第48話 『 ジェノサイド・ゲーム 』
「 殺すよ、レイ=アクアライン、リン=アクアライン 」
――それは絶対予告。
「 絶対に♪ 」
……絶対に避けられない運命だ。
「……させないわよ」
ニアがレイとリンの前に出て構える。
「この子たちには指一本触れさせないわ……!」
――ズアァッッッッッッッッッッッ……! ニアの膨大な魔力が爆発的に吹き出した。
……何て魔力だ。傍にいるだけで冷や汗が噴き出してくるぞ。
そうだ、確かに〝白絵〟は俺たちよりも遥かに強い。しかし、今の俺たちにはニアがいる。
そう、〝四大賢者〟の一人――ニア=アクアラインがいるのだ。
「 ふーん 」
……しかし、〝白絵〟の声は俺たちのすぐ傍から聴こえた。
『……!?』
……〝白絵〟はリンの目の前に立ち、その頭を撫でていた。
「悪いけど、もう触れちゃっているよ」
……見えなかった。
……反応できなかった。
気づいたときには既に〝白絵〟がリンの目の前にいたのだ。
「リンから離れろォ……!」
ニアの回し蹴りが〝白絵〟目掛けて繰り出される。
「怒るなよ、ニア=アクアライン」
〝白絵〟はその蹴りを受け止めた。
――しかし、
……ニアの攻撃はこれで終わりではない。
零 凍 世 界
――〝白絵〟が一瞬にして氷結した。
「 残念 」
……しかし、氷結は間髪容れずに解除された。
「 僕の〝White‐Canvas〟は完全無欠 」
氷結を解除した 〝白絵〟は動揺するニアの額に人差し指を当てた。
「 一片の死角も在りはしない 」
――ニアが遥か数メートル吹っ飛ばされた。
しかし、ニアは空中で体勢を直し、靴底を磨り減らしながらも着地し、静止した。
「……化け物め」
ニアが〝白絵〟を睨み付けて、苦しげな表情で毒づく。
「 リン 」
一方、〝白絵〟がリンを呼び掛けた。
「僕とゲームしないかい?」
「……ゲーム?」
「リン……! そいつと話しちゃ駄目よっ!」
ニアが二人の間に割り込むも〝白絵〟はお構い無しに話を進める。
「そう、ゲーム♪」
「その口を閉じろ! 〝白絵〟……!」
氷 龍 天 華
――巨大な氷の龍が〝白絵〟に襲い掛かる。
「 うるさいよ 」
――パリイィィィン! 〝氷龍天華〟が粉々に砕け散った。
「……!?」
……あの〝四大賢者〟の一人であるニアさんがまるで相手にされていなかった。
「ルールは簡単だ」
そのときになって、初めて〝白絵〟がニアの方へと意識を向けた。
――バキィッ……! 〝白絵〟が見た、それだけでニアの右腕折れた。
「――ッッッッッッ……!」
ニアが声にならない悲鳴を上げた。
「これから僕がお前の母親の身体を少しずつ壊していく」
〝白絵〟の声に喜色も冷徹さも無い。ただ、飄々としていた。
「ニアが死んだら、次はレイの身体を破壊する」
リンの顔が目に見えて真っ青になっていた。
「 だけど 」
〝白絵〟はリンに笑い掛ける。
「お前が死ねば、ニアとレイを見逃してやるよ」
「……っ」
リンが〝白絵〟の言葉に目を見開いた。
「 さあ 」
……〝白絵〟が笑う。
「 選べ 」
……笑う。
「 よ 」
――ニアの折れた右腕が消し飛んだ。
「――ッッッッッッ……!」
ニアが悶え苦しんだ。
「どうせもう使えないし邪魔だから消しといたよ」
〝白絵〟は眉一つ動かすことなくニアをいたぶる。
「次は――脚かな」
〝白絵〟が絶望的な状況下に膝を着くリンの方を見た。
「さあ、どうするんだい? リン=アクアライン」
……ふざけんなよ。
まだ、十歳かそこらの女の子になんて残酷な選択を迫るんだ。
もういい、格上がなんだ。目の前にいる相手は俺の出会った奴の中でぶっちぎりの糞野郎だ。
そんな奴を許していいのか? いや、許せないよな。
ならばすることは一つだろ?
「 戦え 」
そうだ、だから動けよ俺の足。
「……」
……畜生。何で動かないんだよ。
「教えてあげようか、タツタ」
〝白絵〟が俺の心を透視していた。
「今、お前やお前の仲間には束縛の呪いが掛けられているんだ」
……だから動けないんだよ。と〝白絵〟が嗤った。
「……動け」
……動かない。
「動けよ」
……動かない。
「今動かないとニアやレイ・リンが死んじまうんだぞ」
……動かない。
「 動けよ……! 」
……動――かない。
「……」
――無力。
……俺は無力だった。
〝白絵〟や〝鎖威〟に敵わないだけならまだしも、戦うことすら許されないのか。
……畜生。
「……ちく……しょう」
「 ふざけんな……! 」
……その声はニアから発せられたものであった。
「……リン、絶対に死のうなんて考えるんじゃないわよ」
ニアは右腕を失いながらも立ち上がった。
氷 龍 天 華
――ニアが再び〝氷龍天華〟を発動した。しかも、たった一体ではなかった。
「 ×10 」
……計十体の〝氷龍〟が〝白絵〟に襲い掛かった。
「……大丈夫」
ニアが優しげに笑った。
「 わたしが皆を守るから 」
――超炸裂! 十体もの〝氷龍〟が〝白絵〟を呑み込み、大地に巨大な氷の華を咲かせた。
「……やった、か?」
あの〝白絵〟をやったのか?
〝氷龍天華〟×10の威力はそう思わせるほどのものであった。
「……」
……冷気漂う森に沈黙が流れる。
………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………勝ったのか?
「 何度も言わせないでくれよ 」
――〝白絵〟の声が聴こえた。
「 僕の〝White‐Canvas〟は完全無欠 」
……ああ、駄目だ。絶望してしまう。
「 一片の死角も在りはしない 」
――斬ッッッ……。ニアの左脚が一刀両断された。
「 とね♪ 」
ニアの身体が地に落ちる。
――その途端に巨大な氷の華が粉々に砕け散った。
……氷の結晶が天から降り注ぐ。場違いだがとても綺麗だと思った。
「 さてと 」
……足音が聴こえてくる。
……氷の結晶が降り注ぐ中、人影が一つ、歩み寄る。
……誰? 決まっているだろう。
「 次は右目を抉り取ろうか 」
……魔王、〝白絵〟が傷一つ無く、俺たちの前に現れた。