第70話 『 ブラック&ブラック 』
「 まずは一匹 」
……〝黒牙〟のスピードについてこれないのなら〝闇黒の覇者〟で反射神経・運動能力を引き上げればいい。
「 一分だ 」
……〝黒牙〟が雪原に溶け込んで襲ってくるのなら〝極黒の侵略者〟で雪原を黒く染めてしまえばいい。
「 一分で片付ける 」
――俺は目の前にいる〝黒牙〟が飛び掛かった。
『グラァッ……!』
――〝黒牙〟も俺を迎え打たんと飛び掛かる。
「ハッ、馬鹿か」
さっきまで捉えられなかった〝黒牙〟の姿が今の俺にははっきりと見えていた。
「お前らのターンはとっくに終わってんだよ」
――斬ッッッッッッ……! 俺は〝SOC〟で〝黒牙〟を一刀両断した。
「 幕引きだ 」
――〝闇黒の覇者〟によって強化された俺は目にも止まらない速さで飛び出した。
「 1 」
――一太刀。
「 2 」
――二太刀。
「 サンシイゴーロクシチハチキュウジュウ 」
――十太刀。
「 これで終わりだ 」
――俺は最後の〝黒牙〟を一刀両断した。
「 11 」
――ブシャッッッッッ……! 計十一つの血の花が黒い雪原の上に咲いた。
「……解除」
――途端に〝SOC〟は元の銀色に戻り、雪原も以前の純白に戻った。
「……っ」
……全身に疲労感が流れ込んできた。
〝極黒の侵略者〟と〝闇黒の覇者〟の同時に発動は思っていた以上に身体に響くな。
ふと周りを見渡す。
……そこには十三匹の〝黒牙〟の死体と同じ数の血溜まりができていた。
「……ああ、何てことを」
女の子の父親が目の前の光景に頭を抱えていた。
「〝黒牙〟様を殺してしまった、もう終わりだ」
「……」
俺は女の子の父親の下まで歩み寄る。
「 大丈夫さ 」
俺は女の子の父親にそうはっきりと言い切った。
「ここの雪は年中溶けることはない、だからこの雪の下に埋めちまえば問題ないさ」
「……でも、埋めても〝黒牙〟様の呪いが!」
「そんな呪いがあったとしても呪われるのは殺した俺だ。だから、あんたが気にすることじゃないさ」
「だとしても、俺は見ず知らずのあんたを巻き込んでしまった、一体どう責任を取ればいいんだ!」
「それこそあんたが気にすることじゃないさ。俺はやりたいことをやりたいようにやっただけだから」
そう、この狼を殺したのは俺一人だ。
「あんたらはただそこにいただけだ。〝黒牙〟は俺が殺した……ただそれだけだ」
「……あ、ああ」
……と、会話はここまでだな。村の奴等が来る前に死体を埋葬しないとな。
「ギルド、雪を溶かしてくれ」
「ラジャーです」
既に女の子の治療を終えたギルドが火炎魔法で地面の雪を溶かした。
深く降り積もっていた雪を溶かすだけでそれなりに深い穴ができ、俺達は〝黒牙〟の死体を雪の穴へと移し、周りの雪を掻き寄せ、穴を埋めた。
「……よし、じゃあ行くか」
一通りやること済ませ、休憩した俺達は再び〝氷の花園〟を目指すことにした。
「娘を助けてくださり、本当にありがとうございます」
「おにーちゃん、ありがとー」
女の子と女の子の父親からの謝辞を背に俺達は広い広い雪原を歩き出した。
「 と こ ろ で だ 」
……俺は足を止めて振り返る。
「 何だそれ? 」
……俺はギルド――の僅かに右を見て、そう訊ねた。
「えーと、この子はですねー」
答えたのはギルドであった。
「可愛いのでさっきわたしが拾っちゃいました☆」
ギルドが〝それ〟を抱き締め、はにかんだ。
「……拾っちゃいました、て」
俺は再び〝それ〟を凝視する。
……〝それ〟は羊と兎を足して二で割ったような見た目をしていた。
……〝更に額に緑色の宝石を埋め込んでいた。
……留めに何か浮いていた。
「ギルドさん、その子は動物じゃないですよ」
そう答えたのはフレイだった。
「わたしも精霊なのでわかりますが、その子は精霊です。恐らく風の大精霊ですよ」
……あー、何だっけ。確か精霊にもランクがあって、妖精→大精霊→八精霊→精霊王、の順番で偉かったんだっけ。
「もしかすると旅の仲間にしてみてはどうですか? 何かの役に立つかもしれませんよ」
「うーん」
俺は目の前を浮遊する風の精霊を見てみる。
『キュー』
風の精霊が可愛く鳴いた……まあ、害は無さそうだな。
「……かっ、可愛い!?」
ドロシーが何か萌えていた。結構、可愛いものに弱いようだ。
「そうだな」
……確かにフレイの言う通りかもしれないな。まだ〝SOC〟に憑依できるかわからないけど、この大精霊はフレイには劣るもののかなりの魔力を感じた。
「まあ、いいかな」
「わーい! わーい! やったー☆」
ギルドが本当に嬉しそうに万歳した。
「よし、話もまとまったし、いよいよ〝氷の花園〟にでも行こうか」
「ラジャーです☆ ほらっ、フゥちゃんも行こ☆」
どうやら精霊の名前は既に決まっていたようだ。
……そんな訳で俺達は一致団結して、〝氷の花園〟を目指すのであった。