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  第58話 『 北の大地 』



 ……白い地面。


 ……白い空。


 ……白い息。


 「 ここがノスタル大陸か 」


 ……俺たちは北の大陸――ノスタル大陸の大地を踏みしめていた。

 見渡す限り広がるのは広大な雪原。そして、この遥か先にあるのが――〝氷の花園〟だ。


 「いやー、にしてもだ」


 ここまで来るのにだいぶ時間が掛かったな。

 〝白絵〟との一戦から一週間。今までと比にならないほどの魔物が俺達の前に立ちはだかり、かなり足留めを食らったからだ。


 「何であんなに魔物がいたんだろうな」


 元から魔物の数が多いことを考慮しても、この一週間の魔物遭遇率は異常だった。


 「そういうこともありますよ、魔物の出現率なんて波がありますから」


 ドロシーが横でそう捕捉してくれた。暗黒大陸に長く住んでいたドロシーが言うのであれば間違いは無いだろう。


 「 そ れ よ り も だ 」


 俺は溜め息一つ溢して、ドロシーから前方へと視線を傾けた。


 「 コイツら誰だよ 」


 ……そこには首に何かの動物の牙で造られた首飾りをぶら下げた人々がいた。

 その牙の色は白、もしくは黒であり、東側に白い牙の首飾りをぶら下げた奴等で西側に黒い牙の首飾りをぶら下げた奴等が並んでいた。

 共通して言えることは、雪国ならではの厚着と俺達を見る目が険しいものであったということだ。


 「……ようこそ、ノスタル大陸へ」


 白い牙の首飾りを首からぶら下げた白髪の骨張った老人が前に出てきた。


 「我々は白い牙の民。そして、隣にいるのが」


 今度は黒い牙の首飾りを首からぶら下げた黒髪の筋骨逞しい大男が前に出てきた。


 「黒い牙の民だ」


 ……何だコイツら? 俺は謎の来訪者に警戒心を高めた。


 「我々はこのノスタル大陸を治める二大部族である」


 ……と、黒い牙の方が喋る。


 「我々は白い牙の狼――〝びゃく〟を神として讃える白い牙の民だ」


 ……と、白い牙の方が喋る。


 「我々は黒い牙の狼――〝こく〟を神として讃える黒い牙の民だ」


 ……と、黒い牙の方が喋る。


 「単刀直入に訊こう、君はどっちの部族に入りたい」


 ……と、白い牙の方が喋る……面倒臭いから喋るのどっちかだけにしてほしい、あっち向いたりこっち向いたりで首が痛い。


 「……あのー、別に部族に入りたいとかそんな理由で来たんじゃないんだが」


 話がややこしくなりそうなので先に断りを入れておいた。


 「俺達はこの先にある〝氷の花園〟に行く為に来たんだよ」


 だから、一々大陸の部族抗争に巻き込まないでほしい。


 「……そうか」

 「なら仕方がないな」


 部族長二人が残念そうに頷いた。


 「「 では、〝レイウルフ〟に所属するしか無い 」」


 ……〝灰色狼〟? 何だそりゃあ?


 「この大陸には我々、白い牙の民」

 「黒い牙の民」

 「と、我々のどちらかに組する少数部族」

 「と、それらの中立にある部族」


 「「 〝灰色狼〟 」」


 「……で、成り立っている」


 ……だから、交互に喋るのやめてくれ。


 「我々はそれらどれでも無い者……つまり部外者を大陸の中へは行かせない」

 「大陸を横断したくは我々のどちらかに属するか、〝灰色狼〟の一員にならなければいけないのだ」


 ……なるほど。

 つまり、面倒臭いことに、俺達はこの部族のどちらかに入るか、〝灰色狼〟に入らなければこの大陸を横断できないのか……本当に面倒臭い。


 「わかった」


 俺は即決した。


 「じゃあ、〝灰色狼〟に入ろう」


 ……部族の抗争に巻き込まれるのは御免なので。


 「しかし、それにはある試験があるのだ」


 ……そういうことは最初から言ってくれ。


 「〝灰色狼〟には一つ大きな役割があるのだ」

 「それは白い牙の一族と黒い牙の一族の間にある不可侵条約をどちらかが破った場合」

 「〝灰色狼〟は先に破った方の敵になるという決まりがある」

 「つまり、先に攻撃を仕掛けた場合は対立部族と〝灰色狼〟の両方を敵に回すことになるのだ」

 「そうなれば戦争に負けてしまう……この制度のお陰で現在に至るまで両部族の間に平和が気づかれているのだ」

 「故に」

 「……故に?」


 ……何か交代交代で喋るのにも慣れてきたな。


 「〝灰色狼〟は強くなければならないのだ」

 「戦力として脅威になる程度にはな」

 「なるほど」


 要は実力を見せろってことね。


 「じゃあ、早速で悪いが試験って何をすればいいんだ?」

 「試験は我々の管轄に無い。この試験は――……」


 ……そのときだ。


 「 おやおや、入族希望者かな? 」


 俺達の前に老若男女様々な奴らが姿を見せた。


 「おいおい、今回も偉く細いのが来たな」

 「女、子供もいるぞ」


 白い牙の民と黒い牙の民が道を空け、そこから一人の男が前に出てきた。


 「よすっ、オイラはクルツェ=シファーッス」


 そいつは軽薄な笑みを浮かべ、軽やかなステップで歩み寄る軟派な男だった。


 ――クルツェ=シファー……うーん、思い出せないが聞いたことあるような名前だな。


 「クルツェ=シファー……!?」


 俺の代わりにギルドがその名前に反応した。


 「……知ってるのか?」

 「当然知ってますよ」


 ……何だ、コイツ有名人なのか。


 「この方はこの五大大陸でも指折りの大魔術師で、最強の風魔術師――……」


 ギルドが興奮気味に語りだす。


 「 〝北の大賢者〟――クルツェ=シファー様ですよ!? 」


 ……マジで。

 何と、この軽薄そうな男はニアと肩を並べる魔術師の一人――〝四大賢者〟の一人だった。


 「……クルツェ……シファー」


 俺は戦慄する。


 「よろしくッス♪」


 ……驚きのあまりに口をアホみたいに空ける俺に、クルツェが親しげな笑みを浮かべた。


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