第61話 『 カノンVS〝風摩〟 』
「 ただ今戻りました、タツタさん☆ 」
……入族試験を終わらせたギルドがいつも通りの笑顔で俺たちの下へと帰ってきた。
その笑顔に先程までの暗い色は見えなかった。
「おう、ナイスファイトだ」
俺の労いの言葉にギルドが更に喜色に満ちた笑顔になった。
「えへへー、もっと褒めてくださいー」
調子に乗るギルドがやけに可愛らしかった。
「見事な闘いだったね」
「流石はギルド様です」
「ギルドさん、格好よかったです!」
カノン、ドロシー、フレイも畳み掛けるようにギルドを褒め殺す。
「もぉー、勘弁してくださいよ♪ もぉー♪」
……チョロいな。
まあ、何にしてもまず一勝。別に団体戦というわけではないのでギルドの勝ち星が俺たちの勝利に貢献するわけではないが、少なくとも士気は上がったと思う。
「さてと、次は」
俺はカノンの方を見た。
「頼んだぞ、カノン」
「言われるまでもないよ♪」
俺の言葉にカノンが不敵に笑んだ。
「ほんじゃあ、カノンくんと〝風摩〟前に出てもらってもいいッスか」
クルツェの声を聞いたカノンと〝風摩〟が前へと歩み寄る。
そして、対峙する二人。
「よろしくね、〝風摩〟さん」
「……」
カノンは女みたいな顔で微笑み、〝風摩〟は無言で頷いた。
「それでは入族試験、第2回戦」
……緊張が走る。
「……」
「……」
……両者が無言で睨み合う。
「 ファイッ……♪ 」
――カノンが拳銃を一丁抜き出した。
――〝風摩〟が手裏剣を抜き出した。
……動き出しは同時。
「 行くよ、〝雷羽〟 」
「 八式廻天 」
……だが、〝風摩〟の方が僅かに速い。
――八つの手裏剣がカノン目掛けて撃ち出された。
「 雷式六重奏 」
し か し 。
六 花 貫 通 閃
――雷の速さの弾丸が手裏剣を貫いた。
……スピードは僅かに〝風摩〟が勝っていた。しかし、それ以上にカノンの弾丸は速かった。
それでも、破壊した手裏剣は六つ。残り二つの手裏剣がカノンに迫る。
だが、ただの二つだ。それをかわしきれないカノンではない。
カノンは二つ手裏剣の軌道を読み、最小限の動きで回避した。
手裏剣はカノンの後ろの方へと通り抜ける。
「よしっ」
手裏剣はかわした。次はカノンの番だ。
「 まだだ 」
――〝風摩〟が静かに笑んだ。
……えっ?
次 の 瞬 間 。
――カノンがかわした筈の二つの手裏剣が軌道を変え、カノンの背中目掛けてUターンした。
……これは、カノンの〝水旋〟と同じやり方。
――手裏剣が迫る。
――カノンは振り向かない。
「カノン危な――……!?」
叫ぼうとした俺の前にクルツェが立っていた。
「これは一対一の真剣勝負ッス」
クルツェがいつも通りの笑みで笑う。
「助言や乱入は無しッスよ」
……そして、クルツェは小さく「必要ないッスよ、彼には」と呟いた。
「見るまでもないよ」
カノンが〝風摩〟を睨み付けながら、〝雷羽〟の銃口を後ろへ向けた。
「このぐらい撃ち落とすなんてわけないから」
――二発の〝雷鳴閃〟が飛来する手裏剣を撃ち落とした。
「 それに 」
カノンが小さく後ろへ跳んだ。
そして、間髪容れず先程までカノンがいた場所に――……。
「後ろの手裏剣を囮に本体が攻撃を仕掛けて来るのも予測済みだよ」
――〝風摩〟がその手にある白刃で斬りつけた。
「 見事 」
〝風摩〟がカノンに称賛の言葉を贈る。
カノンと〝風摩〟が後ろへ跳び、両雄は互いに距離をとった。
「今度は僕の番♪」
カノンが〝雷羽〟の銃口を〝風摩〟に向ける。
「君のスピードと僕の〝雷羽〟……どっちが速いかな?」
「……」
六 花 貫 通 閃
――チカッ、銃口から閃光が走る。
「……」
「……」
……しかし、六つの弾丸が〝風摩〟に届くことはなかった。
「……なるほど」
カノンが冷静に分析する。
「それが君の魔術なんだね」
「……」
カノンが〝風摩〟の足下へと視線を傾ける。そこには――切断された銃弾が転がっていた。
そして、その〝風摩〟を囲うように気流が渦巻いていた。
「 風 」
……それが〝風摩〟の魔術であった。
「御明察」
〝風摩〟が無表情を崩して笑う。
「我の技は〝風〟だ。風を操り手裏剣の軌道を思い通りにすることも、真空の刃で弾丸を切り落とすことも我の思うが儘だよ」
「……なるほど。しかも、スピードは僕よりも速いから〝火音〟や〝水蓮〟じゃ捉えきれないね」
カノンは至って冷静に現状を把握した。
しかし、カノンはこれで引き下がる男ではない。
「……でも、どうやって〝風摩〟を攻略するんだ」
〝火音〟では〝風摩〟のスピードに追い付かない。
〝雷羽〟や〝水蓮〟では風の防御壁を破れない。
「……どうやって勝つんだ」
……〝風摩〟に。
「 心配しなくてもいいよ、タツタくん 」
――カノンが俺の呟きを聞き取り、笑顔で返した。
「勝つよ、僕は」
その声は穏やかでありながらも自信に満ち溢れていた。
「タツタくんは一週間前の戦いを覚えているかな?」
「……一週間前?」
……確か、〝白絵〟や〝鎖威〟と闘ったときか。
「……〝白絵〟の方か、それとも〝鎖威〟の方か?」
「うん、〝鎖威〟の方♪」
〝鎖威〟との闘いは熾烈なものであった。
ギルドが倒れ、カノンが倒れ、俺が〝闇黒の覇者〟を使って初めて勝てたのだ。
「あの戦いで確かに僕は敗れた……しかし、それでもその真実は君が思うものとは違うんだ」
……どゆこと?
「 僕は〝鎖威〟に敗れたんじゃない 」
……!?
「僕が負けたのは、僕が〝鎖威〟を追い詰め、それを見かねて乱入した〝白絵〟にやられたんだ」
つまり、それって――……。
――カノンは、
〝 鎖 威 〟 よ り も 強 い っ て こ と ?
「そゆこと♪」
――カノンがホルダーから拳銃を抜き出した。
「 出番だ 」
……その拳銃はまるでアメジストのような紫色をしていた。
「 〝重覇〟 」
……それが第五の銃の名前であった。