第56話 『 敗北の雨 』
――よし、わたしの修行は厳しいわよ。覚悟なさい
……俺たちは崖の上に集まり、アクアライン一家を埋葬した。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
俺たちは墓の前で沈黙していた。
雨は依然として降り続けている……しかし、俺たちはその場から動くことができなかった。
早く雨宿りをしないと風邪を引いてしまうのに……。
こんな所で立ち尽くしていたってニアたちが生き返る訳でもないのに……。
……俺たちは三人の墓の前から動くことができなかった。
――タツタくん
……ニアとの思い出が頭から離れなかった。
――今日は秋野菜のごった煮だよ!
……レイの笑顔。
――……生き……たいよ
……リンの涙。
「……」
……離してくれなかった。
「……」
――……泣いたっていいのよ
……抱き締めてくれたニアの体温は温かかった。
――わたしは君にレイとリンを助けてもらったし、ギルドさんやフレイちゃんやカノンくんだってタツタくんのことを大切に思っているわ
……こんな俺のことを大切だと言ってくれた。
――誰にも必要とされていないなんてことないのよ、皆タツタくんのことが大好きなんだよ
……こんな俺のことを必要だと言ってくれた。
――君は生きていてもいいんだよ
……初めて、自分の生を肯定してくれた。
――本当にお疲れ様、君は優秀な弟子だったよ
……その言葉だけで頑張ってよかったって思えたんだ。
「……」
――どういたまして
「 ……ニ……ア 」
……涙が溢れ落ちた。
「 ニア 」
……どうして死んじまったんだ。
……どうして返事をしてくれないんだ。
……どうして?
「……タツタ……さん」
ギルドが俺の裾を引いた。
「……ギル……ド」
……ギルドは目元に涙を浮かべていた。
「……ごめん……我慢できないよ」
そして――ギルドが泣き崩れた。
あー、あー、あー……ギルドはまるで子供みたいに泣いた。
「……」
カノンとドロシーは悲しみと悔しさの入り交じった表情で俯き、フレイはギルドの隣で声を出して泣いていた。
……そっか
そして、俺はわかりきっていたことを再び確信した。
……俺たちは大切な者を失ったんだ。
それから俺たちは泣いた。泣き疲れて眠ってしまうまで泣いた。
敗北の雨の中で――……。