第69話 『 クロス・オーバー 』
「 てめェらの天下は今日で終わる……! 」
……俺の宣戦布告が雪原にこだました。
『グルルァ……!』
仲間の死に、他の〝黒牙〟が牙をむき出しに唸る。
「……ああっ、何てことを!」
女の子の父親が頭を抱えた。
「〝黒牙〟様を怒らせてしまった! もう終わりだ!」
絶望する女の子の父親、しかし、今はそれどころではない。
「ギルドッ!」
「わかっています!」
流石仕事が早い。ギルドは既に女の子の治療に当たっていた。
「カノンッ!」
「うん、皆の護衛は僕に任せて♪」
ありがたい。これで――……。
「存分に戦えるってもんだ……!」
俺は〝SOC〟を握り直して、〝黒牙〟の群れと対峙する。
『グラァッ……!』
〝黒牙〟らが俺を囲うような陣形を取る。
「……」
『グルルッ』
……膠着する両者。
「……」
『グルルッ』
……膠着する両者。
――ダッッッ……! 両者同時に動き出した。
〝黒牙〟の群れが雪上を縦横無尽に駆け回る。
一方、俺は反射神経と動体視力を極限まで研ぎ澄まし、奴等の攻撃に備える。
「……」
……しかし、問題はすぐに浮上した。
「速い……!?」
そう、〝黒牙〟は速かった。それこそ〝刃〟のスピードを上回るほどに……。
「……まずいな、これ」
それだけではない。 超スピードに加え、〝黒牙〟の純白の毛は雪と同化し、捉えてもすぐに見失ってしまうのだ。
「だったらこれでどうだ」
俺は判断は早かった。
――特異能力 、 解放 !
……こっちが捉えないのなら、そっちも同じ目に遭わせればいい。
極 黒 の
侵 略 者
――俺は周囲一帯を極黒で染めた。
……よし、これなら向こうにも俺の姿は見えない筈だ!
「さてと」
……今度はこっちのば――……!?
「――ガッ!」
――背中に鋭い痛みが走り抜けた。
……切られたのだ、〝黒牙〟の鋭い爪によって。
「……どうして……だ」
〝黒牙〟には俺の姿が見えていなかった筈である。しかし、現に俺は〝黒牙〟の攻撃を受けたのだ。それには何かカラクリがあるのだろう。
「捉えたんだ、俺の姿を……目以外の何かで――!?」
……そこで俺は気がついた。
〝黒牙〟が俺を捉えた正体、それは
目でも耳でも無い。その正体は――……。
「 鼻 」
……それが〝黒牙〟が俺の位置を捉えた正体である。
だとするならば、この〝極黒の侵略者〟に意味は無い。俺はすぐに〝極黒の侵略者〟を解除した。
「……さてと、どうしたものか」
開けた雪原の上、俺は思考した。
『グルルァ……!』
……しかし、〝黒牙〟は待ってはくれない。
「タツタさん!」
ギルドが叫ぶ。
「……っ!」
俺は背後から放たれた〝黒牙〟の爪を辛うじて回避する。しかし、僅かに横腹を掠め、血飛沫が舞った。
「……そう甘くはないか」
俺は引き続き警戒心を弛めず、〝SOC〟を構えて〝黒牙〟の攻撃に備えた。
「……っ!」
――計八匹の〝黒牙〟が前後座右ランダムに攻めてくる。
「……クソッ」
まるで目で追えないし、身体がついてこれない。俺は身体に切り傷を増やす他なかった。
とはいえ、ここで素直に負けを認める訳にはいかねェんだよ。
だから考えるんだ。あの〝黒牙〟を攻略する作戦をだ。
「……」
……………………。
…………。
……。
「 よしっ 」
……閃いた。
『グルルァ……!』
――同時、〝黒牙〟が唸り声を上げて飛び掛かった。
――同時、俺は〝特異能力〟を発動した。
――特異能力 、 二重展装 !
「 悪いな、犬コロ 」
極 黒 の 侵 略 者
闇 黒 の 覇 者
「 こちとら結構修羅場潜り抜けてきてるんだわ 」
――斬ッッッッッッ……! 飛び掛かった〝黒牙〟が一刀両断された。
「 だからこんなところで負ける訳にはいかんのよ 」
……俺は不敵に笑んだ。




