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  第67話 『 雪原突破 』



 「この先およそ150キロ北上した位置に、〝氷の花園〟があるッスよ」


 ……明くる朝。俺たちはクルツェに目的地――〝氷の花園〟への道筋を教えてもらった。


 「クルツェ、色々ありがとな」

 「いやあ、お役に立てて光栄ッス」


 クルツェはいつも通りの軽薄な笑みで見送ってくれた。


 「ここから先は厳しい寒さとの戦いになるッスよ、ちゃんと寒さ対策は大丈夫ッスか?」

 「おう、それなりにはやってきたぞ」

 「なら良かったッス♪」


 ……やっぱり、クルツェはいい奴だ。

 話し方とか笑い方とか、人の好さが滲み出ていた。


 「それじゃあ、あいつらも待っているからもう行くよ」

 「応援するッスよ」

 「ありがとな」


 俺はそれだけ言って少し離れた場所で待っていたギルド達と合流する。


 「待たせたな」

 「いえいえ……それより変態……間違えました。タツタさんはよくあのクルツェ様と気軽に話せますね、わたしなんて緊張しちゃいますよ」


 ……こらこら、悪意のある言い間違いをするんじゃない。まだ、女湯の件を根に持っているようだな。反省はしていないが。


 「別に大したことじゃないさ、ただ無礼なだけだし」


 ……本当に敬語とか苦手なんで。


 「それよりさっさと行こうか、時間はあるがちんたらここに居座る理由も無い」

 「アイアイサー、です☆」

 「うん、行こう♪」

 「おぉー」

 「ですね♡」


 ……そんな訳で俺達は〝氷の花園〟を目指すべく、深く積もった雪路を踏破するのであった。



 ……………………。

 …………。

 ……。


 ……視界を横切るのは猛烈な吹雪であった。


 「……まさかここまでとはな」


 身体に打ち付ける風と雪は痛いのか冷たいのか、最早感覚すらおかしくなっていた。


 「フレイ、ドロシー、大丈夫か」

 「はい、何とか」

 「心配にはいりません」


 体力の無い二人が心配だったが、今のところ大丈夫そうであった。


 「よし、じゃあもう一踏ん張りだっ」


 さっきからずっとこれである。目の前に広がるのは深く地面に積もった雪と右から左へと流れる雪。

 太陽は曇天に遮られて全然見えないし、全身を殴り付けるように吹き付ける風に手足は凍えていた。

 俺は元々雪国育ちじゃないし、そもそも引きこもりだったので寒さに強い筈もないので、ただただ苦痛でしかなかった。


 「……クソったれっ」


 ……俺はこの悪天候に毒づくことしかできなかった。

 あとはただ歩くだけだ。

 ……歩く。

 ……歩け。


 ……今はただそれだけでいい。


 ……………………。

 …………。

 ……。















 「 ……たい……よう? 」


 ……一体、どれだけ歩いたのだろうか?

 ……何歩歩いたのか? 何時間歩いたのか? 俺はもう数えることすらできていなかった。

 しかし、そんなことはどうだっていい。今、俺たちの頭上には僅かに雲が掛かっているものの日の光が地上に降り注いでいた。


 「……やった」


 気づけば風も穏やかになり、雪も止んでいた。

 まだ〝氷の花園〟は全然見えないが、俺達はどうにかしてあの吹雪を乗りきったのである。


 「皆、無事かー」


 俺の確認に皆はヘロヘロでありながらも笑顔で返してくれた。


 「よし、少し休むか」

 「やったー♪」


 そんな訳で俺達は雪原のど真ん中で休むことにした。


 「では、ここはわたしに任せてください」


 と言ってギルドが火炎魔法で六畳ほどのスペースの雪を溶かし、地面を乾かし、俺達が座れる程度のスペースをつくってくれた。

 俺達は寒さで消耗した身体の回復に努める。


 「あとどのくらいですか?」


 特に疲労の色の濃いフレイが息を切らせながら確認する。


 「うーん、正確な距離はわからねェが、だいたい20~30キロぐらいかな」

 「良かった、あと少しですね」


 そう言ってはにかむフレイ……昔に比べると随分と体力がついたな。

 ……頑張ったんだな、フレイも。


 「まっ、無理しすぎるなよ」


 俺はそんな健気なフレイの頭を優しく撫でてやった。


 「えへへー、ありがとうございます」


 フレイは少し恥ずかしそうに笑う。


 「……事案 (ぼそっ)」


 ……ギルドが小さく何かを呟いたが聞こえなかったことにした。

 穏やかな時間が流れる昼下がり。そんなときだ。


 「 誰か助けてーーーッ……! 」



 ……女の子の悲鳴が聴こえたのだ。


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