第53話 『 オーバー・フェイズ 』
「……たった一人で勝つ」
……できるのか?
俺は自問自答した。
現状は最悪だった。
ギルドは倒れ、カノンも倒れ、ドロシーは戦力外、俺は弱い。
そして、〝鎖威〟は強い。
戦えるのは俺しかいないこの状況。はたして、俺は乗り越えられるのか?
――死。
……その一文字が頭を過った。
クソッ、絶望するな! 俺だって強くなったじゃないか!
だから、戦うんだ。戦わないと皆〝鎖威〟に殺されちまうんだぞ。
「……ちくしょう」
……どうしてだよ。
「……動けよ」
……何で足が動かないんだ。
俺は臆病者だ。本当に情けない。
今まで格上と戦ったときと何も変わっちゃいない。
〝からす〟との戦いでは逃げの一手。
カノンとの戦いではフレイの力を借りて初めて勝てた。
〝おにぐも〟との戦いでは運良く謎の力が目覚めた。
確かに今もフレイが俺の〝SOC〟に憑依している。
しかし、それを含めても俺と〝白絵〟・〝鎖威〟との力の差は歴然だった。
――俺は弱い。
……ああ、悔しいなぁ。
「 居るんだろ、タツタ 」
……〝白絵〟に名前を呼ばれ、俺は肩をビクッと跳ねさせる。
「コソコソと覗き見なんてつまらないことはやめなよ」
〝白絵〟が度々見せた残虐な笑みを浮かべる。
「どの道、皆死ぬんだから」
「――」
……それは嫌だ。俺はこれ以上、大切なものを失うなんて真っ平御免だ。
「いつでも掛かってきなよ」
――〝白絵〟がこっちの方を見た。
「 返り討ちにしてやるから 」
――ドンッッッ……! 俺の目と鼻の先に巨大な錨付きの鎖が落ちた。
「……!?」
……冷や汗が頬を伝った。
「刃を抜けよ、タツタ」
〝白絵〟の底の見えない真黒の瞳が俺を捉えた。
「次は当てるよ♪」
その威圧感に心臓が握り潰される錯覚に陥る。
「 それとも 」
……ジャラッ、鎖が動く音が聴こえた。
「 仲間が死なないと戦えないのかい? 」
……カノンの手足や首に鎖が絡まった。
「やめろ……!」
「 やめない♪ 」
――ギシッ、カノンの手足や首に巻きついている鎖が締まった。
「グアアァァァァァァァァァァァァッッッ……!」
……カノンの悲鳴が暗い森の中に響き渡る。
「幾らでも叫べ、幾らでも呻け、カノン=スカーレット」
〝白絵〟が諭すようにカノンを笑う。
「そして、恨むがいいよ。僕と無力なタツタをね」
「やめろォォォォォォォォッッッ……!」
俺の叫びとは裏腹に、鎖の束縛は更に強くなる。
「カノンから離れろォォォォォォォォォォ……!」
――俺は〝鎖威〟に向かって飛び出した。
「 遅いな 」
――死角から飛び出した鎖の鞭が俺の土手っ腹に叩きつけられた。
「ぐがっ……!」
激痛が走る。しかし、俺は体勢を立て直して、着地した。
「 上だ 」
「……はっ?」
――ガッッッッッ……! 頭上から振ってきた分銅付きの鎖が俺の頭に叩き込まれた。
「――ッッッ……!」
……脳味噌が揺れた。
(……駄目だ! 強すぎる!)
「ははっ」
すぐに立ち上がれない俺を〝白絵〟が笑った。
「そんなところで立ち止まってもいいのかな」
「……何……を?」
「 うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ……! 」
……カノンの悲痛な叫びがこだました。
「カノン……!」
「……ガッ……グガッ……!」
カノンが悲痛な悲鳴を漏らす。
「やめろ……!」
俺は叫ぶ。
「あははっ」
〝白絵〟が笑う。
「……ァ……ぅあ……ァァ……!」
カノンが苦しげに呻く。
「 やめろ 」
「はははは」
……カノンを殺さないでくれ。
「 やめろ 」
「ははははははっ」
……これ以上、俺から大切な人を奪わないでくれ。
「 やめろッッッ……! 」
ド ン
ッ
ク
……ああ、俺はどうしてこんなに弱いんだ。
「……」
――ニアが死んだ。
……レイもリンも死んだ。
……ギルドも俺を庇って倒れた。
……カノンは目の前で殺され掛けている。
ど う し て ?
――俺が弱いからだ。
「……そうだ」
……俺は弱い。
「……所詮、この世は弱肉強食」
……〝鎖威〟は強い。
「……弱者は肉となり、強者がそれを喰らう」
……だけど、カノンが死ぬなんて嫌だ。
「……俺が」
……ならばどうする?
「 俺が 」
……どう……する?
……ボッ、真黒の焔が静かに揺らめいた。




