第65話 『 一撃で終わらせる 』
「 一撃で終わらせる、から 」
……俺は〝SOC〟を構えて、〝刃〟にそう宣戦布告した。
「あっ、言ってくれるじゃねーか」
流石の〝刃〟も、俺の挑発に気を荒立たさせる。
「やれるもんなら」
〝刃〟の足下が陥没する。
雪の固まりが弾け飛ぶ。
「 やってみやがれッッッ……! 」
――〝刃〟の姿が消えた。
……しかし、
「 いいよ 」
……俺の動体視力は〝刃〟の姿を捉えていた。
「要望通り、一撃で終わらせる」
――〝刃〟が通常時の俺では捉えきれないスピードで飛び出す。
一方、俺は〝SOC〟を構えることもせず、ただだらんと握っているだけだった。
――俺と〝刃〟の距離、およそ5メートル。
「 斬るッッッッッッ……! 」
――〝刃〟が抜刀した。
……その抜刀は速く、そして鋭かった。
し か し 、
パシッッッ……。俺は抜刀した〝刃〟の右手首をまるで赤子の手を捻るが如く容易く握り――抜刀を止めた。
「……!!?」
……〝刃〟が驚愕で目を見開く。
……俺は〝SOC〟を静かに振り上げる。
――一瞬の静寂。
――斬ッッッッッ……! 斬撃一閃、〝刃〟に俺の渾身の一振りが炸裂した。
「かはっ……!」
「ただの峰打ちだ、殺しはしない」
俺は〝SOC〟を納刀し、〝刃〟は地にひれ伏した。
俺はすぐに〝闇黒の覇者〟を解除した。
「……っ、ほんの一分足らずで体に響きやがるぜ」
俺は急激な疲労感に膝を着いた。
この技は強力だが、そう何度も使えるもんじゃないな。
俺は改めて、自分に与えられた力の強大さ、そして分不相応さを戒めさせられた。
「……まったく、情けねェな」
俺は溜め息一つ溢して立ち上がる。
……ワッ、途端にギャラリーから歓声が上がった。
「タツタさーん☆」
「うおっ!?」
ギルドのダイビングハグにより俺は雪原に押し倒される。
「格好よかったですよ☆ 特に最後の「ただの峰打ちだ、殺しはしない(キリッ)」とか☆」
「再現やめて! 何か黒歴史みたいに聞こえるから!」
俺はギルドのマウントポジションから逃れ、カノンたちの方へと戻った。
「ナイスファイト、作戦も成功したしね♪」
「いやぁ、わたし達にいつ回ってくるんじゃないかと冷や冷やしてましたよー!」
「私はタツタ様を信じていましたよ♡」
……いやあ、もっと誉めてくれよ。
「さすタツ☆」
「さすタツ♪」
「さすタツ!」
「さすタツ♡」
……その褒め方は何か違うなー。
まあ、何にしてもだ。
俺達は無事全員試験を合格し、〝灰色狼〟への入族を果たしたのだ。
「いやぁ、タツタくん。見事な闘いっぷりだったッスねー♪」
クルツェも大歓迎を意するかのように両手を広げて、俺達の下へやって来た。
「歓迎はありがたいが……良かったのか、あんなやり方で」
この一対一のルールは弱者が入族できない為にあったのに、俺の屁理屈でフレイとドロシーを不戦勝にしてしまったからだ。
これは、クルツェの望む決着とは違うのではないのか? 俺はそう思った。
「問題無いッスよ、タツタくんが三人分強かった……ただそれだけのことッスからね♪」
クルツェは寛大な男だった。
「それに君達別にこの地方に住みたいとかそーいう訳じゃないッスよね♪」
クルツェは楽しげに笑う。
「どうせやること済ませたらさっさと出ていってしまう人にそこまで堅いこと言わないッスよ」
……コイツ、全部わかっていたのか。
「だから、これは部族のじいさんらを納得させる為の形式、そう形式なんッスよねー♪」
……形式であんな苦労したんですが、まあ、合格したから文句は言わないが。
「何にしてもオイラは君達の入族を歓迎するッスよ♪」
「ありがたい」
俺は相手が一応目上なんで一礼した。
「とにかく今日は休むッスよ、温かい鍋ができてるッスよ」
「本当か、ありがとうございます」
俺はお腹が減っていたので凄く嬉しかった。
「こっちッスよー♪」
「おー、皆も行こうぜ」
そんな訳で俺たちは、鍋の香りのする石の家目指して歩き出した。
そ の と き だ 。
「 あれー、懐かしい顔ぶれだねー♪ 」
……初めて聴く声だった。
しかし、唯一、俺達の中で初耳ではない者がいた。
「……えっ、何で?」
……ギルドだ。ギルドが声の主を見て目を見開いた。
「……!?」
俺とカノンとフレイもその姿を見て、驚愕した。
「……お前」
俺はコイツを見たことがあった。
それは今から一ヶ月と一週間前、アクアライン一家と初めて会ったときだ。
俺が来たときにはコイツは既に満身創痍だったが、ギルドから聞いた話だとニアと引き分けた男だ。
そいつは糸目で軽薄そうな男だった。
そいつは底知れない、暗い魔力を纏っていた。
そいつは首に秋桜の刺青を刻んでいた。
「 〝しゃち〟 」
……そう、大陸最凶の盗賊団――〝KOSMOS〟の一人、〝しゃち〟がそこにはいた。