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  第49話 『 氷の怪物 』



 「 次は右目を抉り取ろうか 」


 ――今日何度目かの絶対予告だった。


 「……どうするんだい? リン」


 〝白絵〟がリンに決断を追及した。

 自分の命か、

 母親と姉弟の命か、


 ……リンは選ばなければならなかった。


 ――選べるのか?


 リンは十歳かそこらの女の子なんだぞ。

 しかも、アクアライン一家はとても仲がいいのだ。

 そんなリンが簡単に決断できる筈がなかった。


 ……できない筈だった。


 「 やめて……! 」


 ……そう叫んだのはリンだった。


 「もう、お母さんを虐めないで!」


 リンが目元に涙の粒を浮かべながら、〝白絵〟に懇願する。


 「いいよ、ただし」


 〝白絵〟 はこれは愉快だと言わんばかりの笑みを浮かべながら本題に戻した。


 「お前の命と引き換えに――ね」

 「 いいよ 」


 ――リンが即答した。


 「あたしが死ねばお母さんとレイを殺さないんだよね」

 「うん、そうだね」


 〝白絵〟は満足げに笑った。


 「駄目よ、リン!」


 ニアが悲痛な叫びを上げた。


 「あなたが死ぬなんて絶対に駄目よ!」

 「……」


 ニアは涙を溢しながら、リンを制止した。


 「生きて帰るのよ、皆で」


 「 じゃあ、どうしたらいいの……! 」


 ……リンが叫んだ。


 「〝白絵〟さんは凄く強くて勝てない!」


 それはとても辛そうな顔をしていた。


 「お母さんやレイには死んでほしくない!」


 リンの感情が爆発した。


 「……どうすれば……いいの」


 リンが泣き崩れる。


 「……あたし……死にたくないよ」


 ……ああ、なんて残酷なんだ。


 「……家に帰って、皆で晩御飯を食べたいよ」


 ……リンは普通の女の子なんだぞ。


 「……生き……たいよ」


 ……簡単に死を決断できる筈がないじゃないか。


 「 別れ話は済んだかい? 」


 ……〝白絵〟がリンのこめかみにピストルの形を作った人差し指を当てていた。


 「……………………はい」


 リンは静かに頷いた。


 「駄目よ、リン……!」


 ニアが悲痛な叫びを上げるも、リンは俯いたままであった。


 「やめろっ、〝白絵〟……!」


 俺も叫ぶ。しかし、現状は何も変わらない。


 「 3 」


 ……〝白絵〟が静かにカウントを始めた。


 「家は貧乏だし、お母さんは怒ると怖くて、お父さんはつまらないギャグしか言わなくて、レイは生意気だったけど!」


 そのとき、リンがニアとレイの方を真っ直ぐに見つめて叫んだ。


 「 2 」


 「あたし、そんな家族が大好きだった! あの家に生まれて良かった! ……だから!」


 「 1 」


 「 ありがとう! 生んでくれて、家族でいてくれて、本当にありがとう! 」


 「 あ 」


 ……そこで、〝白絵〟が突然カウントを一旦止めた。


 「リン、一つ言い忘れてたけど――あれ、嘘だよ」

 「……えっ?」


 〝白絵〟が残虐な笑みを浮かべた。


 「僕はニア=アクアライン、レイ=アクアライン、リン=アクアライン……誰一人として生かして帰すつもりはないってこと♪」





 ……はっ?


 「そっ、そんなの聞いてません!」


 リンが〝白絵〟に詰め寄った。その瞬間――……。



 「 BANG 」



 ――リンのこめかみが撃ち抜かれた。


 「――」


 ……理解できなかった。

 リンの身体は地面に倒れ込んだ。


 「……あっ」


 リンの頭部から鮮血がどくどくと噴き出していた。


 「……リン?」


 ニアがリンの名前を呼んだ。


 「……」


 しかし、リンは沈黙したままであった。


 「……リ……ン……?」

 「……」


 ……沈黙。


 「……っ」


 ニアがリンに駆け寄り、残った左腕で抱き抱えた。


 「……リンッ!」

 「……」


 ……しかし、リンは動かない。


 「リン……!」

 「……」


 ……動――かない。


 そりゃあそうだ。リンは死んだんだ。

 死人は動かない。

 死人は喋らない。

 死人は甦らない。


 ……皆逃れようなく。


 「……………………あっ」


 ニアがリンの亡骸を前に崩れ落ちた。


 そ の と き だ 。


 ……冷気が吹き抜けたのだ。


 「……?」


 俺は白い冷気を目で追い、発生源を探した。

 そして、それはすぐに見つかった。


 「 コロシテヤル 」


 ……ニアだった。リンの亡骸を前に俯くニアから白い冷気が吹き出していた。


 「……リン、ごめん。少し寒いけど」


 ――ニアの身体が変化した。


 「 我慢しててね 」


 氷がニアの身体を這い、失われた手足を氷で形作るだけでなく、全身に氷がまとわりついた。

 そして、それは完成した。


 「……ほう、土壇場で覚醒したね」


 〝白絵〟が愉しげに笑った。




     クリスタル     デーモン




 ……氷の怪物がそこにはいた。



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