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 第1.5話 『 格好いい人 』



 「 タツタさん、緑スライムのところてんはどうですか? 」



 ……アークの捜索をしていた筈の俺とギルドであるが、何故かところてんを食べていた……てか、西洋風の街並みなのにところてんって色々ゴチャゴチャし過ぎじゃないか。


 「……うまっ! あと、少しピリッとしてわさびっぽい!」


 ……まあ、腹が減っては戦はできないと言うし、多少はね。

 ちなみに、今、俺たちが居るのはスライム料理専門店であった。


 「あの、タツタさんの赤スライム仕立てのカレーを一口戴いてもよろしいでしょうか」

 「おう、構わないぞ」


 ――パクッ、俺の了承をもらったギルドが赤スライム仕立てのカレーを一口食べた。


 「辛っ……!」

 「……でも?」

 「美味ですー☆」


 そう、赤スライム仕立てのカレーはかなり辛い。だが、その辛さの先に極上の旨味が口の中に流れ込んでくるのだ。


 「ちなみに、赤スライムはスパイシーな辛味、緑スライムは薬味的なピリ辛、黄スライムは酸味、青スライムが甘味、黒スライムが苦味で、橙スライムは滋養増強・精力アップ・桃スライムは媚薬の原料に使われています」


 ……媚薬? 今度ギルドに食わせてみようかな? ぐへへ。

 ↑クズ。

 てか、俺たちはいつまで食レポしているのだろうか。


 「いやぁ、スライム料理専門店は大陸でも数が少ないので久し振りに食べたんですが、どれも美味しいですねー」

 「そうだな」


 まっ、ギルドが楽しそうで何よりだな……ちなみに俺は無一文なのでギルドの奢りだが。


 「次はどこに行くんだ?」

 「そうですねー」


 ギルドは緑スライムのところてんを口に運びながら考える。

 ごくんっ、ギルドは緑スライムのところてんを呑み込んだ。


 「取り敢えず東の大通りから西の大通りまで横断したいと思います」

 「よし、じゃあこれ食ったら行こうぜ」


 それから俺とギルドは緑スライムのところてんと赤スライムのカレーライスを平らげ、勘定を済ませてアークの捜索を再開した。


↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓


 「……見つかりませんでしたね」


 ……夕暮れ。街中を捜し回ったギルドが溜め息を溢した。


 「……だな。もう、この街を出ちまったのかもしれないな」

 「……そうですね」


 俺もギルドも街の中央にある噴水に腰掛けていた。


 「今日は疲れたし、この辺で打ち切らないか」

 「……そうですね」


 一日中歩いてたので脚が疲れを覚えていた。

 正直、俺はアークの捜索に飽きていた。

 確かに、介抱してくれたギルドには感謝しているし、お礼もしたいという気持ちも嘘ではない。

 しかし、元来ニートな俺には根性というものが欠如しており、捜索三時間くらいで集中力を完全に切らしていた。


 「明日、また明日捜そうぜ」

 「……そうですね」


 俺の提案にもアークは上の空であった。


 (……余程、妹に執心しているようだな)


 ……俺にも弟がいるがあまり仲は良くなかったので、ギルドの気持ちはよくわからなかった。


 「……面倒くせぇな」


 俺はギルドに聴こえないようにボソッと呟いた。


 「……」


 ……ギルドはキョロキョロしながらアークを捜索する。


 ……俺は大きな欠伸を吐き出す。


 ……ギルドはただひたすらにアークを捜索する。


 ……俺は捜している振りをする。


 「 いました 」


 ……何が?


 「 アークがいました 」


 「マジか」


 俺は咄嗟にギルドの視線の先を追ったが、人混みが酷すぎてどれがアークなのかわからなかった。

 だが、実姉のギルドが見間違える筈が無いだろう……面倒臭いが走った方が良さそうだ。

 俺達は立ち上がり、人混みの中に飛び込む。


 「いるか! ギルド!」

 「わかりません! 人混みが多すぎます!」


 俺とギルドは人混みを掻き分けて前進する。

 しかし、人混みをやがて落ち着き、視界が徐々に開ける。


 「……………………見つけました!」

 「ほんとか!」


 確かに今なら俺にもわかった。

 50メートル先にギルド似の後ろ姿を俺は見つけた。


 「急ぎましょう!」

 「ああっ!」


 俺とギルドは通行人をかわしながら前進した。


 ……あと――30メートル!


 ……あと――20メートル!


 ……あと――10メートル!



 「 おっと、黒魔女様に何か用かな? 」



 ――突然の黒スーツの大男が俺達の前を遮った。


 ……大男? いや、違う! 黒スーツの男の顔は――太陽であった。


 (……被り物?)


 「 あらあら、身の程知らずな子ネズミが二匹♪ 」


 ……遅れてもう一人、今度は三日月の被り物をしたナイトドレスの女が現れた。


 「……おいおい、仮装パーティーかよ」


 俺は目の前の光景に思わず溜め息が溢れる。


 「あのっ、そこを退いてください!」

 「コ・ト・ワ・ル♡」


 三日月の被り物の女が即答する。


 「ワタシはMr.サニー」

 「ワタシはMs.ムーン」

 「二人」

 「合わせて」


 「「 黒魔女様のボディーガードだよ 」」


 Mr.サニーが笑う、Ms.ムーンも笑う。


 「……何だコイツら」

 「気をつけてください、タツタさん」

 「ギルド?」


 ふと、ギルドの方に目をやると、神妙な面持ちのギルドがそこにはいた。


 「ふざけていても魔王軍No.2の護衛……あの二人強いですよ」


 ……マジで。


 「そんじゃあ、気合い入れて戦うか」

 「えっ! タツタさん、戦えるんですか? まだLv.1なのに……!」


 ……無駄に血気盛んな俺にギルドが突っ込んだ。

 しかし、ギルドは気になることを言ったな。


 「……てか、Lv.1? そんなのどこに書いてんだよ」

 「頭の上です!」


 俺はギルドの言う通り上を見上げた……ホントだ、確かにLv.1って文字が煙みたいに揺らめいていた。


 「ふーん」


 俺はLv.1と書かれた文字にギルドから借りたペンで〝00〟を書き加えて、〝Lv.100〟にした。


 「ありなの……!」


 ギルドが突っ込み、それと同時にテレーテッテッテーーー♪ とレベルアップのラッパが鳴り響いた。


 「ありみたいだ」

 「嘘ォッ……!」


 こうして、俺は一日にしてLv.99上げてLv.100になった。


 「よしっ、準備万端だな!」

 「……確かにLv.100になりましたけど……これでいいのでしょうか」


 ……ぶつぶつぼやくギルドを他所に、俺は黒魔女の護衛二人と対峙する。


 「作戦会議は終わったかい?」

 「お陰さまでな」


 俺は目が覚めたとき、既に腰に据えられていた片手剣に手を伸ばした。


 「むーん?」

 「やる気かな?」


 当然だ。


 「やる気しかねェんだよ……!」


 先手必勝! 俺は片手剣を抜刀して、二人に斬り掛かった。

 しかし、二人はニヤニヤ笑って回避すらしなかった。

 舐めるなよ!

 そして、後悔しろ!


 「この俺を侮ったことをな……!」



 ――斬撃一閃。振り下ろした刃がMr.サニーの肩に炸裂した。



 「 日日日ヒヒヒ……♪ 」


 しかし、


 「 !? 」


 ……Mr.サニーは生きていた。


 「……嘘だろ?」


 それどころか出血すらしていなかった。


 「 君、弱いね♪ 」



 ――Mr.サニーの前蹴りが俺の土手っ腹に炸裂した。



 「ーーかはっ……!」


 全身に激痛が走った。俺の身体は吹っ飛び、地面を転がり、やがて静止した。


 「……なん……で?」


 ……効いていないんだよ。

 俺はLv.100で、今の一撃は全力全開で、Mr.サニーはガードすらしていなかったのにだ。


 「日日日、何も不思議なことはないよ♪」


 Mr.サニーが地面に横たわる俺を嘲笑う。


 「君が弱いから……それも飛びっきりにね♪」


 ……俺が弱い?


 「確かに君はLv.100になった」


 だけど、とMs.ムーンも嘲笑う。


 「だけど、魔力も身体能力も何一つ変わってはいない。ただの見・せ・か・け♡」

 「……」


 ……嘘だろ。さっきの俺、格好悪すぎじゃないか。


 「 ほら♪ 」


 Mr.サニーが俺の目の前にいて、既に脚を振り上げていた。


 「 よそ見厳禁だよ 」


 「……っ!」


 Mr.サニーが俺の顔面目掛けて蹴りを繰り出す。


 ……ヤバい、当たる!



 ――ガッッッ……! 鈍い音が響いた。



 「……?」


 しかし、俺の身体は至って無事であった。


 「……お怪我はありませんか、タツタさん」


 ――ギルドだった。ギルドが俺とMr.サニーとの間に割り込み、魔法の杖でMr.サニーの蹴りを受け止めていたのだ。


 「……あっ、ああ」

 「ここから先はわたしに任せてください」


 ――バキッッッ……! ギルドは杖を棒術のように回し、Mr.サニーの足を弾き、空いた鳩尾に柄を叩き込む。


 「……ぐっ!」


 これには堪らずMr.サニーも吹っ飛ばされる。


 「それにイライラもするでしょう」


 ……ギルドの冷たい眼差しが黒魔女護衛隊を貫いた。


 「姉妹の感動的な再開に水を差されれば、ね」


 ギルドが杖を構える。


 黒魔女護衛隊の二人も構える。


 「行きますよ」

 「「いつでもどうぞ♪」」


 ……一瞬の静寂。



 ――最初に動いたのはギルドであった。



 「皆さん! ここから離れてください……!」


 ――ギルドが杖を天にかざして、詠唱を始める。


 「空を裂き、

  闇を裂け。

  幾千の光弓よ、

  地を這う愚者に

  天なる罰を与えよ」


 ギルドの頭上に金色で巨大な魔方陣が浮かび上がった。そして――……。


 「おや?」

 「むーん?」



 サテラ り イト・ ぐ ライト の ニング 



 ――魔方陣から幾千の光の槍が、Mr.サニーとMs.ムーン目掛けて、一挙に降り注いだ。


 光の槍は絶え間なく降り注ぎ、Mr.サニーとMs.ムーンを呑み込む。


 「……すげぇ」


 思わず感嘆の声を漏らしてしまう。

 そして、光の槍は止み、粉塵が舞い上がり、静寂が訪れた。


 「……お前すげェな」


 俺は恐る恐るギルドのレベルを見た。



 ――Lv.225



 ……Lv.100がMAXじゃないんだ。


 「でも、これなら奴らに勝てるだろ」


 ……やった……のか? ――そんな期待はすぐに裏切られる。



 「 むーん、中々やるじゃない 」



 ……粉塵の中から声が聴こえた。


 「日日日っ、ワタシたちも本気を出そうかい」


 そして、粉塵が晴れる。


 ……巨大な太陽の盾と満月の盾がそこにはあった。


 「じゃあ」


 盾が静かに消え、Mr.サニーとMs.ムーンが姿を見せる。


 「今度はこっちの」


 動いたのは――……。



 「 バン♪ 」



 ――Ms.ムーンであった。


 同時、六つの三日月形のブーメランがギルド目掛けて撃ち出された。


 「 〝三日月クレセントオブ舞踏会ワルツ〟 」


 Ms.ムーンがニヤリと笑う。


 「……くっ」


 しかし、ギルドも何もしない訳ではない。

 一つ、二つ、三つ……六つと三日月形のブーメランを全てかわした。


 「やった……!」


 「 いや、殺るのはこれからだよ 」



 ――Mr.サニーがギルドの真横にいた。


 「……っ!」



 ……更にMr.サニーは右手をギルドに差し出しており、手はピストルの形を作られていた。


 「ギルド! 逃げ



 「 ビッグBANGバン♡ 」



 ――轟ッッッッッ……! 大爆発がギルドを呑み込んだ。



 「ギルドーーーーーッ!」


 俺の叫び声が街に響く。その間髪容れずに――爆煙から一つの人影が飛び出した。


 「 ギルド! 」


 ……ギルドは生きていた。とはいえ、無傷とは言えなかったが。


 「 安心するにはまだ早いよ 」


 安心するのも束の間、Ms.ムーンがギルドの真上にいた。



     ハンガー     ムーン



 ――巨大な鎖付きの三日月がギルドに叩き込まれた。


 「――ッッッ!」


 ……まるで巨大ないかり。杖のガードで直撃は免れたものの、ギルドは堪らず地面に叩きつけられた。


 「……クソッ」 


 いくらギルドが強くても多勢に無勢、黒魔女の護衛二人は厳しいか。


 ……せめて、俺が戦えれば。


 ……俺が……!


 「……」


 ……俺は




 ……俺は何をしているんだ?




 (……ギルドと俺は無関係じゃねェか)


 ……一週間前に出会ったばかりの赤の他人じゃないか。

 

 ……もし、ギルドがやられたらどうする?



 ――次は俺だ。



 ……黒魔女の護衛に喧嘩を売ったギルドの仲間と見なされている俺は、コイツらに殺されてしまうのかもしれない。


 ……さっきの前蹴り、凄く痛かったな。


 ……斬られたり、刺されたりしたらもっと痛いんだろうな。


 ……ましてや死ぬような傷なんて――……。


 「……」



 ……逃げよう。



 (俺がいたって何の戦力にもならないし、ただ危険なだけじゃないか)


 ……今までだってそうじゃないか。


 ……頑張らないことと不貞腐れることだけが得意で、良いとこなんて一個もなくて、他人の為に頑張ろうなんて一ミリも考えなくて、世界のどこかの悲しいニュースを他人事のように聞き流しているエゴイスト。


 ――それが俺だ。


 ……だから逃げよう。


 ……そして、自分の身分にあった、異世界スローライフを満喫しよう。



 「 これで終わりだよ! 」



 ……甲高い声が響き渡った。


 「――っ!」


 ――巨大な鎖付きの三日月がギルドに向けられていた。


 「逃げろっ、ギルドッ……!」

 「……」


 ……満身創痍のギルドに逃げる体力は残っていなかった。


 ……駄目だ! もうギルドは助からない!



 ――ダッ、俺はギルドに背を向けて走り出した。



 ……せめて俺だけでも生き残らないと! 共倒れなんて真っ平御免だ!


 ……そうだ、誰かに助けを求めよう! きっと俺よりは力になる筈だ!


 ……誰かが助けてくれる!


 「……誰かっ」


 ……俺よりも優秀で強い誰かがギルドを助けてくれる!


 「女の子が死にそうなんだ! 誰でもいいから助けてくれ!」


 ……誰かが、誰かが助けてくれるんだ。


 「誰かっ!」


挿絵(By みてみん)


 『 もしかしたらあなたがわたしの助けになったり、わたしがあなたの助けになるかもしれません……なのでわたしはその出逢いを大切にしたいと思うのです 』

















 「 誰か 」――じゃねェだろ! クソニート……!



 ……気づいたら。


 気づいたら、俺は咄嗟にギルドを突き飛ばして、前に出ていた。


 「……えっ?」

 「一つ、思い出したよ」


 ……あーあ、折角のファンタジー生活が終わっちまう。まだやりたいことがあったんだけどな。


 「頑張らないことと不貞腐れることだけが得意で」


 ……でも、ここでギルドを見捨てたら、きっとこの先何があっても楽しくない。


 「良いとこなんて一個もなくて」


 ……だから助ける。


 「他人の為に頑張ろうなんて一ミリも考えなくて」


 ……助けるんだ!


 「世界のどこかの悲しいニュースを他人事のように聞き流しているエゴイスト」


 ……俺、そいつのことが大嫌いだったんだ。


 「もう、うんざりなんだよ!」


 俺は優しい人になりたかったんだ。


 いじめられているクラスメイトを見てみぬ振りをした、電車で老人や妊婦が立っていても誰かが席を譲るだろうと無視してきた。


 「弱さを言い訳に何もしなかった人生に後悔していたんだ……!」


 才能の無さを理由に努力すらしてこなくて、努力している人間を暑苦しいだの、自分に酔っているだの、馬鹿にしてきた。


 俺はクズだ。底辺の中の底辺だ。


 クズであることに慣れて、努力を嘲笑うようになって、クズでいることが普通になっていた。


 だけど、本当はそうじゃないだろ!


 「俺は変わりたかったんだ……!」


 強くて、


 優しくて、


 真っ直ぐな、


 「格好いい人間になりたかったんだ……!」


 ……だから、嫌いな自分を変えるなら今だと思った。


 「……ギルド、言ったよな。もしかしたら俺があんたの助けになったり、あんたが俺の助けになるかもしれない、って」


 ――今しかないんだ……!


 「 借り、返すぜ 」


 「タツタさん……!」



  次 の 瞬 間 。







 ――ドッッッッッ……! 〝錨月〟が俺に直撃した。



 血飛沫が舞う。


 土煙が舞う。


 ギルドが悲痛な叫び声を上げる。


 「日日日♪」

 「直撃♪ 直撃♪」


 一方、Mr.サニーとMs.ムーンは愉しげに笑っていた。

 気持ちはわかるよ。だって、Lv.1の雑魚ニートがいきって自殺したんだからなそりゃ笑いたくもなるさ。

 ……土煙が晴れ、やがて景色は鮮明になる。


 「……」

 「……」


 ……しかし、その笑みも消えた。


 「 なあ、ギルド 」


 ……俺が立っていたからだ。


挿絵(By みてみん)


 「 俺、格好いいかな? 」


 とはいえ、身体は既に満身創痍でとてもじゃないが戦える状態では無かった。


 「強く、なれたかな」

 「……」


 意識が飛びそうになる。だけど、何とか立っていられた。


 「格好いい人に変われたかな」

 「……はい」


 身体が張り裂けそうなほどに痛かった。

 すぐに意識が飛びそうなほどに眠かった。



 「 とっても格好いいですよ。タツタさん 」



挿絵(By みてみん)


 「ははっ、嬉しいねぇ」


 ……俺、少しは変われたんだ。



 ――ジャリッ、何かが俺の目の前に迫っていた。



 「 日日日♪ 油断大敵ィ♪ 」


 ――ドッッッ……! 強烈な前蹴りが土手っ腹に叩き込まれた。


 「――ッッッッッッ……!」

 「タツタさんっ……!」


 俺は堪らず膝を着く。


 「まだまだ♪」


 Mr.サニーに倒れそうになる俺の顔面に膝蹴りを叩き込み、間髪容れず後頭部に組んだ拳を叩き込んだ。


 「――ガッ!」


 俺は顔面から地面に叩きつけられた。


 「タツタさん……!」


 ギルドの悲痛な叫びがやけに遠くから聴こえた。


 「格好よく吼えるのもいいけど、君弱いよね♪」


 Mr.サニーが地に平伏す俺を見下ろし、嘲笑う。


 「君じゃあ、誰も守れない――誰一人としてね♪」

 「……」

 「そして、今からワタシに殺されるんだよ」


 「 うるせェーな 」


 「――」


 俺は立ち上がり、Mr.サニーとMs.ムーンを睨み付ける。


 「誰が限界だって言った?」


 俺は覚束ないながらも、ちゃんと二本の足で立っていた。


 「これは俺の体だ、これは俺の意志だ」


 身体が張り裂けそうな程に痛くて、息をするだけで肺が悲鳴を上げていた。


 「俺の限界は俺が決める、お前らなんかが勝手に決めつけてんじゃねェよ」

 「……」

 「……」


 俺の挑発的な発言に、Mr.サニーとMs.ムーンが笑みを消した。


 「わかったよ」


 Mr.サニーが小さく呟く。


 「 じゃあ、死ね 」


 ――Mr.サニーの頭上に、金色に輝く巨大な魔方陣が展開された。


 「 これが最上級光魔法にして、全てを貫く金色の閃光 」




  ジ・エンド   ・オブ・   の   ライトニング




 「タツタさん、逃げてください……!」


 ――ドンッ、俺はギルドに押されて、路地裏に転がった。


 「 ギルド! 」


 ……そう、ギルドは〝終焉の光〟の真正面に立っていた。


 「馬鹿! 死ぬぞ!」

 「わかってます……!」


 俺の罵倒にギルドは更に強い口調で返した。


 「これはわたしの問題です! タツタさんを巻き込むべきではなかったんです!」

 「ギルド……!」


 俺の制止の声はギルドに届かなかった。


 「 聞いてください、タツタさん 」


 ……何でそんなに笑っていられるんだ!


 「 タツタさんに出逢えて良かったです 」


 ……何でそんなに優しいんだ!


 「やめろ……!」


 「 本当にありがとうございました 」


 「もう何も失いたくないんだ……!」


 ……それは遠い遠い記憶。



 ――ごめんね、あなたを幸せにしてあげられなくて本当にごめんなさい



 ……俺は大切な者を失った。


 (繰り返しちゃいけないんだ! いけないんだよ……!)


 ……それなのに俺の手はギルドには届かなかった。


 「 タツタさん 」


 ――ギルドが笑った。



 「 さようなら 」



 ……駄目だ。


 ……このままじゃ、ギルドが死んでしまう。


 ……ギルドは死んじゃ駄目なんだよ!



 ――わたしはギルド=ペトロギヌスです



 ……ギルドは見ず知らずの血塗れの男を介抱して、面倒まで見てくれるようないい奴なんだ!



 ――会いたい人がいるんです



 ……叶えたいこと、やりたいことがあって、自己中で自堕落な俺なんかよりずっと上等な命なんだ!


 ……こんな簡単に失っていいものなんかじゃねェんだよ!


 「 死ね♪ 」


 ――目映い閃光が巨大な魔方陣から放たれた。


 「 嫌だ 」


 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ――……。




  ド      ン

     ク       ッ




 ――心臓が鼓動した。



 ……やっと変われたんだ!


 ……格好いい人になれたんだ!


 ……それなのにこんな結末、認められる訳ないだろ!


 俺はギルドを――……。



 「 死なせたくねェんだよ……! 」



 ――俺は飛び出した。














挿絵(By みてみん)


 ……声が聴こえた。


挿絵(By みてみん)


 ……俺の声だった。


挿絵(By みてみん)


 ……俺に拒否権は?

















 「 ねェよ 」



 ――ガッッッッッッッ……! 俺は素手で巨大な光線を弾いた。


 光線は無理矢理ベクトルねじ曲げられ、地面を抉り、建物を消し飛ばし、遥か遠くに聳え立っていた山に巨大な風穴を空けた。


 「馬鹿な! 光魔法最上級魔法――〝終焉の光〟を素手で弾くなんて……!」

 「有り得niht!」

 「……タツタさん」


 ……ここどこだ? まあ、いいやそんなこと。


 「貴様! 何者だ!」


 Mr.サニーが取り乱しながらも俺の名を問うた。


 「……俺か?」


 ……俺は血塗れのローブを投げ捨て、Mr.サニーの質問に答える。



 「 〝空門あもん〟だ 」



挿絵(By みてみん)



 ……それが俺の名前であった。



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