第78話 『 カノンVS〝蒸鬼〟~オーバーフェイズ~ 』
「 見つけたよ 」
……予想外なことが起こった。
それは突然のこと。足下に亀裂が走り、地面から氷壁が発生したのだ。
その氷壁は僕らを分断し、僕の場所にはフレイちゃんしかいなかった。
仲間がバラバラになっただけでも大変なのに、それに加えて――来訪者が僕らの前に姿を見せたのだ。
それは白髪と白髭を携え、面には深い皺を刻み、頭にはシルクハット・長身な身体にはスーツを着こんだ老人であった。
「初めましてと言うべきかね」
「……フレイちゃん、下がってて」
「はいっ」
明らかに怪しかった。こんな危険な場所にいて、ここまで落ち着いていられる人間がただの老人の筈がないだろう。
何より――……。
「……」
……強いね。
……そう、老人から発せられる威圧感はまさしく強者のそれであった。
「わたしは〝四泉〟の一人、〝蒸鬼〟だ」
〝蒸鬼〟は杖をクルクルと回す。
「 そして 」
そして、静かにシルクハットを頭から外した。そこには――……?
――ぴょこっ、兎の耳が飛び出した。
「 〝刀匠〟、カグラの実弟だよ 」
――〝蒸鬼〟が僕の目の前にいた。
「……っ!?」
……速い! 一瞬で間合いを詰めた!
「 行くよ 」
〝蒸鬼〟が僕に手をかざした。
――間に合えっ……!
憑 依 弾 丸
「 穿て 」
「 装填 」
――〝破王砲〟!
……〝蒸鬼〟の手のひらから白い弾丸が放たれる。
……僕は右手を白い弾丸に打ち込む。
白 撃
破 王 拳
――轟ッッッッッッッッッッ……! 〝蒸鬼〟の〝白撃〟と僕の〝破王拳〟が正面衝突した。
僕と〝蒸鬼〟は反対方向へ弾かれる。
そして、氷上を滑り、やがて静止した。
「……」
……何だ、あの白い弾丸。金属とも液体とも言えない感触だったぞ。
僕は〝雷羽〟をホルダーから抜き出し、構える。
まずはこの最速の弾丸――〝雷鳴閃〟で様子を見るか。
「 行くよ、雷式六重奏 」
六 花 貫 通 閃
――計六つの雷の弾丸が〝蒸鬼〟に撃ち出された。
「……速いねぇ」
〝蒸鬼〟は僅か半歩右に身体を滑らせた。
……ただそれだけだった。
「 でも 」
――雷の弾丸は〝蒸鬼〟の数センチ横を通り抜けた。
「 射線さえ見切れればかわせないことはないよ 」
「……っ!」
……強い! 僕は改めて〝蒸鬼〟の実力に戦慄した。
たった一瞬の判断と行動――それだけで〝蒸鬼〟の実力を確信するに至った。
……積み重ねてきたものが違う。経験値じゃ間違いなく格上だ。
「威勢がいいね」
〝蒸鬼〟の周りに幾つもの白い球体が浮遊した。
「潰したくなるほど」
白 い 雨
「 に 」
――白い弾丸が一斉に僕に襲い掛かった。
「……」
……まずいね。
あの白い弾丸の威力は〝破王拳〟とほぼ互角、〝雷鳴閃〟で撃ち落とすのは無理だ。
「 だったら♪ 」
――トンッ、僕は小さく後ろに跳んだ。
「……むっ?」
――〝白い雨〟は僕の足下、壁に炸裂した。
「……射線さえ見切れればかわせないことはない」
……小さく後ろに跳んだだけだ。それだけで僕に〝白い雨〟は一発も当たらなかった。
「 だっけ? 」
「 お見事 」
……〝蒸鬼〟が愉しげに笑った。
「ならばこれならどうかね」
「……?」
霧 幕
……間も無くして周囲は霧に包まれた。
「……参ったな」
……何も見えなくなってしまった。見渡す限り広がるのは霧・霧・霧。
「でも、これで確信できたよ」
これこそが〝蒸鬼〟の魔術の正体だ。
「あなたの武器は水蒸気、もしくは霧のような水
の気体だ」
「……」
〝白撃〟や〝白い雨〟は圧縮された水蒸気の弾丸だったのだ。
「 御名答 」
……〝蒸鬼〟が霧の中で笑っている――気がした。
「しかし、わたしの技を見切ったところで君はわたしには勝てないよ」
「……」
深い深い霧の中、僕は感覚を研ぎ澄ませる。
「霧の中でなら互いの位置は悟られない、そう思ってはいないかね」
「……」
……集中。集中。集中。集中。
「いいことを教えてあげようか」
……集中。集中。
「 わたしの〝特異能力〟は兄――カグラと同じだよ 」
集ちゅ――……。
「……っ!」
――何かが物凄い速さで迫ってくる。
僕は咄嗟に頭を横に逸らした――同時、〝白撃〟が頬を掠めた。
「 見えているよ、少年 」
「 !? 」
――絶え間なく〝白撃〟が襲い掛かってくる。
僕は横へ跳んで、全ての〝白撃〟を回避した。
「わたしの〝霧の眼〟は霧の中にある全てを捉える」
――カツンッ、〝白撃〟を回避した僕は地面に転がる〝何か〟を蹴飛ばした。
「……ん?」
僕は視線を足下へと走らせる。
「 〝霧弾〟 」
……硝子玉のようなものが幾つも転がっていた。
「……謎解きだ、少年」
――あっ、これはヤバい。
「〝霧弾〟は極限まで圧縮された水蒸気だ。しかし、その水蒸気がもし、一瞬で開放されたならば――どうなると思う」
――爆発。これは周囲一帯を吹き飛ばす爆弾だ。
「 正解 」
……間に合え!
――パチンッ、〝蒸鬼〟が霧の外から指を鳴らした。
「 そんな君には永遠の眠りをプレゼントしよう 」
「 〝特異能力〟 」
臨界突――……。
――轟ッッッッッッッッッ……! 僕の足下が大爆発した。
「……おや」
……〝蒸鬼〟が呆けたような声を漏らした。
「おやおや♪」
そして、それは歓びの笑みに変わる。
「 本当は〝氷水呼〟との戦いの為に〝取っておき〟だったんだけど 」
……僕は〝蒸鬼〟の後ろに立っていた。
「あなた相手じゃ出し惜しみする訳にもいかないようだ」
「……面白いねェ」
〝蒸鬼〟が振り向いた。
「 これが僕の〝臨界突破〟 」
……紫電が走る。
……雷が空気を焦がす。
魔 銃 転 生
「 さあ、幕引きだ 」
……そして、死闘が再開された。




