第76話 『 突撃! 氷の花園を攻略せよ! 』
「 ……やっと着いたな 」
……俺たちは長く広い雪原を踏破し、現在、目的地である〝氷の花園〟の入り口の前に立っていた。
「皆、心の準備はいいか」
俺は振り返って、仲間の様子を確認する。
「勿論です☆」
「僕ならいつでも行けるよ」
「愚問ですよ♪」
「お供します♡」
『きゅーっ!』
……皆、昨日一日休んだお陰で体力は万全であった。
「そうだな、じゃあお構い無く!」
俺は巨大な氷の門に手を掛ける。
「〝クリスティア〟を仲間にしよう作戦――開始だ!」
そして、ゆっくりと門を開いた。
――そこには全て氷でできた広大な花園があった。
「……ここが〝氷の花園〟か」
目の前の景色に俺は思わず息を呑んだ。
四方一帯に広がる氷で造られた薔薇の花園に、その中心に建つ氷で造られた巨大な宮殿。
魔法が無ければどれだけの労力と時間が掛かるのか見当もつかなかった。
「……ギルド、〝クリスティア〟はどこにいるんだ」
「少々お待ちください」
そう言ってギルドは目を閉じて、沈黙した。
「……」
「……」
…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………。
「 見つけました☆ 」
……よしっ!
「……〝クリスティア〟は氷の宮殿の地下一階の宝物庫で氷結の呪いに掛かって、氷塊の中にいます!」
「でかした!」
そうとわかれば次の行動は一つだ。
「行くぞ、氷の宮殿!」
俺達は氷の宮殿目指して駆け出した。
『 止まりなさい! 侵入者よ……! 』
「……っ!」
突然の怒声に俺達は足を止める。女の声であった。
「……何だ?」
周りを見渡すも人の気配は無かった。
『 わたしは〝氷水呼〟――この〝氷の花園〟の支配者です 』
……声は一輪の氷の薔薇から聴こえた。どうやら遠隔で話しているようだ。
『悪いことは言いません、この庭から立ち去りなさい』
「……」
〝氷水呼〟の警告に俺は無言の反抗をする。
『退かぬと言うのであればわたしにもそれ相応の対応を取らせてもらいます』
「……!?」
俺を含む全員が驚愕した。
『 〝氷の兵隊〟 』
……幾百もの氷の兵隊が俺達を囲うように召喚されていたからだ。
『……退かぬのなら殺しますよ』
「……」
〝氷の兵隊〟が俺達に刃を向けた。
「……一つ、あんたに訊きたいことがある」
『いいでしょう』
これは、〝クリスティア〟を仲間にするに当たって絶対に確認しなければいけないことだ。
「〝クリスティア〟は元気か?」
『……』
俺の質問に氷の薔薇が沈黙した。
「俺達は〝クリスティア〟を仲間にしに来た。だが、無理矢理仲間にするつもりはないんだよ」
『……』
俺は過去にフレイを半ば強引に仲間にした。結果、俺はあいつの居場所を奪ったんだ。
たとえ、今フレイが幸せだとしても、俺達の旅は命懸けの旅だ……無理強いはしたくない。
『……はい、元気ですよ』
「氷の中に閉じ込められているのにか?」
『……』
……これは交渉だ。俺だって必要以上に争いたくなんてない。
「だから、一度でいい。氷結の呪いを解いて〝クリスティア〟と話がしたい」
『……』
「それで〝クリスティア〟が余計なお世話だと言えば俺達は身を退くよ」
……仕方のないことだが、そのときは大人しく退き下がるつもりであった。
「だが、もし〝クリスティア〟が助けてほしいと言えば」
『……』
「 俺達は全戦力を以て〝クリスティア〟をあんたから奪いに行く……! 」
――俺は〝SOC〟を抜刀した。
『……』
氷の薔薇が沈黙する。しかし、沈黙はすぐに終わりを告げた。
『 残念です 』
……氷の薔薇から溜め息が聴こえた。
『……和解は無理のようですね』
――ガチャッ、〝氷の兵隊〟が剣や槍を構える。
『 せめて安らかに眠ってください 』
――ドッッッッッッ……! 幾百もの〝氷の兵隊〟が一斉に飛び掛かった。
「 残念だ 」
……俺は静かに呟いた。
「俺も争いはしたくなかったよ」
憑 依 抜 刀
「 行くぜ、皆 」
火 龍 装 填
紅 蓮 斬 華
「 合戦だ 」
……背中の花弁が砕け散る。
……俺は〝SOC〟を振り抜く。
灼 煌 ・ 廻
……一瞬の静寂。
――轟ッッッッッッッッッッッ……!!!
……360°に放たれた圧倒的な熱と暴風が庭園にある全てを呑み込んだ。
「……御託はもういいよ」
その炎は凄まじく、〝氷の兵隊〟、薔薇の花園を全て焼き尽くした。
「戦争だ、〝氷水呼〟!」
『喜んで』
……俺は〝氷水呼〟に宣戦布告し、足下に落ちた薔薇の花弁が静かにその戦争を引き受けた。