第73話 『 鴉外伝 ~〝幻影〟VS〝幻影〟~ 』
「 あなたを殺しに来ました♪ 」
……〝黒土〟が笑う。
『 oウ 』
……怪物が唸る。
「 やだね 」
――俺は真っ正面から突っ込んだ。
……俺は今の状況を整理する。
俺は〝KOSMOS〟の一人で、現在、〝共鳴石〟を手に入れる為にグルムワール邸に侵入している。
そして、玄関を突破した俺は屋敷の中心部を目指して走っていたら、この〝黒土〟と名乗る少女と遭遇したのだ。
彼女は〝魔将十絵〟とかいう訳のわからない組織の一員で、どうやら俺を殺そうとしていた。
更に、後ろの怪物は少女の僕のようだ。
……だったらやることは一つじゃないかな。
「倒して、突破する」
……それ以外にないね。
「行くよ、弐の型」
伸
――伸びた刃が〝黒土〟へと迫る。
「 タマちゃん 」
――怪物が動き出す。
「 守って 」
――怪物の右手が俺の〝伸〟を弾いた。
『 だ め
ァ ェ 』
「硬いね」
俺は〝伸〟を解除して、接近戦に切り替える。
今度は直接〝黒土〟に斬り掛かった。
「駄目ですわ♪」
――〝黒土〟の足下から幾百もの漆黒の刃が飛び出し俺を迎撃した。
「女の子に乱暴しちゃ」
「……チッ」
俺は咄嗟に後ろに跳んで刃を回避する。
「逃がしませんよー」
漆黒の刃は無数の腕となり、俺を追随する。
「逃っげないよー」
――斬ッッッ……! 俺は全ての腕を斬り刻んだ。
「今度はこっちの番だよ」
俺は〝幻影六花〟を――地面に突き刺した。
幻 影 六 花
「 伍の型 」
蛇
――黒い影が蛇のように地面を滑り、〝黒土〟へ襲い掛かった。
地を、壁を這い、相手へと伸びる刃――〝蛇〟。これならどんなに逃げようが追尾できる。
「 (+) 」
……だが、俺の攻撃はこんなもんじゃないよ。
「 肆の型 」
裂
――〝蛇〟が分裂し、幾百もの刃となった。
「――!?」
「さっきの仕返しだよ」
幾百もの漆黒の刃が一斉に〝黒土〟に襲い掛かった。
「喰らえ」
百 影 蛇 咬
――ドドドドドドドドドドドドッッッ……! 超炸裂! 百の刃が〝黒土〟に炸裂した。
「……うーん、これも駄目かー」
俺は渋い顔で唸った。
そう、俺の視線の先には――巨大で黒い球体があった。
「 解除 」
黒い球体から声が聴こえた。そして、間も無く球体が消え、〝黒土〟が姿を見せた。
「便利だね、その黒い奴」
「お褒めにお預かり光栄ですわ♪」
黒い何かが〝黒土〟の周りを渦巻く。
「これがわたしの〝特異能力〟――〝黒の隣人〟」
〝黒の隣人〟が巨大な剣へと形を変える。
「以後、お見知りおきを♪」
――巨大な剣が俺に向かって撃ち出された。
「速っ」
――俺は〝幻影六花〟で剣を弾く。
「んで、重っ」
弾いただけで腕がジンジン痺れた。
「こんなの受けてらんないよ」
俺は後ろへ跳躍し、剣と距離を取った。
「 ビンゴ♪ 」
……ニコッ、〝黒土〟が笑った。
「……っ!?」
――俺を囲うように、千を超える小さな剣が待ち構えていた。
……あっ、まずい。
「……これ……かわせないやつだ」
――ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッッッッッ……!
……一斉に降り注いだ剣の雨が〝俺〟とその下の床を貫いた。
「チェックメイトですわ♪」
〝黒土〟が勝利宣言した。
し か し 。
――本物の俺は既に〝黒土〟の背後にいた。
「 !? 」
「 遅いよ 」
――俺に察知した〝黒土〟がきびす返した。
――俺は構わず〝幻影六花〟で斬り掛かった。
……俺の方が速い。
――ガイィィィィィンッッッ……!
「――!?」
……しかし、俺の斬撃は何者かによって弾かれてしまう。
――〝黒の隣人〟だ。〝黒の隣人〟が本人の意思とは別にオートで俺の斬撃を弾いたのだ。
「……チッ」
俺は舌打ちして、再び距離を置いた。
「行けると思ったんだけどなー」
……さっきやった俺の分身。あれこそが〝幻影六花〟陸の型――〝鏡〟。
〝幻影六花〟を俺の姿に化けさせることのできる奥の手だ。
だからこそこれで仕留めたかったんだけどなー。
「まっ、いいや」
……次で仕留めればね。
俺と〝黒土〟の視線が交差する。
「……」
〝黒土〟の表情が変わった。さっきまであった油断の色が無くなっていた。
――本気。
……ということかな?
「 殺って、タマちゃん 」
〝黒土〟が小さく呟いた。
『 くぉろす……! 』
――タマちゃんと呼ばれた怪物がもの凄い初速で飛び出した。
……でかい割りに速いな。
「じゃっ、俺も少し本気を出そうかな」
――魔力解放!
「……出てこい――〝魔焔〟」
――ドッッッッッッッッッ……! 黒い炎が全身から噴き出した。
「 行くよ♪ 」
『 コろスッ! 』
――俺は真っ正面から突っ込む。
――怪物は俺に拳を繰り出す。
……勝負は一瞬。
――斬ッッッッッッ……! 怪物が一刀両断された。
「俺の勝ちだね」
……怪物が崩れ落ちた。
「 いえ、勝つのはわたしですわ 」
――ゾクッッッ……!
……悪寒が走った。
何だこのプレッシャーは!?
俺は恐る恐る威圧感の根源へと視線を走らせる。
「……何だ……それ」
……それは巨大な蝶であった。
……その躯は黒く、美しかった。
「 〝麗羽〟 」
……それがその黒蝶の名であった。
「唯一〝白絵〟様が名付けてくださった技であり、わたしの最強の技ですわ」
〝麗羽〟を中心に高密度のエネルギーが凝縮される。
「……」
――ヤバい……!
……俺は直感的にそう悟った。
あれを受ければただじゃいられない。それほどの威力だ。
黒いエネルギーはどんどん凝縮されていく。
「よし!」
向こうが全力ならこっちも全力をぶつければいい。
「受けてたつよ……!」
俺は〝魔焔〟を〝幻影六花〟に集中させた。
「……」
……黒いエネルギー体が凝縮される。
「……」
……黒い炎が刃に凝縮される。
凝縮凝縮凝縮凝縮凝縮凝縮凝縮凝縮凝縮凝縮凝縮凝縮凝縮凝縮凝縮凝縮凝縮凝縮凝縮凝縮凝縮凝縮凝縮凝縮凝縮凝縮凝縮凝縮凝縮凝縮凝縮――……。
凝縮!
「よしっ……!」
「準備万端ですわ……!」
――両者同時に最後の攻撃の準備が整った。
「 出てこい! 」
「 穿て 」
――俺は〝幻影六花〟を振り下ろした。
――〝麗羽〟が極黒の光線を撃ち出した。
黒 羽
黒 鱗
――極黒の鴉を模した黒焔が放たれる。
――極黒の光線がそれを迎え撃つ。
――衝突ッッッッッッッッッッッッ……!
……二つの力が衝突し、周囲一帯を吹き飛ばした。
……しかし、それも一瞬のこと。
……爆風は鎮まり、目の前には虚空が広がっていた。
「……相殺?」
……そう呟いたのも束の間。
「 残念 」
――極黒の光線が目の前まで迫っていた。
「 〝黒鱗〟の最大連射回数は――三回ですわ 」
「 !? 」
――間に合わない!
もう、〝黒羽〟を撃つ時間も、回避する時間も無かった。
……俺、死ぬのかな。
それが導き出された結論であった。
――〝黒鱗〟が迫る。
――俺は動けない。
――走馬灯が脳髄を走り抜けた。
「 さようなら♪ 」
……そして、〝黒鱗〟が炸裂した。