第57話 『 Secret‐少女 』
……空には満月が雲の隙間から顔を出し、暗黒大陸にも夜が訪れた。
私たちは洞窟に身を潜め、夜を凌ぐ。
「……ふふ、可愛らしい寝顔ですね」
私は気の弛みきったタツタ様の顔を覗き見て微笑した。
現在、暗黒大陸にある洞窟で一泊している一行は私、ドロシー=ローレンスを除いて、全員が眠りに着いていた。
「……」
……本当に大変な一日だった。
〝鎖威〟様と戦い、
〝白絵〟様と戦い、
タツタ様は覚醒し、
カノン様は〝鎖威〟様に殺されかけ、
ギルド様はお腹に風穴を空けられ、
……ニア様達が死んでしまった。
これだけ色々なことがあったのだ疲れない筈がなかった。故にこの人たちには休息が必要であった。
しかし、問題が一つだけあった。
私は溜め息一つ溢して、洞窟の外へ出る。
問題は洞窟の外にある。私はその問題を排除する為に洞窟の外へ出向いた。
そこには――……。
『 グルアァァァァァァッッッ……! 』
……20を超えた数の魔物に囲まれていた。
そう、問題はここが魔物の巣窟――暗黒大陸だということである。
今まではニア様が近づく魔物を追い払っていたからどうにかなっていたのだが、ニア様が死んでしまった今、私達を守る人はいなかった。
「……困りましたね」
なんせ、皆様は疲労困憊の為に熟睡している上に、例え起きたとしてもこの数と戦う体力は無いであろう。
「はてさて、どうしたものでしょうか」
……ニア様はもういない。
……タツタ様らは疲労困憊で当分目を覚まさない。
……私はLv.22。
しかし、タツタ様らを見捨てて逃げ出すなんて選択肢など有りはしない。
『グルアァァァァァァァ……!』
――猿型の魔物が私に飛び掛かった。
……私は弱い。
……しかし、逃げることは許されない。
ならば、
ど う す る ?
「 ふふっ♪ 」
答えは一つ――……。
「 出番よ、〝お父様〟 」
……私は愚かな魔物らを嘲笑った。
――グシャッッッ……! 骨と肉が潰れる音が夜の闇に鈍く響いた。
……………………。
…………。
……。
「 おはよう御座います、タツタ様 」
……朝。暗黒大陸に日差しが差し込む頃に目を覚ましたタツタ様に私は笑顔で迎えた。
「……ドロシー?」
「はい、私はドロシー=ローレンスで御座います」
タツタ様は重い身体を起こして、入り口の方を見渡した。
「ありがとな、夜通しで見張っていてくれて」
「いえ、私にできることはこのぐらいしかありませんので」
そこで、タツタ様が私に訊ねる。
「俺達が寝ている間に魔物は来なかったのか?」
「 はい、一匹も来ませんでしたよ♪ 」
――私は嘘を吐いた。
……何故ならば本当のことを言えば私を拒絶されてしまうのかもしれないからだ。
「……一匹も?」
「はい、一匹も」
「……そうか」
……ほっ、どうやらタツタ様も納得してくれたようで良かった。
(……まあ、わかる訳はありませんよね)
何故ならば、昨晩洞窟を訪れた20匹の魔物は全て――……。
――骨も残らず絶命してしまっから。
「ふふっ、それでは朝食にしましょう、何を戴かれますか?」
……そんな真実を胸に、私はいつも通りの笑顔をタツタ様に捧げた。