるよ」
「……っ!?」
……目の前に広がるのは――巨大な水の壁。
「……これは!」
……ニアさんや〝しゃち〟が使っていた。
蹂 躙 す る 水 壁
……だった。
「……最悪ね」
わたしは過去に二度見たその魔術に戦慄した。
二ヶ月前に〝蹂躙する水壁〟を見たとき、わたしはあまりのレベルの高さに絶望したのだ。
そして、その絶望は今、再びわたしの前に立ちはだかっていた。
「言ったろ、諦めなって」
「……」
〝葵〟が笑う。
わたしは沈黙する。
……よしっ、魔力練り込み完了♪
――わたしの頭上に巨大な魔方陣が浮かび上がった。
「言ったでしょ、諦めないって」
それは金色に輝く巨大な魔方陣――……。
終 焉 の 光
……の魔方陣であった。
〝葵〟が最強の一撃をぶつけると言うのであれば、こちらも最強をぶつければいい。
「……素晴らしい♪」
〝終焉の光〟を前にしても〝葵〟は笑みを崩さない。
「力比べといこうじゃないか……!」
――〝蹂躙する水壁〟が襲い掛かる。
「お望み通り、に!」
――〝終焉の光〟が発射される。
――迫る、巨大な水壁。
――一直線に突き進む巨大な光線。
――ゴッッッッッッッッ……! 二つの圧倒的な破壊が衝突し、弾け飛んだ。
「……相殺?」
目の前に広がる虚空にわたしは呟いた。
「 〝千年水槍〟 」
……既に千を超える水の槍群に囲まれていた。
「……!?」
……完全に油断していた。
「残念だったね」
〝千年水槍〟が一斉に降り注ぐ。
「最強の上に仕込んだ奥の手」
……回避は間に合わない。
……全てを打ち落とせない。
「それが君と僕の実力差だよ」
――ドドドドドドドドドドドドドドドドッッッ……!
……千を超える水の槍が地面に突き刺さった。
「……今度こそ終わり、かな」
〝葵〟が笑う。
「 そうね 」
――〝葵〟の笑みが消える。
「……これで終わりよ」
……何故ならわたしは千を超える水の槍を全てかわして、僅かな隙間に立っていたからだ。
「 あなたの敗北で、ね 」
……風が吹く。
……水飛沫が舞う。
……そして、決着の刻は訪れる。