第446話 『 ありがとう 』
神 衝
崩 星
――力と力の真っ向勝負。
(絶対に敗けられないんだよっ……!)
皆が信じてくれたんだ!
皆が託してくれたんだ!
(だから、死んでも勝つ……!)
刃を握れ!
歯を食いしばれ!
「ォォォォォォォォォォォォッッッ……!」
押せ! 押し斬れ!
ここで頑張んなくていつ頑張んだよ!
(……この二年間)
何度も敗けた。
大切な人も何人も失った。
その度に無力さに打ちひしがれたし、自分の弱さを呪った。
――もう十分だろッッッ!
この世界に来る前に母さんを死なせた。
前の世界から異世界へ逃げてきた。
沢山失った。
沢山敗けた。
――俺は勝ちたい!
もう、何も失いたくないんだ!
もう、誰かが傷けたくないんだ!
――それなのに!
どうして?
何で?
(――俺が押されてる?)
重いっ……!
押し潰されるっ……!
「 悪いな、空上龍太 」
……敗け……る?
「 俺の勝ちだ 」
――轟ッッッッッッッッッッッッッッッッッッ……! 俺の身体は〝崩星〟に呑み込まれた。
「 何ともあらへんやろ 」
――〝額〟の声が聞こえた、気がした。
俺の身体も、〝空門〟も、〝崩星〟に呑み込まれた筈なのに無事であった。
(……これは〝箱庭〟の無敵化?)
過去に苦汁を舐めさせられた力、それが今、俺の命を繋いだ。
――繋がった。
……希望の糸はまだ切れていない。
「――ありがとな、〝額〟」
「気張れな、タツタくん。最後の一踏ん張りやで」
行ける! 後一歩だ!
後一歩なら!
「 空龍心剣流抜刀奥義 」
天 浄 天 華
――気合いで行けるッッッ……!
刃 摩 一 条
――〝崩星〟が一刀両断された。
「――っ」
「ブラドールッ……!」
俺は〝空門〟を手離し、そのままブラドールに殴り掛かる。
これが最後の一撃だ。
「俺はお前に散々振り回されたし、心の底からぶん殴りたいと思ってるけどよ」
「――くっ」
ブラドールも力の限り拳を振り抜く。
「でも、言わせてくれ」
俺はブラドールの拳をかわす。
「あんたのお陰で皆と出逢えたし、あんたのお陰で俺は変われた――だからっ」
その拳は空を切る。
その拳は真っ直ぐに目標へと突き進む。
「 ありがとうな 」
――ゴッッッッッッッッッッッッッッッッッッ……!
鈍くて、低い音が鳴り響く。
それは長く険しい戦いの終わりを告げる。
……まさに、終戦にゴングであった。




