第42話 『 ドロシー=ローレンス 』
「 どうか、私をタツタ様の旅の仲間に入れてくだされませんか? 」
……〝極黒の侵略者〟を支配する修行をしていた俺の下へやって来た美少女メイドさん――ドロシー=ローレンスは出会って早々にそう申し出た。
「……えっ? 何で?」
俺の口から咄嗟に出た言葉はそんな気の抜けたものであった。
「……それは言わなければいけませんか?」
俺の咄嗟の疑問にドロシーが表情を曇らせる。
「いや、別に無理にとは言わないけど、仲間になるのなら聞きたいことだったから」
「……」
ドロシーが顎に指を当てて、思考していた。
「申し訳御座いません」
ドロシーが頭を下げる。
「詳しくは話せませんが、私には魔王様と戦わなければならない理由があります、なので、私をタツタ様の仲間に入れて下さい……!」
ドロシーが深々と更に深く頭を下げた。
「 いいよ 」
……ドロシーの深いお辞儀とは正反対に俺の返答は極めて淡泊なものであった。
「……えっ?」
これには流石のドロシーも戸惑いを隠せないのか、顔に困惑の色を浮かべていた。
「だから、仲間になるんだろ。別に構わないぞ」
なので、俺は更に念を押した。
「……えっ?」
「何だよ、何が不満なんだよ」
ドロシーのリアクションが「……えっ?」の一辺倒であった為、俺は逆に疑問系で返す。
「いえっ、嬉しいのですが……ただ、ここまで簡単に見ず知らずの私を仲間に加えて下さるとは思ってもいなかったので」
……なるほど。ドロシーの疑問も納得のものである。
自称元魔王専属メイドで、
尚且つ、自身の身の内を言えないという不審さ、
何より、まるで戦力になるようには見えない。
……ドロシーの同行を断る理由にはどれも充分なものであった。
し か し 、
……俺はドロシーを引き入れることを即決した。それは何故なのか?
理由は単純明快――ドロシーが美少女だったからだ。
俺、空上龍太は23歳、童貞である。
そんな俺が美少女の申し出を断れる筈があるのだろうか? いや、ありはしないだろう。
……しかも、巨乳だぞ!
……更に、メイドさんだぞ!
一個あれば充分なのに萌え要素三連発だ、これを断る由は無いだろう。
とはいえ、純日本人な俺にそんなアメリカのスクールコメディの俳優みたいな軽口が叩ける筈もなく、取り敢えず、それらしい理由を並べなくてはならない。
「〝白絵〟は自分の部下を俺の懐へ差し向け、そいつに寝首を掻かせるような狡い真似をするような奴じゃないし、そんなまどろっこしいことをしなくたって俺を殺すことなんてわけないさ」
……しかも、あいつは何やら俺を殺そうとはしていないようであった。いや、寧ろ俺に――いや、これはあくまで推測に過ぎないな。
「それにな」
……俺は更に一言付け加える。
「目の前で雨の中の捨て犬のような目をした奴を見捨てられるほどに俺の面の皮は厚くないんだよ」
俺はいい奴じゃないし、聖人のように優しい奴でもない。ただ、人並みの道徳心を持ち合わせただけの凡人だ。だが、今回は偶然、その人並みの道徳心に引っ掛かっただけなのさ。
「まあ、そんな深く気にすんなよ。少なくとも俺はお前を歓迎するよ」
そう言って、俺はドロシーに右手を差し出した。
「よろしくな」
ドロシーは少し考えて、いつも通りの朗らかな笑顔に戻った。うん、やっぱりドロシーはこの顔が一番だな。
「はい♡ こちらこそ♡」
ドロシーは俺の差し出した手を取って、しっかりと握り締めた。
勿論、ドロシーの過去や仲間になろうとした理由が気にならない筈がないが、それはもっと互いに信頼関係を築いてからでも遅くはないだろう。
……まあ、何にしてもだ。
俺たちのパーティーに美少女メイドさん――ドロシー=ローレンスが新たに加わったのであった。
――ガサッ
……しかし、俺もドロシーもそのときは気づくことができなかった――俺たちの姿を、木陰から覗いている何者かの存在に……。