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  第55話 『 闇 』



 「 何を笑ってやがる 」


 ……俺は頬に跳ねた〝鎖威〟の鮮血を拭って、前方へ視線を傾けた。


 「 〝白絵〟 」


 ……本当にとんでもない奴だ。部下が死んで何で平然と笑ってられるんだよ。


 「ははっ」


 〝白絵〟が笑った。


 「それはお互い様だろ、タツタ」


 〝白絵〟が俺の顔を見て、笑った。


 「……人殺しの顔をしているよ」


 〝白絵〟がそう指摘した俺の顔は――笑っていた。


 「同じだよ」

 「違う」


 「 同じだよ 」


 「違うッッッ……!」


 ――俺は〝SOC〟の刃先を爆発させ、その反動で一気に〝白絵〟に接近した。


 「 ふーん 」


 ――〝白絵〟が不敵に笑う。


 「 〝闇黒染占〟 」


 ――背中にある漆黒の花弁の一つが粉々に砕け散った。


 「 やってみな♪ 」


 ――〝白絵〟は動かない。




    くろ    はな    




 ――轟ッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ……!



 漆黒の焔が〝白絵〟とその周囲一帯を呑み込んだ。

 今までの〝灼煌〟とは遥か上の火力だった。

 これが俺の新・必殺技――〝黒華火〟だ。

 ……勝てる!

 この〝闇黒の覇者〟と〝火龍装填・紅蓮斬華〟を合わせれば――〝白絵〟に勝てる!


 「 温いね 」


 ――心臓が凍りつくような錯覚に覚えた。


 「 まるでぬるま湯のようだよ 」


 ……〝白絵〟は火傷一つすら負っていなかった。


 「……な」


 ……何が起こっている?


 俺の新・必殺技――〝黒華火〟がまるで効いていない。

 しかも、今の〝黒華火〟は〝鎖威〟に当てた一発目の〝灼煌〟と合わせて二発目だ。威力はそれなりのものであろう。

 しかし、〝白絵〟には届いていなかった。


 ――否ッッッ……!


 そんなことがあっていい筈がない!

 俺の二番目に最強の一撃が届いていないというのならば、俺がやることはただ一つだ!

 そう――……。


 ――俺の最大最強の一撃をぶつける。


 ……ただそれだけだ。


 「 超 」


 ――俺が一挙に〝白絵〟との距離を詰めた。


 「 闇黒染占 」


 ――最後の花弁が粉々に砕け散る。




  黒  華  火  ・  極




 ――轟ッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ……!


 超・炸・裂! 圧倒的な熱量と破壊を秘めた漆黒の業火が目の前にある全てを呑み込んだ。

 確信できる。

 この一撃は俺の人生、最大最強の一撃だ。

 ……しかし、


 「……ちくしょう」


 「 ♪ 」


 ……これでも届かないというのか。


 「……クソ……が」


 ――三枚目の花弁を失った俺は、強制的に〝火龍装填・紅蓮斬華〟を解かれた。


 俺の身体が地面に落ちる。

 加えて、魔力も底を着く。とてもじゃないがもう戦えそうになかった。


 ――敗北。


 ……正真正銘。それは誰の目から見ても覆しようのない真実であった。

 駄目だ。手足に力が入らねェ。

 魔力も尽きた。

 限界だ。


 「……これで終わりだね」


 〝白絵〟が俺を見下ろし、笑った。


 「体力切れ、魔力切れ……それに〝闇黒染占〟は身体に結構響くんじゃないかな」


 どういうことだ。

 この力はただ技を黒くして威力を跳ね上げるだけの力じゃないのか。


 「推測しようか」


 ……〝白絵〟は頼んでもいないのに突然推測を語り始める。


 「お前の〝第2形態〟――〝闇黒の覇者〟は属性を強制闇魔法化させる力だ。闇魔法ってやつは他の属性の魔法と比べて圧倒的な火力を誇る……しかし、その一方で使用する度に術者の体力・精神力を削り、精神を闇に汚染される」


 〝白絵〟の推測は続く。


 「今のお前は〝闇黒の覇者〟の反動で肉体・精神を疲弊し、頭の中には殺意・悪意・憎悪しか無い筈だ」


 ……その通りだ。


 「闇にあんまり頼りすぎるなよ……お前は僕の計画の大切な一欠片ピースなんだからね」


 そう言って〝白絵〟は俺に背を向けて、歩き出した。


 「待て……! 〝白絵〟……!」

 「 止めてどうするんだい? 」


 ……〝白絵〟が立ち止まった。


 「お前も、カノンも、ギルドももう戦える状態じゃない。それに――……」


 〝白絵〟が一瞬だけ振り向いた。


 「今のお前達じゃ、僕に傷一つつけることすらできないんだからね」


 ――ゾクッッッ……! その暗い微笑みに俺の心臓が跳ねた。


 「バイバイ、タツタ」


 そして、〝白絵〟は再びそっぽを向いて、暗い森の奥へと歩き出した。


 「次会うときはもう少し強くなっておくれよ」


 ……それだけ言って、〝白絵〟の姿は暗い森の奥へと消えた。


 「……」


 俺はそれを見送ることしかできなかった。


 ――ぽっ……。天から一粒の滴が落ちた。


 ……そして、少しの間も無く視界が雨に呑み込まれる。


 「……」

 「……タツタくん」


 カノンが怪訝そうに俺に歩み寄る。


 「……」


 ……しかし、俺はカノンの方を見ることができなかった。


 「……」


 ……灰の空。

 ……暗い森。


 ……敗北の雨は降り続けた。



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