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  第71話 『 鴉外伝 ~共鳴石を手に入れろ!~ 』



 「 やっほー、お待たせー♪ 」


 ……俺の名前は夜凪やなぎゆう、たぶんくらい十三歳だと思う。


 「……遅いな、五分の遅刻だ」


 ……俺はこの世界で生まれた人間じゃない。今から五年前にこの世界に飛ばされたのだ。


 「そんな堅いこと言わないでくれよ――〝むかで〟」


 ……この世界で行く宛も無くさ迷っていた俺を拾ってくれたのがこの男――〝むかで〟である。


 「まあ、構わない。さっさと行くぞ」


 ……〝むかで〟は大陸最凶の盗賊団――〝kOSMOS〟の頭領。


 「ラジャー♪」


 ……そして、俺もその仲間で、名を――〝からす〟と呼ばれているのだ。



 「〝共鳴石ハウリングストーン〟って、どんな石なの?」


 ……俺は作戦前に目的の内容の確認をした。


 「……〝共鳴石〟はその日の天気により色を変える変色自在の鉱石なのだよ」


 〝むかで〟無愛想かつ無表情で俺の質問に答えてくれる。


 「晴れなら橙色、雨なら藍色、曇りなら青色、雪なら白色と色を変える石だ」

 「なるほどねー」


 無愛想で無表情でも親切に疑問に答えてくれる〝むかで〟は何か好きだなー。


 「それがここにあるんだね」


 俺は目の前に聳え立つ、巨大な豪邸を指差した。


 「……そうだ」


 ――グルムワール邸。


 ……比較的文明が進んでいるとされるウェルタン大陸でも、比較的に都市化の進んでいるこのクロムポリスで一二を争う豪邸である。


 「でっかいねー」

 「そうだな」


 俺達は正門から見えない位置の壁の前に立っていた。


 「 まあ、直に壊し尽くされるよ 」


 「 そうだね♪ 」


 ……………………。

 …………。

 ……。






 ――ドンッッッッッッッッッ……!



 ……〝むかで〟の前蹴りが石の壁を貫き、巨大な風穴をぶち空けた。


 「ひゅー♪」


 うん、〝むかで〟って結構大雑把なんだよなー。


 「何だ何だーーーッ!?」

 「侵入者か?」

 「東の方だぞっ!?」


 ……警備のお兄さん達が集まり始める。


 「行くぞ、〝からす〟」

 「りょーかい♪」


 警備兵が俺達を囲むような陣形を取った。だけど――……。


 「 関係無いな 」


 ……〝むかで〟が静かに呟く。



 ――斬ッッッッッッ……。ほんの一秒前まで生きていた筈の警備兵らが胴を真っ二つに引き裂かれた。



 「……?」


 ……警備兵らは自分が死んだことに気づくよりも早く、全員絶命した。


 「……」


 ……やっぱり速いね。りゅう弐式――〝らい〟。

 最速の百足――〝雷〟。威力はともかくそのスピードは雷よりも速い神速の刃だ。

 アレは俺でも見切れないね。


 「さてと、俺も少しは働かないとね」


 俺は漆黒の刃を抜刀した。


 「行くよ――〝幻影六花げんえいりっか〟」


 それが俺の〝特異能力スキル〟の名前であった。


 「じゃあ、俺は東から行くね」

 「任せた」


 俺は目の前に立ち塞がる警備兵を切り刻み、東の方向へ飛び出した。

 〝むかで〟も俺もこんなところで死ぬような弱者じゃない。ならば、互いが互いに暴れやすいように別々に行動した方がいいのだ。

 ……まっ、〝むかで〟といると獲物を全部取られちゃうから、別行動にしたんだけどね。

 俺が屋敷の庭を横断していると、屋敷から拳銃を持った警備兵が何名か飛び出した。


 「子供だ!」

 「……何でこんなところに?」

 「関係無い! 撃ち殺せ!」


 警備兵らが俺に拳銃を構える。


 「いいよ、撃ちなよ」


 ――間髪容れずに拳銃から弾丸が発砲された。


 「 当てられればね 」


 ――しかし、俺は〝幻影六花〟で全ての弾丸を切り落とした。


 「これが〝幻影六花〟壱の型――〝刃〟」


 ……それが〝幻影六花〟の一つ目の顔である。


 「何だと!?」

 「あのガキ何者だ!」

 「構わん、この距離なら銃の方が有利だ! 撃て、撃て、撃て!」


 「 残念 」


 ――斬撃一閃。


 「そして、これが弐の型――〝伸〟」


 完全に間合いの外にいた筈の警備兵らが横一閃、両断された。


 「……俺の間合いはこの目に映る全てだよ」


 俺は刀身の伸びた〝幻影立花〟を元の長さに戻した。


 「さあて、今度は屋敷の中にでも行こうかな」


 俺は横たわる死体を横目に建物の中へと足を踏み入れる。


 「わー! 広いねー!」


 建物の中も庭と同じように広大で荘厳としていた。


 「……で、お前ら誰だよ」


 侵入者である俺を出迎えたのは四人の戦士だった。


 「我は青龍」


 ……四人の内の一人が名乗りを上げた。


 「我は朱雀」

 「我は玄武」

 「我は白虎」


 残りの三名も名乗る。


 「我々はこの屋敷を守護する為に雇われた所謂用心棒だ」

 「ふーん」


 ……正直、どうでもよかった。


 「で、強いの?」


 寧ろ、そっちの方が大事な話である。


 「 愚問だな 」


 ――白虎と名乗る男が俺の背後にいた。


 ……へえ。


 「速いね」


 「笑止」


 ――白虎がその手に握られた小型のナイフを振り下ろす。


 けど、反射神経と身のこなしは俺の方が速い――俺は身を翻して、白虎の斬撃を回避した。


 「 上だ 」


 ――俺が着地した真上に朱雀が待ち構えていた。


 「 知ってるよ 」


 ……しかし、俺もただ上を取られた訳じゃない。

 俺は制空権を獲って油断している馬鹿に〝幻影六花〟で一太刀入れ、その横腹を切断した。


 「……ぐっ!?」

 「ガッカリだよ、おにーさん」


 思いの外あっさりやられた朱雀に俺は溜め息を吐く。


 「……くくっ」


 ――朱雀が笑った。


 ……そして、異常は起きた。


 「……何……これ?」


 ……朱雀の横腹から溢れ落ちた腸がまるで意思を持っているように元の場所に戻り、又、流れ出た鮮血も吸い込まれるように傷口へと集まり、最後には切り裂かれた横腹も傷が塞がっていた。


 「我、不死鳥なり」


 朱雀が不敵に笑んだ。


 ――超速再生能力。


 ……それが朱雀の能力のようだ。


 「……ちょっと面白いね♪」


 珍しい能力だ。どんなものか試したいな。


 「超速再生……してもいいよ」


 ――俺は朱雀に飛び掛かる。


 「だったら死ぬまで殺すだけだから」

 「馬鹿め」


 ――俺は〝幻影六花〟を振り下ろした。


 ――朱雀も俺を迎え討たんと灼熱の炎を纏った拳を振り抜いた。


 ――俺の真横に青い鱗を纏った巨龍がいた。


 「 !? 」


 ……何だ……これ?


 俺がそんな感想を抱いた瞬間――俺は青い鱗を纏った巨龍の尾に叩き落とされた。


 「……やるな、咄嗟にガードしたか」


 ……巨龍が喋った。青龍と同じ声をしていた。


 「トーゼンだよ」


 巨龍の言うように俺は奴の攻撃を〝幻影六花〟で受け止めていた。


 「なるほど、それが青龍のおにーさんの真の姿なんだね」

 「御名答」


 ……なんと、青い鱗を纏った巨龍は青龍だった。


 「ならこれならどうだい」


 俺は〝幻影六花〟の刃先を青龍に向けた。


 「 〝幻影六花〟 、 弐の型 」



 ――伸ッッッッッッ……! その刀身は青龍目掛けて弾丸のように伸びた。



 「 〝伸〟 」


 「 玄武 」


 ――青龍と刃の間に何者かが割り込んだ。


 「我に指図をするな、青龍」


 そいつは玄武と名乗った男であった。


 ――玄武が巨大な盾を召喚して、〝伸〟を受け止めた。


 「……硬っ」


 俺の〝伸〟は最強の貫通力を誇る神速の刺突だ。それを受け止めたとなるとあの盾、相当な硬度だな。

 俺は〝伸〟を解除し、四人と距離を空けた。

 これが青龍、朱雀、白虎、玄武の実力か。


 「悪くないね♪」

 「余裕だな」


 ――白虎が俺の目の前にいた。


 そして、その手に握られたナイフを振り抜いた。


 「まあね」


 俺は〝幻影六花〟で白虎の剣撃を受け流す。


 「だって、俺の方が圧倒的に強いからね」

 『……』


 一同が沈黙する。


 「 殺す! 」


 ――最初に飛び出したのは青龍であった。


 青龍は巨大な顎を開いて、俺に突進する。


 「悪いけど〝むかで〟は遅刻に煩いんだよね」


 しかし、俺は一ミリたりとも動じたりはしない。


 「喰い殺してやる、クソガキが……!」


 青龍の顔は俺の目の前まで迫っていた。

 ……おっ、丁度いいところに顔があるね。


 ――俺は軽く跳躍した。


 ――青龍は構わず突進する。


 ――俺は拳を振り上げた。


 「 死ね! 」

 「 そっちがね♪ 」



 ――ゴッッッッッッッ……!



 ……俺の拳骨が青龍の脳天に炸裂し、頭部を粉々に打ち砕いた。


 「 だから、遊びはここまでだよ♪ 」



 ……俺は残る朱雀・玄武・白虎に勝利宣言した。


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