第3話 『 精霊王の剣を手に入れろ! 』
……俺とギルドは無駄に広大なジャングル――〝グレーン密林〟を横断していた。
俺とギルドは魔剣――〝SOC〟を手に入れる為に深い森を掻き分け突き進んでいた。
俺もギルドもまだまだ弱い。強くならないといけなかった。
しかし、まったくやるべきことがわからないわけではなかった。
ギルドはまだ自分の〝特異能力〟が覚醒していない……スキルの内容次第ではまだまだ延び代があった。
ちなみに、この〝特異能力〟とはこの世界の住人が個々にもつことのできる特異能力であり、覚醒には個人差があるものである。
……一方、俺にだってまだまだ延び代があった。
一つは俺もギルドと同じくまだスキルが覚醒していないという点。
もう一つは〝白絵〟に教えられた魔剣――〝SOC〟をまだ手に入れていないということだ。
魔剣――〝SOC〟は魔剣の刀鍛冶師――名匠、カグラによって造られた唯一無二の魔剣である。
〝SOC〟の素材は希少鉱石――ミスリルと魔鉱石――〝賢者の石〟であり、精霊や妖精の類いとの親和性の高いミスリルと万物への変化に富んだ〝賢者の石〟によって鍛えられたこの魔剣は、精霊を憑依させ、その精霊の性質へと変化する千変万化の剣なのだ。
故に、〝SOC〟を手に入れ、世界のどこかに存在する精霊と契約して、仲間にすることができれば俺はまだまだ強くなれる。
そう、強くならなければいけなかった。〝白絵〟に勝てるぐらいに強く。
そして、俺たちはサウザー大陸の極東にあるとされる〝選別の谷〟を目指していた。
南の大陸、サウザー大陸の極東にある峡谷――〝選別の谷〟。
〝選別の谷〟は深く、暗い峡谷であり、年中霧の掛かったその谷では数メートル先すら見ることができないと言われている。
「んで、そこで〝SOC〟を手に入れたら次は――……」
――〝迷宮砂漠〟。
それは広大な砂漠で、ひたすらに灼熱な砂漠であり、踏み入れる者を陽炎や蜃気楼によって惑わす死の大地であった。
「そこにいるのか――火の精霊、〝フレイチェル〟が」
「ハイです。フレイチェルの波長がこちらの方向から流れてきています」
火の精霊――〝フレイチェル〟は〝迷宮砂漠〟に生息しているのだ。
そして、驚いたことにギルドは精霊の波長を感じとる才能があり、それはギルドのスキルとは関係あるのか、そうではないのか、今のところはっきりしていなかった。
何にしても、精霊集めの効率が段違いに向上したため、ギルドのこの才能を俺は重宝していた。
そう、今の俺たちは一心同体、持ちつ持たれつな関係と言えよう。
……戦闘面ではギルドが頑張り、
……金銭管理もギルドがやりくりし、
……料理もギルドを中心に作り、
……精霊集めもギルドの才能頼みで何とかなっていた。
……………………。
…………。
……。
ギルドばっかじゃねぇかァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ……!
俺は〝白絵〟との対面、ギルドの涙で強くなることを誓ったのだ。
とは言え、今まで弱かった奴がいきなり強くなれる筈も無く、親に寄生して生きてきた奴に金銭管理ができる筈も無く、料理なんてカップラーメンしか作ったことの無い奴が料理なんて作れる筈も無く、精霊探しに関して何か知識や才能も無い奴が精霊探しなんてできる筈も無かった。
人は簡単には変わらない。ヒモはヒモのままであった。
これでいいのだ。できないことはできないし、やりたくないことはやりたくない。自分の能力以上のことはできない。
だからこそ人は努力するのだ。
……少しでもできることを増やす為、
……やりたくなくてもやらなければならないことをする為に。
ま っ 、 俺 が 努 力 す る か ど う か は 話 は 別 だ が な !
所詮、ニートはニート。所詮、ヒモはヒモ。そんなに大きくは変わらない。
「はい♡ お昼ですよ☆」
〝選別の谷〟まで、あとそれほど離れていない林で俺とギルドは休憩をとっていた。
「今日のご飯は赤ブタのステーキとデザートに野いちごのタルトです☆」
ギルドが満面な笑みで昼食を風呂敷の上に広げた。
……かっ、
「えへへ、ちょっと焦げてしまいましたが愛情込めて作りました☆」
……可愛いなぁ……! なんて献身的なんだろう……!
「……ん? あれ?」
俺は並べられた昼食を見て、ふとあることに気がついた。
「お前の分のタルト少なくないか? お前、甘いの好きだろ?」
「……あの、すみません。途中で野いちごを切らしてしまいまして」
なるほど、謝ること無いのに。
「でも、いいんです。タツタさんは魔物との戦い以外でも、朝と夜に自主トレーニングを頑張ってらっしゃいますので沢山食べてください」
「……」
俺は俺。
ヒモはヒモ。
人は大きくは変わらない。
……でも、少しずつなら変われる気がする。
少なくとも、俺は前より努力するようになったのだからだ。
「 アホ 」
ギルドの厚意は悶え死にそうになるほどに嬉しかったが、俺の返事は心無い二文字であった。
「えぇー……」
当然、不服なギルド。
「このタルト、一人で食うには多すぎるぞ。胸焼けしてしまうぞい」
俺はザクッとタルトを二等分した。
「だから半分食ってくれ、そうしてくれると助かる」
「……」
「……何だ、不服か?」
「いえいえっ……! 凄く嬉しいです、嬉しすぎて全身の穴という穴から血が噴き出そうなぐらい嬉しいです!」
……何それ、恐い。
何だかんだいって、俺とギルドは上手くいっているような気がした。
俺は赤ブタのステーキを頬張りながらふと、遥か前方を見つめた。
そこには、巨大な山と霧の深い峡谷があった。
「よし、まずは魔剣を手に入れるか」
「ハイです☆」
……そして、遂に俺たちは〝選別の谷〟へと向かうのであった。