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第66.5話 『 温泉だよ! 全員集合! 』



 ……〝灰色狼〟との一戦で疲労していた俺達は、クルツェ達のアジトでもう一泊することになった。


 「そういえば、このアジトの名所、紹介してなかったッスね」


 クルツェが朝食のときにそう話を切り出した。


 「……名所?」


 確かにそれは知りたい。折角、一泊するのだ、観光ぐらいしておきたかった。


 「はい、聞きたいです☆」


 ギルドが元気よく催促した。


 「じゃあ、朝食を食べ終わったら案内するッス」

 「やったー!」


 フレイが子供らしく万歳した。


 (……名所、か。何だろうな)


 ……俺も何だかんだいって楽しみだった。


 ……………………。

 …………。

 ……。


 ――カポーン。


 「 温泉だーーーッ! 」


 ウキウキ気分の俺達を迎えてくれたのは巨大な温泉であった。


 「これが〝灰色狼〟所有の名所――〝灰の湯〟ッス」


 ……名前、微妙だなー。


 「美肌効果や疲労回復、特に〝赤い魔素〟の濃度が高いので火炎魔導師にはお勧めッスね」

 「やったー!」

 「ですー☆」


 フレイとギルドがわかりやすく喜びの舞を踊った……今日、二人のテンション高いなー。


 「そんな訳で」


 クルツェが握り拳を天井に突き上げた。


 「 レッツ! ゴーーーッ! 」


 ……………………。

 …………。

 ……。


 「……名前は微妙だがいい湯だな」

 「微妙なんて言ったら失礼だよ、タツタくん」


 ……温泉に浸かりながら上から目線で物を言う俺をカノンが嗜める。


 「気に入ってくれてこっちも嬉しいッス」


 おおらかなのか能天気なのか、クルツェは誇らしげに胸を張った。


 「……ところで!」


 クルツェがカノンの方をまじまじと見つめる。


 「……本当に男だったんスねー」

 「……」


 クルツェの台詞にカノンが一気に暗黒ゾーンへと落ち込む。

 確かに、カノンは女の子と間違えてもおかしくないぐらいに可愛い顔をしているが、俺も何回かポロッと口から溢れそうになったが何とか我慢している……バレたら射殺されるので。


 「しないよ! 風評被害やめて!」


 ……カノンが俺のモノローグにツッコミを入れた。


 「それじゃあ、お二人さん。湯船も堪能したということで」


 クルツェが手をパンパンと鳴らして、注目を集めた。


 「ここで一つ余興をするッスよ」

 「……余興?」

 「何をするんですか?」


 頭にクエスチョンマークを立てる俺とカノンにクルツェが満面の笑みを浮かべた。


 「 第一回! チキチキ、女湯覗き大会~~~! 」


 ……おっ?


 「今から三人で協力して、女湯を覗くッスよ!」


 ……クルツェ。お前、話がわかっているじゃないか。


 「やるッスか?」

 「……」

 「何か、無言で手を繋いでる~~~~~っ!」


 ……ガシッ、俺は言葉を一切交わさずにクルツェと握手し、カノンがドン引きした。


 「駄目だよ! そんな破廉恥なこと!」


 優等生なカノンが俺とクルツェの前に立ちはだかる。


 「それにタツタくんはいいの、ギルドさん達の裸をクルツェさんにも見られちゃうんだよ」

 「別に構わないが」

 「即答!?」


 迷いのない俺にカノンが更にドン引いた。


 「やっぱり駄目だよ! どうしても行くって言うなら僕を倒してから――……」


 ……そこでカノンは言葉を切った。クルツェの姿が消えていたからだ。


 「 じゃあ、倒すッスよ 」


 ――トンッ……。一瞬にしてカノンの背後を取ったクルツェが首に手刀を打ち込んだ。


 「……なっ!?」


 カノンは一瞬にして失神した。

 ……強い! 圧倒的に!

 これが〝四大賢者〟の一人にして最強の風魔導師の実力! 強すぎる!


 「それじゃあ、邪魔者も片付けたんで行くッスよ♪」


 ……ただの強い覗き魔だった。


 ……………………。

 …………。

 ……。


 ――スパッ、風の刃により、男湯と女湯を隔てる檜の壁にコイン相当の穴が空いた。


 「……作戦一、穴チラッ作戦ッス」

 「イエス・サー」


 俺とクルツェは小さな穴の隙間から女湯の様子を窺った。


 「……この先にパラダイスが」

 「ワクワクすっぜ!」


 ……むっ、人影が三つ! 間違いない! ギルド達だ!

 しかし、湯気が濃いな。中の様子が全然見えねーよ。


 「クルツェ」

 「わかってるッス」


   風   操   作


 ――ひゅぅぅぅ、横風が湯気を流していった。


 ……スゲェ! 風魔法、スゲェ!

 湯気が飛ばされた今、俺達に障害は無い! 遂にパラダイスをこの目に拝めるのか!

 ……湯気が晴れ、

 ……視界は鮮明になり、

 ……俺達の前に姿を見せたそれは、白髪であり、顔や手には深い皺が刻まれていた。


 「――って! ババアじゃねェか!」


 ……三人のシルエットの正体は三人のババアだった。


 「オロオロオロー」

 「うわっ! 吐きやがった! 失礼過ぎんだろ!」


 クルツェは嘔吐し、その場に倒れ込んだ。


 「クルツェ……!」

 「……もう……無理ッス」


 ……ガクッ。


 「死んだーーーーーッ!」


 想像と現実との格差に耐えきれなかったか。


 「しかし、あいつら一体どこに行ったんだ」


 俺が呟くと声はババア達とは反対側から聴こえた。

 間違いない! ギルド達の声だ!


 「なるほど! 温泉は合計四つ! 女湯は二つ! ギルド達はそっちに入ったのか!」


 ……謀ったな! ギルド! あと、クソババア共!

 俺は悔しさに握り拳を震わせた。


 「クルツェ! お前の意志は俺が引き継ごう!」


 ……そんな訳で、俺は単身で女湯へ乗り込むことになった。


 「どこに居るのかわかれば話は簡単だな」


 俺はギルド達が居るであろう女湯に体を向けた。


 「 跳ぶか 」


 ……〝特異能力〟――臨界突破!



  闇  黒  の  覇  者



 ――ドッッッ……! 黒いオーラが渦巻いた。


 「行くぜ……!」


 俺は深く深く屈伸して、そして――脚力を解放した。


 ――ビュッー! 俺は高く高く跳躍し、女湯の真上まで跳んだ。


 ……〝特異能力〟――解除!


 俺は〝闇黒の覇者〟を解除した。


 「 か ら の 」


 ……〝特異能力〟――解放!



 極  黒  の  侵  略  者



 ――一瞬にして、浴場は闇に呑まれた。



 「――えっ?」


 暗闇からギルドの戸惑いの声が聴こえた。


 「 〝夜王の眼〟 」


 更に視界が鮮明になる。


 同時、俺は床に着地する。


 「おかしいね、さっきまで明るかったのに」

 「……不思議です。月蝕ですか?」

 「いえ、それにしては前兆はありませんでしたし、ここまで暗くはありませんよ」


 混乱する女性陣。

 俺はその隙に岩影に向かって駆け出す。

 後は、身を潜めて、〝極黒の侵略者〟を解除すれば作戦成功だ。

 ……一応、〝夜王の眼〟である程度は見えるけど、やっぱり色が無いと味気無いからなー。


 ――ツルッ!


 ……あっ、誰かが片付け忘れていた石鹸を踏んだ。


 (……あっ、これ、あかん)


 俺は鍛え上げた運動神経で空中アクロバティックをする――も、着地先が良くなかった。


 ――バシャァァァァン……! 俺は湯船に落下し、高い水飛沫を上げた。


 (……やばっ! 鼻に水入った! むせる! むせたら――……)


 ――集中力を切らした俺は、意図せず〝極黒の侵略者〟を解除してしまった。


 「……あれ? 元に戻った」

 「それよりもさっきの音、何ですか?」

 「波も立っていますので何か湯船に落ちたのでしょうか?」


 ――ヤバいッッッッッ……!


 俺は濁った湯船に潜りながら、内心悲鳴をあげる。


 「……さっきの暗闇って――〝極黒の侵略者〟かな?」


 名探偵ギルドが天才的な頭脳で推理する。


 「ってことは?」

 「先程の水飛沫の正体は――……」


 ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい~~~~~っ!



 「「「 タツタさん(様) 」」」



 〝特異能力〟――解放……!


 (……こうなったら!)



 極  黒  の  侵  略  者



 ( 強行突破だ……! )


 ――空間が一瞬で闇に呑まれた。


 ――同時、俺は湯船から飛び出した!


 「やっぱり誰かいます!」


 ……ギルドの反応は速い! 音で位置を掴んだのかもうこっちまで来てやがる。


 ――ガシッッッ……! ギルドが俺の足首を掴んだ!


 「捕まえました!」

 「……っ!」


 ……馬鹿な! いくら音で場所がわかるって言っても、ここまで正確に俺の位置を把握できるのか!


 (掴まった――だったら!)



  闇  黒  の  覇  者



 ( 振りほどく……! )


 ――バチッッッ……! 俺は純粋な脚力だけのばた足でギルドの手を弾いた。


 「……くっ!」


 ――ガクッ、一瞬にして疲労感が肩にのし掛かった。


 ……〝第1形態〟と〝第2形態〟の同時発動は身体に響きやがるな。

 だが、ギルドから逃れることに成功した! 後は、逃げるだ――……。



 ――ぽよん♡ 何か柔らかいものに俺は顔面からダイブした。



 「はうっ……♡」


 正面からドロシーの甘ったるい声が聴こえた。


 ……あっ、これは断言できる。


 何故なら地球上にこれほど幸せな柔らかさと温かさを兼ね合わせたものは存在しないからだ。


 そう――……。



 俺 は ド ロ シ ー の 谷 間 に 顔 を 埋 め て い た 。



挿絵(By みてみん)


 ……それが限界だった。


 ……鼻血が飛び散る。


 ……俺の意識はそこで途絶えた。


 ……………………。

 …………。

 ……。


 「 おはよう、タツタくん 」


 ……目が覚めると俺は布団の上で倒れていた。

 どうやら俺はあの後気を失ったようである。


 「もう、あんな馬鹿なことするからだよ」


 隣で看病をしてくれていたカノンが溜め息を溢した。


 「……そうか」


 俺は顔に手を当てる。


 「……俺、勝ったんだな」


 ――涙が零れ落ちた。


 「俺は幸せだ、カノン」

 「……タツタくん」

 「……」

 「タツタくん!」

 「……」


 俺は心の中で呟いた。



 ……ナイス、おっぱい!



 俺は幸せな気持ちを胸に二度寝をした。


 「……うっ、うわー」


 カノンはそんな俺にドン引きした。



 ……それから暫くの間、ギルド達との距離ができたのは言うまでも無いであろう。だが、後悔はなかった。


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