第444話 『 一人じゃない 』
「……ギルド? 何で?」
……俺は自分の耳を疑った。
「〝拒世〟」
俺の質問に答えるよりも先にギルドが〝空門〟から姿を出し、実体化する。
「すみません、ウィンちゃんが解除されるまで出てこれなかったんです」
「いや、そういうことじゃなくて、いつからいたんだよ」
「今日の朝からずっと入ってましたよ」
……全く気づかなかった。
「わたしの〝精霊生転〟は自身を精霊に変えれるので、ずっと〝空門〟さんの中に憑依していたんです」
「〝空門〟、何で言わなかったんだよ」
『面白そうだったから』
……コッ、コイツらめ。
「まあ、ありがとな」
お陰でまだ希望は繋がった。
「……あれ、タツタさん泣いてます?」
「泣いてねェよっ」
……情けないこと少し泣いてしまった。
「 敵前で会話とは、随分余裕そうだな 」
――無数の隕石が俺達を包囲していた。
「――っ」
「大丈夫ですよ、タツタさん」
「 〝圧殺〟 」
――轟ッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ……! 隕石が落下し、周囲一帯に灼熱の爆風が吹き抜けた。
「……あれ? 何ともない?」
……というか真っ暗であった。
「〝とぐろ〟――解除」
聞き覚えのある声と共に暗闇は崩れ落ち、視界が鮮明になる。
「あまりに騒々しいから様子を見に来たが、随分と手こずっているようだな」
「〝むかで〟……!」
予想外の増援に俺はすっとんきょうな声を漏らす。
「……何で〝むかで〟が?」
「勘違いをするなよ、俺は俺の利の為にここまで来た」
〝むかで〟は俺達の前に立ち、ブラドールと対峙する。
「……随分と丸くなったじゃねェか、この恩知らずが」
「黙れ、俺は最初から楪だけの味方だ」
睨み合う二人、威圧感で空気が震える。
「タツタ」
「何だよ」
〝むかで〟は視線をこちらへ向けずに話し掛けてくる。
「俺が時間を稼ぐ。お前はさっさとその馬鹿を起こせ」
……なんて頼もしい背中なのだろう。
「数が要る、俺達だけでは奴には勝てない」
……これが〝むかで〟。
……これが俺の憧れた背中であった。
「ああっ、任せろっ!」
〝むかで〟はブラドールに立ち向かい、俺は龍二の肩を揺する。
「起きろ、龍二っ! お前の力が必要なんだっ!」
「……んっ」
龍二は顔をしかめながらも目を覚ます。
「……ここは?」
「今はそれ所じゃないんだ! 悪いが今すぐ俺の言う魔法を創造してくれ!」
寝起きで捲し立てる俺に龍二は戸惑うも、すぐに状況を理解する。
――〝むかで〟が俺達のすぐ横に吹っ飛ばされ、地面を転がった。
「〝むかで〟っ!」
「心配無用だ、それより急いでくれ」
〝むかで〟は血塗れになりながらも立ち上がる。
「……後何秒要るんだ?」
「十秒で行ける!」
「了解だ」
〝むかで〟の頭上には〝蟲麟〟がとぐろを巻いていた。
「行け――〝蟲麟〟」
〝むかで〟の声と共に〝蟲麟〟がブラドールに襲い掛かる。
「だから、無駄だと言った筈だ」
消 滅
――〝蟲麟〟が一瞬で霧散した。
「神の力は絶対
――疾ッッッ……! 黒い矢がブラドールの脳天に飛来する。
「……」
ブラドールは容易くそれを掴み取る。
「……何だ、これは?」
「タツタ、お待たせ……!」
俺達の後ろに沢山の人影が並ぶ。
「夜凪っ!」
そう、黒い矢の持ち主は夜凪であった。
「まったく、勝手にお嬢を連れ出しやがって」
「そもそも独りで行くなんて、わたし怒ってるんですからっ」
「〝白絵〟様、ご無事ですかっ!」
『キューッ!』
ギガルド・フレイ・アーク・フゥもいた。
「数が増えた所で力の差は歴然だ」
剣 の 雨
視界を多い尽くす程の無数の剣が降り注ぐ。
深 海 領 域
――潰ッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ……! 全ての剣が見えない力に押し潰される。
業 火 水 龍 弾
――轟ッッッッッッッッッッッッ……! 間髪容れず、灼熱の弾丸がブラドールに炸裂した。
「お前らも来てくれたのか!」
「親友のピンチなんだ、当たり前だろ」
「まあ、暇だったからね♪」
……カノンと〝しゃち〟も颯爽と駆け付けてきた。
そう、俺が龍二に頼んだ魔法は仲間を集める魔法なんかじゃない。
生者も、
死者も、
味方も、
敵も、
今まで出逢ってきた奴等の中で、俺の力になりたいと思った奴を集める魔法だ。
「タツタくん!」
「タツタさん!」
ドロシー! クリス!
「元気にしてたかな、タツタくん」
「久し振りだね、愛弟子よ」
ニア! カグラ!
「ははっ、楽しそうな戦場だね♪」
「まさか、今一度神を殴れるチャンスとは、ああ、神に感謝しよう!」
グレゴリウス! ジェノス!
「あの頃の借りを返しに来たよ、タツタくん!」
「ギルドさんのピンチと聞いて駆けつけたよ♪」
「ふむ、氷城での戦い以来だねぇ」
〝四泉〟の皆!
「やあ、船では世話になったね」
「俺の獲物は何処にいるんだ!」
キッドさんにドイル!
「お久し振りです、タツタさん」
「あんた、〝空門〟様の身体ちゃんと返さなきゃただじゃ置かないんだからね!」
〝空龍〟の皆!
「〝むかで〟様ー、〝さそり〟ただ今参りましたー!」
「おっ、カラアゲタツタも久し振りだな」
〝KOSMOS〟!
「神に喧嘩とか、自分ほんまにオモロイなぁ」
「〝白絵〟様、地獄の底から帰ってきました」
〝魔将十絵〟!
「お久し振りッス、タツタくん♪」
『力を貸しに来たぞ、カラアゲタツタ』
クルツェ! 〝LOKI〟!
「……こんなに来てくれたのか」
壮観な光景に俺は息を呑む。
(……馬鹿野郎、少し泣きたくなっちまったじゃねェか)
神に喧嘩を売る。こんな馬鹿げたことにこんなに沢山の人が集まってくれたのだ。これが嬉しくない筈がなかった。
俺は一人じゃない、一人じゃないんだ!
守りたい人がいる! 支えてくれる人がいる!
沢山の糸が集まって、絡み合って、一つの大きな力になる!
――これこそが人間の力なんだ……!
「 ブラドール=ヴァン=リローテッドッッッ……! 」
俺は咆哮し、ブラドールを真っ直ぐ見つめた。
「見たか! これが人間の力だ! お前が見下して、馬鹿にした人間の底力だ……!」
静寂の中、俺の声だけが響き渡る。
「決着をつけるぞ、ブラドール! 俺とお前の喧嘩なんかじゃねェ!」
俺はブラドールに拳を突き出す。
「 人間と因果の因縁にだッッッ……! 」
今まで振り回された苛立ちも、
踏みにじられた怒りも、
……今、この瞬間が清算の時であった。




