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 第443話 『 空龍の剣 』



 「……〝必殺必中アポロンの矢〟が、ハズレた?」


 ……初めてブラドールが動揺した。


 「……有り得ない、何をした?」


 「大したことは何もしていないさ、ただ風を操って矢の軌道をねじ曲げた」


 「……」


 俺の回答にブラドールは満足していなかった。


 「そして、〝ステージ形態・フォー〟を発動したんだ」


 「〝ステージ形態・フォー〟だとっ!」


 俺の回答にブラドールは驚愕した。


 「それこそ有り得ない! この世界の〝特異能力スキル〟は〝ステージ形態・スリー〟まで存在しない! 俺がそう設定したからだ!」


 「 おかしいな 」


 俺は不敵に笑んだ。


 「現に俺は今、あんたの前で発動しているんだぜ――〝ステージ形態・フォー〟をなっ……!」



     ブラック     ブレイク



 「これが俺の〝神域突破オーバーヘブン〟、闇を祓う力だ……!」


 存在しない筈の〝第4形態〟、俺は最後の一ヶ月で習得したのだ。


 「聞け、因果王っ!」


 俺は〝空門〟の切っ先をブラドールに向け、啖呵を切る。


 「人間おれたちは毎日一歩ずつ前に進んでいる! その意志や可能性は神の想像だって超えられる!」


 ……〝創造主クリエイター〟の思い通りにならない〝創造物キャラクター〟なんて、創作物の中で幾らでも見てきた。


 俺達は〝創造物キャラクター〟であっても、人形なんかじゃない。


 自分の意思で歩いている。


 自分の意思で生きている。


 全部、選択してここまで生きてきたんだ。


 そこに神の意思なんて何処にも有りはしない。


 今日まで頑張ってきたのも俺だ、ギルドが好きだって言ってくれたのも俺だ、他の誰でもない。



 「 人間、嘗めんじゃねェぞ……! 」



 ――俺は空上龍太なんだよ!



 「……」


 「……誇れ、空上龍太」


 ブラドールが嘆息し、前髪を掻き分ける。


 「お前は俺にとって初めて脅威となった人間だ」



 ――その鋭い眼光が俺達を射抜く。



 「――」


 目を逸らした訳ではない。


 瞬きをした訳でもない。



 ――トンッ……。ブラドールは既に俺達の前に立っていた。



 「まずは一人」



 ――ゴッッッッッッッッッッッッッ……! 龍二の土手っ腹にブラドールの拳がめり込んだ。



 「――かはッ!」


 「龍二ッッッ……!」


 龍二は堪らず吹っ飛ばされ、礫て粉塵を撒き散らしながら地面を滑走した。


 「よくも龍二をッッッ……!」


 俺はブラドールに殴り掛かる。


 (――うっ、動かねェ!)


 「金縛りだ」


 ……俺の身体はぴくりとも動かなかっ



 ――ゴッッッッッッッッッッ……! ブラドールの鉄拳が顔面に炸裂した。



 揺   る

   れ   。


 脳が揺   る

     れ   。


 「――ッッッッッッ……!」


 俺は地面を何度もバウンドし、龍二の隣まで転がる。


 「……っ」


 何て威力だ、たった一発で足元がふらつきやがる。


 「龍二っ! 大丈夫か、龍二っ!」


 「……」


 龍二は既に気を失っていた。俺との戦闘のダメージもあるのだ、無理もないであろう。


 (……あいつ、龍二を先に潰しやがった)


 恐らく、ブラドールは厄介な〝white‐canvas〟を先に潰たかったのだ。


 (……恐らく、奴の〝全知全能オール・トゥ・オール〟は〝white‐canvas〟レベルまで弱体化している)


 〝全知全能オール・トゥ・オール〟と〝white‐canvas〟は似た能力だが、違いもある。


 一つ、奴の力は〝特異能力スキル〟ではない為、〝特異能力スキル〟無効系の能力に干渉されないこと。


 一つ、奴の力は〝white‐canvas〟とは違い、脳内キャンバスを経由する必要がないこと。


 (そして、最も大きな違い。それは――……)



 ――〝絶対性〟だ。



 (〝white‐canvas〟は思い描いたことを実現する力だが、〝全知全能オール・トゥ・オール〟は思い描いたことを〝絶対〟に実現する力だ)


 ――故に上位互換。今まで〝white‐canvas〟が打ち消されたのはそのせいであった。


 (しかし、奴の〝全知全能〟は今、〝絶対性〟を失っている)


 理由は〝ステージ形態・フォー〟の存在にある。


 〝絶対〟に存在しない筈の〝ステージ形態・フォー〟が存在するということは、奴の〝絶対〟は〝絶対〟ではないということの証明になる。


 〝絶対性〟の無い〝全知全能オール・トゥ・オール〟は出力で言えば〝white‐canvas〟と変わらなくなるのだ。


 (だから、先に龍二を潰した)


 恐らく、龍二が目を覚ませば〝white‐canvas〟が使えるようになっている筈であった。


 「龍二、起きろ! お前が起きれば勝機はあるぞ!」

 「……」


 俺は龍二を起こそうとするが、龍二は目を覚まさなかった。


 (思っていたよりも衰弱している! このままだと目を覚ますどころか最悪死んじ

             ま

              う



 ――潰ッッッッッッッッッッッッッッッッッッ……! 超重力が俺を俺を押し潰した。



 「勝手はさせんぞ、空上龍太」

 「……くっ」


 俺は龍二に覆い被さり、押し潰す超重力から龍二を庇う。


 (……何て重さだ!)


 その斥力は凄まじく、俺達の周りだげ、地面が陥没していた。


 「耐えるか、だったら重力――千倍だ」



 ――潰ッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ……! 更に重力が増した。



 「龍二! 起きてくれ! 早く起きてくれッッッ!」

 「……」


 まだか、まだ起きないのか!


 まずい、もう腕が、体が限界だ!


 「龍二ッッッ……!」


 「 重力 」


 「龍二ッッッッッッ……!」


 「 二千倍 」




 ――潰ッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ……!!!




 ……地面が耐えきれずに割れ、俺と龍二はそのまま奈落の底まで叩きつけられた。


 崩れ落ちる大地が俺達を押し潰す。


 俺は龍二を抱えたまま守りきる。


 (――重力が戻ってる!)


 俺達を押し潰していた重力は解除されていた。


 「まだ、やれるっ……!」


 降り注ぐ岩石を凪ぎ払い、地割れよじ登り、龍二を抱えて地上へ這い上がる。


 「ほう、生きていたか」


 ブラドールが感心するように呟く。


 「悪いな、しぶとさだけが取り柄なもんでよ」


 ……しかし、既に俺の身体は満身創痍であった。


 (……頭、クラクラしやがる……足も力が入らねェ)


 ……あ……れ?


 (……地面?)


 ……何で……地面が近づいてきてるんだ?



 ――俺の身体は地面の上に落ちた。



 「やはり、限界か。寧ろよくもったものだよ」


 「……っ」


 言い返そうにも声が出なかった。その気力も残っていなかった。


 (……まだだ……まだやれるっ)


 しかし、身体はその意思に付いてこれなかった。

 惨めに地面に横たわるだけで、拳の一つも握れなかった。


 「……」


 隣でウィンも力無く倒れていた。


 (……ウィンの体力も尽きて、〝憑依抜刀〟も解除されていたか)


   限   界   。


 (……なのか?)


 ここまでなのか?

 俺の今までの努力は無駄だったのか?


 「お前との戦い、確かに少しは楽しめたよ」


 ブラドールが俺達に手をかざす。


 「残念だが、ここまでだ」


 龍二は気を失ったまま。


 ウィンも戦闘不能。


 俺も限界を迎えた。


 (……すまない、ギルド)


 俺はここにはいないギルドに心中で謝った。


 (……こんなことなら……別れの言葉くらい言っておけば良かったな)


 ……そして、俺は静かに己の死を受け入れた。















  ホー   リー   の   ベル




 ……温かな光が俺の体を包み込んだ。


 ……次第に身体は軽くなり、痛みも退いていく。



 「 昔、言いましたよね、タツタさん 」



 ……聞き覚えのある声であった。


 「わたしはタツタさんを守る〝盾〟になると」


 ……その声は〝空門〟の方から聞こえてくる。


 「わたしはタツタさんの〝剣〟となって共に戦うと」


 ……その声は何度も俺に勇気をくれた。


 「 わたしはあなたの〝剣〟――いえ 」


 ……その声は何度も俺を奮い立たせてくれた。




 「 〝空龍の剣〟です 」




 ……ギルド=ペトロギヌスの声であった。


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