第79話 『 カノンVS〝蒸鬼〟~魔銃転生~ 』
――0.00
「 行くよ 」
――1.21
「 いつでもどうぞ 」
――3.00
僕は地面を強く蹴った。
更に間髪容れずに壁を蹴って、天井を蹴って、最後に壁を蹴って、着地した。
「 吼えろ 」
――3.01
……僕は〝蒸鬼〟の背後を取り、〝火音〟を構えていた。
「――!?」
「 〝破王砲〟 」
――轟ッッッッッ……! 特大の〝破王砲〟が〝蒸鬼〟を呑み込んだ。
「……あっ、外した」
僕は〝破王砲〟の隙間から一瞬だけ見た。撃ち出された〝破王砲〟を〝蒸鬼〟が水蒸気爆発によって軌道を逸らした瞬間を……。
ならば、〝蒸鬼〟はまだ生きている。油断するにはまだ早い。
……深い霧が掛かる。
……世界は真白に染まる。
「 驚いたよ 」
……〝蒸鬼〟の声が霧の中から聴こえた。
「君の速さはわたしの速さの遥か上にある」
「……」
霧の中から聴こえる〝蒸鬼〟の声は何処か喜色を帯びていた。
「その超速移動能力こそが君の〝特異能力〟なのかね」
「半分正解、かな」
――〝雷羽〟、解除。
僕がそう心中で唱えると、身体に纏っていた電気が消えた。
「今度はこれだ」
――装填
「 〝火音〟 」
――〝魔銃転生〟
破 王
――蒸ッッッッッッッッッッ……!
……僕の身体から蒸気が噴き出した。
「……汽車ごっこかい」
「どうかな?」
……霧の中から何かが迫ってくる。
「試してみようか」
――幾つもの〝白撃〟が僕に襲い掛かった。
「 無駄だよ 」
……僕は〝白撃〟をかわさなかった。
……ただ、そこに立ち尽くしていた。
――そして、〝白撃〟が僕に炸裂した。
……水蒸気が爆散する。
……暴風が巻き起こる。
「 言ったでしょ 」
……僕はその場から一歩も動いていなかった。
「無駄だって」
それどころか傷一つ負っていなかった。
久し振りに使ったけど、これが〝魔銃転生〟火の型――〝破王〟、一時的に肉体を強化する僕の〝特異能力〟だ。
ちなみに、さっきの超高速移動は〝魔銃転生〟雷の型――〝雷華〟だ。
〝火音〟を装填すれば〝破王〟。〝雷羽〟を〝装填〟すれば〝雷華〟。このように六式銃の性質を肉体に取り込むことができるのが僕の〝特異能力〟、〝第2形態〟――〝魔銃転生〟なのだ。
更に、〝魔銃転生〟で装填した弾丸は解除と同時に指先から撃ち出すことができる。これは奥の手だ。
「言っておくよ、〝蒸鬼〟」
僕はどこにいるのかもわからない〝蒸鬼〟に語りかける。
「あなたの水蒸気は僕には通用しない」
「……」
「僕の勝ちだ」
「……」
……僕の勝利宣言に〝蒸鬼〟から発する威圧感が変わった。
「認めよう、確かにわたしの水蒸気は君には通用していない」
――何かが来る……そんな気がした。
「 でも 」
――僕は咄嗟に脇へ跳んだ。しかし、右肩が浅く切り裂かれた。
「……っ!」
「 この魔力を練り込んだ刃なら届く筈だよ 」
……なるほど、これが〝蒸鬼〟の奥の手か。
魔術では水蒸気を使った水魔法が得意のようだが、〝蒸鬼〟の最も得意とするのは剣術であった。
「兄は優れた剣士だ。そして、それは弟であるわたしも同じだよ」
――霧の中から斬撃が繰り出される。
「……っ!」
僕は咄嗟に回避するも、左腕を僅かに切り裂かれた。
……まずい。〝蒸鬼〟の剣の腕は超一流だ。それに加えてこの深い霧と〝霧の眼〟がある。
正直、かわすだけで手一杯だった。
とは言うもののこれは最大の好機でもある。
この深い霧の中で距離を取られれば、僕に〝蒸鬼〟を捉える術は無いからだ。
故に、〝蒸鬼〟が接近戦で攻めてくる今こそが反撃のチャンスであった。
どうにかして接近する〝蒸鬼〟にカウンターを食らわせる。それが勝利の条件であった。
「……何を企んでいるかはわからないが無駄だよ」
――斬撃が走る。
「〝霧幕〟、〝霧の眼〟、そして、この名刀――〝時雨〟。わたしに死角は無いよ」
――僕は辛うじて回避する。
「 そうだね 」
しかし、僕は簡単には諦めない。
「……あなたの戦略は完璧で欠点が無い」
「だから、諦めるのかい」
「いいや」
僕は〝火音〟をホルダーから抜き出し、銃口を地面に向けた。
「 諦めたくないからこじ開けるんだよ 」
――そして、引き金を引いた。
破 王 砲
――轟ッッッ……! 地面に〝破王砲〟が炸裂し、周囲に暴風が吹き荒れる。
「……〝霧幕〟、攻略」
……暴風によって〝霧幕〟が吹き飛び、〝蒸鬼〟の姿が露になる。
「見つけたよ」
――僕は〝蒸鬼〟が逃げたり、〝霧幕〟を展開するよりも速く飛び出した。
「愚かな、わたしに接近戦を挑むとはね」
――〝蒸鬼〟も抜刀で迎え撃つ。
……速い! コンマ数秒差で向こうの方が速い!
このままでは僕の拳が届くよりも斬撃が僕の土手っ腹を切り裂くだろう。
――でも、勝つのは僕だ。
何故なら僕は拳を突きだしたのではないからだ。
そう、僕が突きだしたのは拳じゃない。
「 !? 」
――人差し指だ。
……僕の突きだした右手は人差し指と親指を立て拳銃の形をしていた。
――〝魔銃転生〟で装填した弾丸は解除と同時に指先から撃ち出すことができる。
……僕は〝蒸鬼〟を殴ろうとしていたんじゃない。〝蒸鬼〟に〝火音〟を炸裂させようとしていたのだ。
――斬撃が走る。
――人差し指の先が赤く発光する。
「 お見事 」
「 解放 」
破 王 砲
――轟ッッッッッッッッ……!
僕の人差し指から撃ち出された〝破王砲〟が僕に斬撃が届くコンマ一秒前に〝蒸鬼〟に炸裂した。
〝蒸鬼〟は勢いよく吹っ飛び、遥か数メートルを転がる。
「……」
やがて、〝蒸鬼〟は静止し、氷の地面に横たわった。
僕はそんな〝蒸鬼〟に歩み寄る。
「……完敗……だよ。少年」
……意識はあった。しかし、とてもじゃないけど戦える状態ではなかった。
「よもや、この〝蒸鬼〟が年端もいかない子供に負けるとは、才能とは恐れいったよ」
「……」
〝蒸鬼〟は敗北したにも拘わらず嬉しそうであった。
「先へ行くがいい、少年よ」
〝蒸鬼〟は笑った。
「この先には君を超える化け物がいるのだからね」
「 喜んで 」
――僕は即答した。
「僕は〝白絵〟を倒すんだ。こんなところじゃ立ち止まれないんだよ」
それだけ言って、僕は〝蒸鬼〟に背中を向けて歩き出した。
「望むところだよ、〝氷水呼〟」
僕は静かに呟き、フレイちゃんと合流する。
「お待たせ、行こっか」
「はっ、はい」
……そして、僕とフレイちゃんは氷の地面を駆け抜けた。