第80話 『 ギルドVS〝葵〟~オーバーロック~ 』
「 タツタさん! お怪我はありませんか! 」
……わたしは氷壁越しに叫んだ。
「ギルドか? 俺は無事だけど、そっちは一人か?」
……良かった。怪我は無いようだ。
「わたしとフゥちゃんだけです」
しばらくして、カノンくんやフレイちゃんやドロシーさんからも返事が返ってくる。
「……では、全員無事のようですね」
仲間の安否を確認でき、わたしはほっと胸を撫で下ろす。
――コツッ
……足音が聴こえた。
「……」
咄嗟に息を殺してしまう。
――来る!
そう、近づいていた。
足音が、気配が、そして――張り裂けそうなほどに鋭い威圧感が……。
「 初めまして、お嬢さん 」
……遂に姿を見せたのは白いスーツを着こなす長身の美男子であった。
「僕の名前は〝葵〟。〝四泉〟の一人だよ」
「……〝四泉〟?」
「そう」
――〝葵〟の姿が消えた。
「ノスタル大陸最強の水魔法使いの一人だ」
――と、思ったら目の前にいた。
……来る!?
わたしは咄嗟に〝太陽の杖〟を構えた。
……ぽんっ、目の前に一輪の白薔薇が差し出された。
「……ば……ら?」
「プレゼントするよ、可憐なる魔導師さん」
〝葵〟が気障な笑みを浮かべた。その笑みから殺意や敵意は感じなかった。
「僕は女性を傷つけるような真似はしたくはない。だから、どうかここは引き下がってくれないかな」
……この人は何を言っているのだろうか。
「帰り道なら案内するし、僕の仲間にも手は出させないよ」
……もしかして情けを掛けられている?
「だが、もし君が主に歯向かうと言うのであれば、僕は君を止めなければならない」
――そう、と〝葵〟が一言挟んで冷たい笑みを浮かべた。
「 殺してでも、ね 」
――その瞬間、プレッシャーが跳ね上がった。
「……」
……なるほど、確かに言うだけはあるようだ。
そして、彼の言葉に嘘偽りが無いことも確信は無くとも信頼はできた。
「……」
「どうする?」
沈黙するわたしに〝葵〟が静かに催促する。
「 ごめんなさい 」
――ボンッ、白薔薇が爆発した。
「その薔薇を受け取ることはできない」
燃えた花弁が散り、氷の地面に落ちる。
「わたしはギルド=ペトロギヌス。空上龍太の最初の仲間であり一番の仲間だよ」
……だから、裏切れない。
「 あなたを殺してでも先へ進む……! 」
……それが結論であった。
「……」
「……」
わたしと〝葵〟は無言で睨み合った。
「 それは残念 」
――〝葵〟の姿が消える。
「 だよ 」
――声は後ろから聴こえた。
「 これで二度目 」
――しかし、わたしは振り向かずして光の剣で背後に立つ〝葵〟を切り裂いた。
「あなたの技を見切るには充分な時間だったよ」
――決まった……などとは思わない。何故ならわたしが切り裂いた〝葵〟は水分身ですぐに崩れ落ちたからだ。
「お見事、と言わせてもらうよ」
……本物の〝葵〟はわたしの目の前に立っていた。
「正直、僕は君を侮っていたね」
当然のことながら〝葵〟は無傷であった。
「これからは失礼の無いように全力で狩らせてもらうよ」
〝葵〟の周りに水が逆巻く。
「狩る? ご冗談を 」
火 焔 球
――わたしは巨大な炎弾を幾つも召喚する。
「 狩人はわたし、獲物はあなた 」
――炎弾が一挙に〝葵〟に撃ち出された。
「いいね、殺る気満々だ」
水 壁
――しかし、水の壁によって炎弾は相殺されてしまう。
蒸発した水蒸気が吹き荒れる。
……やはり、相性の差はでかい。
彼の魔術は水魔法、わたしの魔術は火炎魔法――相性では向こうに歩があった。
「水は火を打ち消す――常識だよ」
な ら 。
「 光だったら? 」
切 り 裂 く 閃 光
――わたしは〝葵〟目掛けて、光の斬撃を撃ち出した。
「 残念 」
水 壁
「 だったら屈折させるだけだよ 」
「 !? 」
――〝水壁〟と衝突した〝切り裂く閃光〟が軌道を変えた。
「最後のチャンスだ」
〝葵〟の周囲に巨大な水の蛇が渦巻く。
「君の攻撃は僕に通用しない、大人しく投降するんだね」
「……」
……火は水に打ち消され、光は水に曲げられる。相性、最悪だった。
「聞こえなかったかい?」
〝真白〟相手ならば辛うじて属性差を覆せたが今回はそうはいかない。〝四泉〟の〝葵〟、属性差を覆すにはあまりにも強すぎた。
「諦めろと言ったんだけど」
「……………………よ」
だからって逃げ出す訳にはいかない。
「 イ・ヤ 」
「 死刑執行だ 」
大 海 蛇
――水の大蛇がわたしに襲い掛かった。
「……属性差は確かにでかいね」
……それは認めよう。
「でも、それはわたしにだけ言える話じゃないよね」
〝特異能力〟――解放
「 出番だよ、フゥちゃん 」
〝大海蛇〟が襲い掛かる。
わたしは逃げも隠れもしない。
フゥちゃんがわたしに飛びつく。
霊 王
――そして、水飛沫が弾け飛んだ。




