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  第39話 『 各々の修行 ~ギルドの場合~ 』



 「 このポンコツ魔導師ーーーッ! 」


 ……ぽこっ! キノコを投げつけられた。


 「……酷いですよ、ニアさん」


 わたしはキノコを投げつけた張本人でありニアさんに涙目で抗議する。


 「そこ、文句言わない!」


 そう怒鳴ってはぽいぽいとキノコを投げてくる……正直、やめてほしい。


 「ニアさんの説明が抽象的すぎて言っている意味がさっぱりわからないんです!」

 「師匠に口答えするなーーーッ!」


 師匠は畳み掛けるようにキノコを投げてくる……本当にやめてほしい。

 ずっと当てられるのも嫌なので、わたしはキノコを叩き落とした。

 しかし、負けじとニアさんもキノコを投げてくる。

 わたしはそれを叩き落とす。

 キノコを投げる。

 叩き落とす。

 投げる。

 叩き落とす。

 ぽいっ、バシッ、ぽいっ、バシッ、ぽいっ、バシッ、ぽいっ、バシッ、ぽいっ、バシッ……わたしたちはただひたすらにそれらを繰り返した。


 「ぜーはーぜーはー」

 「ひぃひぃ、ふぅふぅ」


 ……バテた。


 「とにかく!」


 ニアさんがビシィッとわたしを指差した。


 「日常の中で他の人にはできなくて、あなたにはできたことを探しなさい! それを突き詰めると〝特異能力〟の正体が見えてくる筈だわ!」


 ……何じゃそりゃ。


 「以上! わたしは今から寝るからあなたは引き続き〝特異能力〟を探してなさい!」

 「えぇー……」

 「つべこべ言わずに言われたことは即実行!」

 「はーい」

 「〝はい〟は一回!」


 それだけ言ってニアさんは茂みの奥へ行ってしまった。


 「……」


 一人残されたわたしは頭を抱えた。

 何故なら、わたしにしかできないことなんて何も思いつかなかったからだ。

 ……魔術はわたしよりも凄い人が沢山いるし、

 ……体力はタツタさんにすら劣るし、

 ……頭は悪くないけど凄くいいわけでもないし、

 ……容姿には少し自身があるも、超絶美人というわけでもない、

 ……手は器用な方だけど万能ってほどではない。

 自分で言うのも恥ずかしいが所謂、器用貧乏なのだ。


 「……わたしにしか……できないこと」 


 ……いかん、何だか眠くなってきたな。

 ……考えないと……早く〝特異能力〟を覚えて……強くなって……アークに謝らないと……だから、強くならないと……。


 ……………………。

 …………。

 ……。


 「……」





 ……夢を見た。


 ……それはギルドの幼い頃の記憶だ。


 「 お姉ちゃん! 」


 ……ああ、アークがわたしを呼んでいる。


 ……それはまだ、わたしが十歳の頃だ。


 ……温かな春の陽射しの下、わたしはうたた寝をしていた。


 ……庭には一つベンチが備え付けてあって、そのベンチと射し込む春の陽射しはわたしのお気に入りであった。


 「 そんなに慌ててどうしたの? 」


 ……目を覚ました十歳のわたしは、アークの頭を撫でながら優しげに笑っていた。


 「 恐い夢を見たの 」


 「 そう、それはいけないねぇ 」


 そう言って、わたしはアークを抱き締める。


 「 おまじない 」


 「 何の? 」


 「 妖精さんたちにアークを護ってくれるようお願いしたの? 」


 「 お姉ちゃんは妖精さんとお話しできるの? 」


 「 うん、お姉ちゃんは何でもできるんだよ 」


 「 ねっ、妖精さん 」


 ……夢の中のわたしが虚空を見て笑っていた。


 ……………………。

 …………。

 ……。


 「……」


 ……わたしは目を覚ました。

 目の前には満天の星空が広がっていた。

 ……いけないいけない。うっかり寝入ってしまった、身体を壊さないようにしないと。

 わたしは眠い目を擦り、立ち上がった。

 どこからか、焼き魚の良い匂いが鼻腔をくすぐった。恐らく、フレイちゃんが魚を焼いているに違いない

 ……グウゥゥゥ、お腹が鳴った。


 「……お腹……減った」


 わたしは腹部を擦りながら、一人呟いた。

 眠くなったわけではないがもう一度瞼を閉ざした。


 ……真っ暗でよくわからないけど、火の精霊であるフレイちゃんはタツタさんと〝極黒の侵略者〟の中でお喋りをしていて、タツタさんはフレイちゃんの焼いたレインボーサーモンを食べていた……絶妙の焼き具合なお陰で焼き魚はとても美味しくできていた。


 ……水の精霊である〝クリスティア〟は氷の結晶の中で眠っていた、だけど寒さは無く、不思議と水の中に潜っているような感覚がそこにはあった。


 ……雷の精霊である〝アルカマンガン〟は女王、ロゼ=サンダーバードのコレクションの一つにされている、とても窮屈そうだが大事にされていた。


 ……風の精霊である〝ウィンドベル〟は風の民と呼ばれる民族から風神の巫女として崇め奉られていた。


 ……土の精霊である〝アースジェイド〟は土人形に憑依して、一人旅を続けていた。


 ……光の精霊である〝ライトウィング〟、闇の精霊である〝ダークフォース〟は魔王城の展望台で暗黒大陸を見下ろしていた。


 ……精霊王は――〝むかで〟と呼ばれる男に同行していた。


 ……それ以外の大精霊や妖精も笑ったり、泣いたり、飛んだり、走ったりと各々で生きていた。



 ……あれ?



 ――わたしはふと疑問に思った。


 何でわたしは精霊の居場所……というよりその精霊が見ているものや触れている感触がわかるんだろう?

 そういえば他に、同じことをしている人をみたことが無かった。


 「……………………あっ」


 ……そこでわたしは思い出した。


 ――日常の中で他の人にはできなくて、あなたにはできたことを探しなさい! それを突き詰めると〝特異能力〟の正体が見えてくる筈だわ!


 ……これがニアさんが言っていた、他の人にはできなくて、わたしにはできたこと――なのかな。


 「だとするならば、わたしの〝特異能力〟は精霊と感覚をシンクロさせる能力、もしくはそれに類した能力なのかな」


 もし前者であれば、これ以上の修行は必要無いが、後者であれば更なる追究が必要と言えよう。


 「さあて」


 わたしは立ち上がって、お尻に着いた土や草を叩いて落とした。

 修行を再開しよう。でも――……。


 「まずは腹ごしらえ、続きはその後にしますか」



 ……フレイちゃん特製のレインボーサーモンの塩焼きを食べてからでも遅くはない筈だ。


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